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読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

鹿島田真希著「来たれ、野球部」 

2011-11-07 | か行
頭脳・容姿・運動神経の三拍子揃った「選ばれし」学園の野球部エース喜多義孝と、幼馴染みの目立たない「ふつうの」宮村奈緒。
「私はあなたのご褒美になりたい」・・・学園のヒーロー、完全無欠の野球部員がひたすら恋するのは、幼馴染の女子高生の奈緒なのだ。しかし、10年前に自殺した女子高生の一冊の日記を読むことになったことがきっかけに喜多は異変をきたす。
学園ラブストリーなんて表紙に騙されました。クラスの担任で野球部のコーチと音楽教師の小百合の4人称で展開されるが相手を思いやるが故に、自分の本心を押し隠してしまい、その結果すれ違いが生じたり、そのすれ違いが決定的な訣別にとか・・・読み方が足りないのかまったく何を訴えたかったのかわからなかった。
恋愛と自殺が対になった世界像、自殺者2名未遂1名、後味の悪い青春物語、この音楽教師は教育者としては失格だ。
『たとえ生きていて、いい事がなくても、なにかを発見すること,取りあえず絶望を延期して、明日一日を多く生きてみようと思う』(P220)
2011年9月 講談社刊
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神山裕右著「炎の放浪者」

2011-10-19 | か行
著者は2004年「カタコンベ」で江戸川乱歩賞受賞を史上最年少で受賞1980年愛知県生まれ。
物語の舞台は14世紀初頭、端麗王フィリップ四世が統治するフランス。イスラム教徒の父の血が半分混じるパリに暮らす鍛冶屋ジェラールは、ある日突然、妻と共に投獄される。無実の罪を訴える彼に王の腹心が出した解放の条件は、神殿(テンプル)騎士団逮捕直前に失踪した、一人の神殿騎士を探し出して捕らえろというものだった。
身重の妻マルグリットを人質に取れれたジェラールは妻を救う一心で理不尽な申し出を受け入れ、わずかな手がかりを頼りに、お目付け役に付けられたピエールという従騎士と共に謎の騎士を追う旅に出る。
あまり日本では馴染みのないしかも中世ヨーロッパの歴史のなかに題材をとった慟哭のサスペンス。
当時のキリスト教を巡る社会情勢や宗教生活が説明されて入るが理解し難い部分もあるが、後半剣を交えての戦いシーンが多く結末は悲しい。
「大切なのは生まれや身分ではない。自分の意志で生きて、満足のいく死を迎えることだ。」(P408)

2011年9月 講談社刊
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海堂尊著「モルフェウスの領域」

2011-10-05 | か行
凍眠(コールドスリープ)の医療を題材とした近未来SF小説。
モルフェウスはギリシャ神話の眠りの神のこと。
主人公の日比野涼子は桜宮市にある未来医学探究センターで、東城大学医学部から委託された資料整理の傍ら、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年・佐々木アツシの生命維持を担当していた。
アツシは網膜芽腫が再発し両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために五年前に“凍眠”を選んだのだ。
しかし、2015年に少年が目覚める際に重大な問題が立ちはだかることに気づいた涼子は、彼を守るための戦いを開始するのだが。・・・
続編の『アクアマリンの神殿』が中日新聞夕刊他で連載中で愛読中だがこの作品を読んでアツシの今までの経緯が理解できた。
前半理論的な話しがくどく読み進めにくいが、謎めいて魅力的な涼子やコールドスリープ技術の開発者西野、「凍眠八則」提唱の曾根崎伸一郎教授など登城人物の個性が面白く、また高階院長や田口医師などのいつもの面々が登場し海堂ワールドが楽しめるなどそれなりに楽しめる。
睡眠学習の効果が絶大の印象を受けたがそれが可能なら現実世界でも試してみたいですね。
「希望や欲望や心情を把握して接近すれば、人間なんて思うがまま。・・・
人は誰しも自分の本当の望みはわかっていない。だからそれを適切に理解して、正しい方向に導いてくれる相手に依存する。
そして依存はいつしか被支配への願望に変容していく。」(P116)

