この週末は、マスターも店を休むつもりだったそうだ。
ところが、冬子さんや加藤のおじいちゃんの強い要望で店を開けた。
店には、ヤマさんから買った大き目の空気清浄機が設置されている。
カウンターには、除菌スプレーが置かれ、開け放った窓からは、桜の花びらが、風に乗って舞い込んできている。
それぞれの席はできるだけ離して座っている。
ヤマさんの姿はない。
小さな町の電気屋なんてコロナでつぶれちゃうと言うヤマさんの予想がはずれ、此のところ、仕事が忙しいらしい。
週末の外出規制が掛かったせいで、家にいる事の多くなったお客さんからの注文が増えたそうだ。
空気清浄機、エアコン、パソコン、テレビ、布団乾燥機からコーヒーメーカーまで注文が、殺到しているという。
分からないものね、冬子さんが呟く。
マスターの店みたいな飲食関係は、コロナのせいで、にっちもさっちもいかないところが多いっていうのね・・・。
うちの店の入っているビルも全館閉店してますよ。
久実さんがため息まじりに、服飾や雑貨なんて必需品ってわけじゃないですからねと追従する。
マスターがみんなのため息を一掃するように、美味しいコーヒーが、入りましたよと声を掛けた。