気にしなくて良いんじゃない?  255

2024-08-03 15:59:28 | 小説

伊達さんが、久実さんに、話しかけている。

新しい職場の同僚の食事の誘いを断ってから、人間関係が、ぎくしゃくしているのだという。

「気にしなくてよいんじゃない?」久実さんは、いとも簡単に、言ってのける。

二人の会話を聞いていたマスターも、「気の合わない人と食事に行ったって、美味しくないよ」と、同感してる。

久し振りに、この店に来て良かったと、伊達さんは、つくづく思う。

もちろん、自分の頑な性格が、禍いしていることも、分かっている。

でも、この店の人たちは、ごちゃごち言わずに、誰もが、すんなり受け入れてくれる。

ご意見番の加藤のおじいちゃんや、冬子さんは、時には、厳しいことを言ったりするけど、暖かく見守ってくれるし、久実さんや、椿さんは、お姉さん的な立場で、アドバイスしてくれるし、渚や、航は元の職場の後輩達だし、今の職場が、きつい時には、マスターのいるこの店が、唯一の救いだ。

「私も、アルハンブラにいた時、後から入って、店長になったんで、色々、嫌みを言われたり、仕事を頼んでも、断られたり、嫌な思いをしたけど、今は、何もかも一人でやっているから、大変は、大変だけど、やりがいもあるよね」と、久実さん。カウンター席に座る二人の前に、マスターが、温かいココアを、置いてくれた。

こんな暑い日に、冷房の効いた店で、ココアを飲むなんて、凄い贅沢だよと、マスターが、ボソッと呟いた。

 

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