2010年12月角川書店刊
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樹林伸著「クラウド」

2011-10-01 | か行
インターネット時代の手軽なコミュニケーション・ツール、ツイートの「友達の輪」にひそむ絶対孤独と犯罪を絡めたミステリー小説。
主人公は玉木つぐみ5年前に短大生として上京し就職3年目のOL、先輩社員と不倫の関係に陥り、社内でうわさを流されるのに耐えられなくなって出社拒否症になった。
一人住まいの部屋に閉じこもりノートパソコンで繋がったネット世界のTwitter「140字のツイート(つぶやき・さえずり)」にどっぷりと浸かる生活に。
何気なくつぶやいた一言に、見知らぬ誰かから返事がくる。『一人と書いて、カズトと読むんです。』男か女かもわからないカズトと短い言葉を交わしていくうちに、つぐみは閉ざされた心の中に何かが満たされてゆくのを感じていた。やがて、元彼・長瀬との辛い恋や仕打ちを打ち明けるまでに心を開いたつぐみだったが、その数日後、長瀬が何者かによって殺される。
「もう、大丈夫だよ、つぐみ。長瀬はもう二度と現れない」――まさか、カズトが犯人なのか・・・。
リアルの世界でストーカーに狙われたのにネットの世界でも同様の被害を受けるつぐみ。
カズトは優秀なハッカーなのか、警察のコンピュータ犯罪捜査官も翻弄されるのだが・・・。
コンピュータ依存症ともいえるヴァーチャル世界の「自由」の魅力に
自分も一歩誤ればこの主人公と同じ情報世界の住人になる可能性に、・・・改めて自戒。

2011年3月幻冬舎刊
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海堂尊著『ブレイズメス1990』

2011-06-27 | か行
おなじみの大学病院を舞台にシリーズ。研修医・世良の物語を描いた『ブラックペアン1988』の2年後を描いた続編。
1990年4月国際学会に出席する垣谷に同伴してフランスのニースに降り立った世良。
世良には佐伯院長から学会に出席する心臓外科医・天城雪彦にメッセージを届けるという特命を帯びていた。
しかし天城は学会をドタキャンし会場には現れず、天城を探しにカジノに足を運んだ世良は天城を見つける。
メッセージは佐伯の構想である心臓手術専門の病院建設のため総合外科学教室に招聘する旨のものだった。天城の手技ダイレクト・アナストモーシス(直接吻合法)に引き込まれた世良は特命を果たすため、天城とのギャンブルの末に天城を説得することに成功する。
東城大学医学部に招聘された天城は、心臓手術専門の病院「スリジエ・ハートセンター」の着手を表明し、高階をはじめとした医師達と険悪な雰囲気となるが、世良は佐伯の命で天城の身の回りの世話役となる。
非現実的スケールで話が展開されるがテンポもよく面白かった。
他シリーズとリンクしているので海堂作品をよく読んでいる人には楽しめるのでは現役医師が書いた医療作品群の一つ。

2010年7月 講談社刊
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小杉健治著「保 身」

2011-06-04 | か行
法廷や裁判物が多い著者の始めての警察小説。舞台は東京近郊のF県。
雨の夜、殺人犯の男が殺人現場のマンションから逃走するときに偶然目撃したのは、キャリアの県警幹部が飲酒運転の上犯した轢き逃げ事故だった。
県警側は以前から三つの不祥事が重なりこれ以上の不祥事を嫌い、その県警幹部を庇い、殺人事件の捜査すらも、捻じ曲げようと画策する。
『警察官の重要な使命は、県民の生命・財産を守り犯罪を撲滅することだ。
それとともに最も重要なこと、それは組織を守ること。』(P162)
女性絞殺事件と轢き逃げ事件。まったく無関係だったはずのふたつの事件が、運命の悪戯で複雑に絡みあっていく展開。
保身を考える県警上層部と、本当にそれでいいか悩み続ける現場の葛藤が描かれる。
守るべきは、正義か組織か。
獲物を狩る狼として誇り高く生きていくのか、それとも目を閉じ耳を塞ぎ歯車として安隠な生活を送るのか。
犯罪の全貌を知った刑事の懊悩と決断に自分ならどうするかと自問した物語でした。

