読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

栗田有起著「コトリトマラズ」

2010-11-19 | か行
題名の木は表紙カバーに描かれた花(目木=めぎ)小鳥も止まれない、棘のある小さな木で、春から初夏、小さく黄色い花を咲かせるのことらしい。
インテリアデザインの会社に勤める29才の華。密かな恋の相手は勤務先の50代の社長の能見だった。
社長との不倫、同じ会社の専務で妻の裕恵の病気が二人の関係を少しずつ変化させる。能見は妻の看病と、妻の不在による仕事量の増大により華と容易に会えなくなる。
華はそのことで苦しみ、また、能見の妻が病気になったのは自分のせいではないか、という罪悪感に苦しむ。
会うことのむずかしさが苦しみをもたらし、お互いの想いがすれ違う。
そんな華が思い起こすのは「母が死体にキスをした」3歳ごろの遠い日の記憶。
老いゆく母にも秘められた物語があったのかもしれないと・・・。
華との不倫を知りつつ妻が言う『社長に恋人がいるみたいなの。ずいぶん前から、そうじゃないかなっていう予感はあったの。ただ、彼は仕事を立派にはたしていたし、夫としての思いやりを忘れることもなかったから、見ないふりをしてきたの』と・・・。
『ひと組のカップルがいて、彼らのことを、彼らのいないところで、ほかのだれかが話題にしたとする。
そうすると、彼らが知りようもないその会話のなかで、ふたりの関係はたとえわずかでもちゃんと育っていると思うんだ。関係はふたりだけで築きあげるものじゃない。
彼らを知っているみんなで育んでいくものじゃないだろうか。』(189P)
『私たちに未来はない。今しかない。過去は、あってもとくに役に立たないと思う』
「高揚した」気持ち「切ない」気持ち、冷静に不倫している様子を丁寧に一途に揺れる心理を女性の立場から細やかに描いた恋愛小説 。
未来の無い不倫から未来志向になる主人公の前向きな姿勢で終る展開はよかったが男の身勝手さはもっと糾弾すべきでは・・・。
『彼は彼女と私を愛しているというよりも、じぶんを最もあいしているのだ。だから私たちのかなしみは理解できない。』(240P) 

2010年3月 集英社刊

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