2011年2月双葉社刊
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木下 半太 著「六本木ヒルズの天使 」

2011-05-02 | か行
「東京バッティングセンター」の続編、吸血鬼コンビが復讐屋となって登場する。
「突然理不尽に命を奪われた人々がモンスターになるんだ」(P232)未練を残したまま殺害され私を殺したのは誰だ?何のために殺されたの?殺されたはずなのに、モンスターとなって復活した者達、人魚、フランケンシュタイン、狼男、ゾンビ、河童等の復讐の手伝いをするというストーリーの6つの短編連作。
「東京湾の人魚」として蘇った詩歩のもとに、復讐屋を名乗る吸血鬼コンビが現れる。
―あなたを殺した犯人を見つけ、復讐をしましょう。吾輩たちが手を貸します。
―吸血鬼コンビは一緒に、真犯人を見つけていく。そして意外な事実を突き付けられたモンスターたちは、はたしてどんな復讐をはたすのか。
表題作「六本木ヒルズの天使」では死にたがっている人を殺してあげる人間「天野」と彼等復讐屋が対決それは、彼等にとっても「何の為に復讐をしているのだろうか」とアイデンティティが崩壊する場面。
そこからもう一度彼等がいかに再生していくのかの展開。
読んでいて恨みの虚しさを感じたこの手の小説は余り好みではない。

2011年3月幻冬舎刊
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木下半太著「オーシティ」

2011-04-13 | か行
舞台は近未来の浪花大阪。負債が膨れ上がり財政破綻した揚句カジノ導入で世界一のカジノタウンとなり今では凶悪犯罪の件数がうなぎ登りに増え続け外人から「オーシティ」と呼ばれているのだ。
金の臭いでむせ返るこの町で、絵本探偵・羽田誠は謎のターゲット“耳”を追うはめに。
タイムリミットは3日。人質は自分のタマタマ?。
どうやら「耳」を預ったのは中国人の不法滞在の娼婦小蘭らしい。 
優しい目の極悪刑事や、しゃべくり続ける夫婦の殺し屋、超人的な聴覚を持つ盲目の娘麦子などが入り乱れ・・・。
大混乱の嘘つきゲームが終わった時最後に残るのは果たして誰だ?
説明に「突然に襲う爆笑と涙、意外性の嵐に油断は大敵。100%規格外の超速クライムサスペンス誕生!」とあるが笑いの壺は人それぞれだからムチャクチャ荒唐無稽のこんなぶっ飛び世界もうけるかも。
5人の視点で展開されるが何度もあなたにとって『何が一番怖い?』と質問がなされるのがミソ。
登場人物がイメージしやすいように表紙にイラストがあるので便利だが、どこか似た顔の・・・。(笑)

2011年2月新潮社刊
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鏑木 蓮著「見えない鎖」

2011-03-10 | か行
幼いころ神戸の震災にも遭遇した小学生の時母に捨てられ母は疾走した。
警備員をして短大まで行かしてくれて一人で育てくれた父と二人三脚で生きていたのにゴールデンウィーク直前父親が刺殺された。
ショックを受けた有子だったが父の勤務先の元刑事の社長の応援を得て刺殺事件の真相を探り始める。
やがて、犯人らしい男の自殺や、父が警備していた建設現場でのトラブルが浮上し、その時の事故現場から消えた青年いたことなどが解り始める。
そしてやっと見つけた母との再会。
犯人は分かっていて世間的に事件は解決したことになりますが、遺族としては、なぜ殺されてしまったかという事情が分からないと納得がいかないものなのでしょう。
鎖のように繋がる怒りと悲しみ。
そして好きになってはいけない人への叶わぬ恋。
人間が持つ“業”に翻弄されながら、一人の女子短大生有子は事件を通じて自らの道を歩き始める。
登場人物が思い描けるように丁寧に描かれています。
この本のテーマは「法では人は救われない」ということなのか。
母はどうして父を捨てたのか?---
今までずっと疑問に思っていたことが父親が殺されて父の人間関係を見つめなおした時解ってくる。
題名の見えないものに縛られていること、その鎖を解いてみたら、全ての謎が解けていた。神戸の震災のことをもっと絡めたら面白くなったと思うのだが、最後まで面白く読めた。

『自立することです。自分の足で歩いて、生きていくことが基本になる。』
『私は逃げない・・・自分が変らんと、何も変わらへん。
いくら居場所を変えても同じなんよ。・・・自分の立っているこの場所を、一番幸福なところにしないといけないんだ。」(P301)


2010年12月潮出版社刊
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海堂尊著「マドンナ・ヴェルデ」

2011-02-10 | か行
『ジーン・ワルツ』http://blog.goo.ne.jp/sky7dddd/e/b031474da3d4fe6cdc2fe829028b6b58と同じ時系列で、視点を変えて書れた小説ですので読んでから読むほうが楽しめるようです。
主人公は、55歳、三十三年ぶりに妊娠する山咲みどり。
みどりの目線で描かれた、妊娠から出産までの過程を描いています。
舞台はマリアクリニックでここの三枝茉莉亜院長は末期の肺がんに侵されており、余命わずか、みどりの娘の曽根崎理恵は大学の医局から週1でこの病院に通っている。
ここには19歳で、子供の父親に逃げられ一人で産む決意をする青井ユミや高齢だが不妊治療の末の妊婦などが通院してきている。桜宮市に暮らす平凡な主婦、山咲みどりのもとを
ある日一人娘で産婦人科医の曾根崎理恵がおとずれる。
「ママは余計なこと考えないで、無事に赤ちゃんを産んでくれればいいの」平凡な主婦みどりは、一人娘で産科医の曾根崎理恵から驚くべき話を告げられる。
子宮を失う理恵のため、代理母として子どもを宿してほしいというのだ。
奇妙な状況を受け入れたみどりの胸に、やがて一つの疑念が芽生えはじめる。
お腹にいるのは実の孫「今の社会のルールでは代理母が本当の母親で、それはこのあたし」。だったらこの子はいったい、誰の子なの?
人工授精、代理母、中絶、奇形・・・精子と卵子の提供者に親権が無く、出産した人に親権があるって・・・医学界への問題提起、今回のテーマは代理母の親権です。
医学と母性の葛藤をせつなく激しく描いた最先端医療小説です!
読みやすい文体と展開で面白く読めました。  

2010年3月新潮社刊
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黒須紀一郎著「羊の十字架」

2010-12-19 | か行
舞台は終戦から2年がたった東京。
主人公はとび職で火消しの小頭の家柄に生まれた当時18歳の印地三郎。
ある日突然アメリカ兵のジョージ・アダムスが「先祖の話を聞きたい」と訪ねてきた。
アダムスが言うには「肥前平戸の藩主松浦静山の書いた『甲子夜話』に”羊の十字架”の話が載っていたのです。わたしは衝撃を受けました。なんと七世紀か八世紀の頃、既に日本にキリスト教が入っていたのです。ザビエルが持ち込むよりも八百年以上も前です…。」(17P)
やがて三郎は週休10$で「羊の十字架」を探す手伝いをすることに・・・。
景教・弓月国・ウラル・アルタイ回廊・古代渡来人・大本教・占い師弓月赤丸等々・・・
定説の歴史観を揺るがす荒唐無稽とも思える新歴史説を何の知識もなかった三郎の成長に合わせて解き戦後の混乱期の風情を織り込みながら物語の中で読者に説いていく。読み終わるころには日本人のルーツは古代キリスト教徒がユーラシア大陸の西からやって来たのではないか思えてくるではないか。
謎の古代豪族=秦氏の出自を辿りつつ時空を超えて、古代日本人のルーツを探りつつ日本国家の起源を探る壮大な歴史ミステリーです。


2010年11月 作品社刊
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栗田有起著「コトリトマラズ」

2010-11-19 | か行
題名の木は表紙カバーに描かれた花(目木=めぎ)小鳥も止まれない、棘のある小さな木で、春から初夏、小さく黄色い花を咲かせるのことらしい。
インテリアデザインの会社に勤める29才の華。密かな恋の相手は勤務先の50代の社長の能見だった。
社長との不倫、同じ会社の専務で妻の裕恵の病気が二人の関係を少しずつ変化させる。能見は妻の看病と、妻の不在による仕事量の増大により華と容易に会えなくなる。
華はそのことで苦しみ、また、能見の妻が病気になったのは自分のせいではないか、という罪悪感に苦しむ。
会うことのむずかしさが苦しみをもたらし、お互いの想いがすれ違う。
そんな華が思い起こすのは「母が死体にキスをした」3歳ごろの遠い日の記憶。
老いゆく母にも秘められた物語があったのかもしれないと・・・。
華との不倫を知りつつ妻が言う『社長に恋人がいるみたいなの。ずいぶん前から、そうじゃないかなっていう予感はあったの。ただ、彼は仕事を立派にはたしていたし、夫としての思いやりを忘れることもなかったから、見ないふりをしてきたの』と・・・。
『ひと組のカップルがいて、彼らのことを、彼らのいないところで、ほかのだれかが話題にしたとする。
そうすると、彼らが知りようもないその会話のなかで、ふたりの関係はたとえわずかでもちゃんと育っていると思うんだ。関係はふたりだけで築きあげるものじゃない。
彼らを知っているみんなで育んでいくものじゃないだろうか。』(189P)
『私たちに未来はない。今しかない。過去は、あってもとくに役に立たないと思う』
「高揚した」気持ち「切ない」気持ち、冷静に不倫している様子を丁寧に一途に揺れる心理を女性の立場から細やかに描いた恋愛小説 。
未来の無い不倫から未来志向になる主人公の前向きな姿勢で終る展開はよかったが男の身勝手さはもっと糾弾すべきでは・・・。
『彼は彼女と私を愛しているというよりも、じぶんを最もあいしているのだ。だから私たちのかなしみは理解できない。』(240P) 

2010年3月 集英社刊
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小杉健治著「裁判員ーもうひとつの評議」

2010-11-02 | か行
母娘殺人事件の裁判員に輸入雑貨の販売の仕事する堀川恭平は選ばれた。
被告人は、幼少のころに負った火傷の痕のためコンプレックスをもち人とうまく付き合っていけない人間だったが、殺害された女、並河留美子と出会い系サイトで知り合いやがて意気投合して付き合うことになる。
しかし女からのお金の無心が続きそれがもとでトラブルになり母娘の住む家での話し合い中の途中に憤慨して殺害したという嫌疑。
殺人事件の裁判員に選ばれた六名の男女と三人の裁判官との裁判員裁判で、被告人は自白を強要されたと無罪を主張するも、自白の事実、決定的証拠はないが状況証拠で8割がたクロとなり無罪3対有罪6の評議の結果、死刑判決が下される。
被告人は、即刻控訴したが、拘置所内で血で『むじつ』と残し自殺を図る。
一命は取り留めたものの、その衝撃は裁判員にとっては計り知れないものとなった。・・・
『死刑』・・・この判決は、本当に正しかったのか? 死刑判決にかかわった裁判員たちの葛藤や苦悩を描いた。リアルな司法ミステリーです。
「所詮裁判員裁判は白か黒かを決めるゲームだ。人選によって無罪にもなるし有罪にもなる。結局裁判員の人選によって被告人の運命が変わる。運・不運の問題だ。」(185P)
「有罪に賛成していないことを公にしたい。死刑判決に与しなかったことを知ってもらいたい。だが、それをすれば守秘義務違反に該当するかもしれない。」(189P)
「公判前整理手続に不備が・・・もっと慎重に事件の精査をされていたら、新たな事実が見つかったはずです。」(251P)
裁判のなかで冤罪の可能性があり、裁判員たち「警察の捜査の不備を、裁判員が評議の時点で気づいても、審理が終わった後では、もうどうにもできない。
・・・など裁判員制度にはこんな怖い要素が含まれているのかと不安になりました。
その不安と怖さとは、もともと市民感覚を判決に反映しようという試みが、その裁判員本人を苦悩の生活へと追いやる可能性があるということ。
自分がもし選ばれたらと興味を持ちつつ引き込まれるように読みました。
読みやすかったです。
主人公が自らも離婚問題に悩みつつこの裁判事件に正面から取り組み人生の希望を見出す展開に好感を持ちました。
同じような裁判員裁判を扱あった夏樹静子著「てのひらのメモ」とは別の視点で面白かった。
2010年4月NHK出版刊


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小林 慧著「CHANCE」

2010-10-11 | か行
NHKで8月末から放送があった藤原紀香主役の、土曜ドラマ「チャンス」の原作となった小説 。
証券業界で男性に伍して活躍していたキャリアウーマンの沙矢子が、リーマンショックで大きな挫折を味わい起死回生を懸けた仕事の大失敗でどん底に落とされた、失意のどん底で訪れた北海道。
酒に酔って極寒の夜さ迷う中貧乏牧場の馬小屋に潜り込み寝込んでしまい競走馬の血統の「ピンコ」と出会う。その馬は明日馬肉に売られる定めであったが命を助けられた運命を感じ、とっさに馬の買受を申し出る。
そして、馬の姿に癒され勇気づけられて、馬を養う為にも、もう一度人生をやり直すべく金融業界に復帰する。
投資ファンド・東京ファンドコンサルティング代表で天才的な才能と冷徹な行動力で、勝つためには手段を選ばないダーティな部分も見え隠れする藤本との対決のビジネスシーン。
馬主、共同馬主、種付け、誕生、調教、中央競馬デビュー、菊花賞、中東世界競馬、
ピンコ→ピン(後のチャンス)→バラディと競馬と金融、全く違う世界を舞台に、ストーリーは交互に深く交錯しながら意外な展開を見せる。
後半は出来すぎの展開に幸運以上のものを感じたが、諦めない大切さ命の大切さ、人間関係、人生や仲間の大切さ教えてくれる。
読み終わったときには全ての競走馬を応援したくなる物語になっていました。

2010年8月 文藝春秋 刊
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北野勇作著「どろんころんど」

2010-10-06 | か行
図書館では児童文学に分類されていて中学生以上となっているが読んでみると大人が読んでも面白いウィットに富んだSF小説になっていてた。
少女型自律式人工知能ロボットアンドロイドのアリスが長い長い長い眠りから覚めると、世界はどろんこになって人間が見当たらない。
アリスの「仕事」は人間相手に商品説明をすること。その「仕事」を全うするため、商品である亀型子守りロボット、レプリカメの「万年1号」をお供に、いなくなったヒトを探して、どろんこの世界を旅することに。
その旅の水先案内人となるのが、この泥の海に、人間がいたころの世界を再現しようとしているヒトのような形をした泥人形「ヒトデナシ」。こやつヒトデナシというだけあって少しいい加減で頼りない。
そしてその道中、次々起こる奇妙なできごとに、アリスの優秀な電子頭脳もパンク寸前。
果たしてアリスとカメの旅の行きつく先はどこなのか? そしてヒトは何故どこに消えたのか? 
けったいな、だけどもどこかやさしいヒトと世界についての物語。
読み手の想像力の無さは挿入されているイラスト絵画が補ってくれる。
アリスほどのアンドロイドを製造したヒトが消えた謎が後半明らかになるがそれは今の人類への警告か?
「世界の見方はひとつじゃない。見方を変えれば、見えなかったものも見えてくる。分かっているようで分かってない」
このSFは教えてくれる。
2010年8月福音館書店刊 鈴木志保画
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