goo blog サービス終了のお知らせ 

読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

角幡唯介著「漂流」

2016-12-24 | か行

沖縄のマグロ漁師本村実氏の生涯に二度わたって漂流して今なお行方不明ということに惹き付けられて人間の生き方を沖縄・グアム・フィリピンにも渡って取材しノンフィクションにまとめあげた物語。奇跡の生還から8年。マグロ漁師を再び海に向かわせたものは何だったのか? 1994年冬、沖縄のマグロ漁師・本村実は、フィリピン人らと共に救命筏で37日間の漂流の後、「奇跡の生還」を遂げた。だが8年後、本村は再び出港し二度と戻らなかった。九死に一生を得たにもかかわらず、なぜ再び海に出たのかをミステリー風に掘り下げたルポドキュメント。

極楽浄土を求めて船出した補陀落僧と島の神・ウラセリクタメナウ、戦後の密貿易やダイナマイト密漁、沈没船といったキーワードとともに語られる佐良浜の郷土史・海洋文化、その風土に育まれ、何かに誘われるように海へ漕ぎだした男の後ろ姿を浮かび上がらせる。「死」と隣り合わせの「生」を自明のものとして受容する漁師たちの死生観。壮絶に生きた一人の漁師の人生に触れることが出来たスケールのでっかい物語でした。

20168月新潮社刊

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

京極夏彦著「ヒトでなし 金剛界の章」

2016-07-09 | か行
有名作家でもある京極氏の小説は今回が初めての経験。友人の是非ともという推薦で読んでみました。
心が感情が壊れてしまった男の話。理屈も倫理も因果も呑み込む。この本は、「ヒトでなし」の「ヒトでなし」による「ヒトでなし」のための
経典とある。娘を亡くし、職も失い、妻にも捨てられた。
俺は、ヒトで なしなんだそうだ。そう呟く男のもとに、一人また一人と破綻者たちが吸い寄せられてくる。
金も、暴力も、死も、罪も。主人公の回りに、IT長者になったが今は危ない筋からの借金取りに追われている高校時代の友人荻野。
大金を相続したものの人間関係に嫌気がさして自殺しようとする女塚本、ついカッとして恩人を殺してしまう頭の悪い少年鍋谷、
リストカットを繰り返す女由里、少女連続殺人犯の男日野などが現れ、「ヒトでなし」の尾田慎吾に触れ、何かを得ていく。
「ヒトを辞めたら、何になれる」かが主人公の独白と会話によって展開される。
セリフ回し会話が淡々と繰り返されて行間の空間が多いのでページは多いがサクサク読めるのだが哲学的な言い回しもあるが
仏教史観で宗教者誕生?
2015年10月新潮社刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

加藤秀行著「シェア」

2016-04-14 | か行
2015年文學界新人賞「サバイブ」と芥川賞候補の表題作2点
ベンチャー企業の社長と離婚したミワは、高層マンションの部屋を旅行者に貸し始める。
法の隙間を縫いながらの怪しげな「にわかホテル業」、いわゆる民泊だ。相棒を務めるのはベトナム人のミー。
ミーはハノイ工科大学からの国費留学生で元旦那の会社でITエンジニアとして働いていたのをナンパして共同経営者として引き入れて、
部屋の短期また貸しをネットで宿泊者を募集して「運用」しているのだ・・・。「シェア」
外資系に勤めるエリートの亮介とケーヤという二人と「主夫」として奇妙な同棲生活をする男ダイスケが主人公。
12年間続けた柔道明け暮れた生活から離れて、孤独とも空虚とも言えない何かを感じながらバーテンとしてバイト生活しながら生きています。
独特の切り取り方で「今」という名の時代を描いていて何故か新鮮な物語。・・・「サバイブ」
IT企業、シェアハウス、民泊業など今どきの話題をクールな冷めた文体でスタイリッシュな世界が描かれています。
2016年2月文藝春秋刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

梶村啓二著「惑星の岸辺」

2016-04-02 | か行
近未来SFロマン小説。宇宙飛行士・甘南備俊介が58年という長すぎる宇宙船の低体温睡眠装置の眠りから目覚めた時、
何よりも取り戻したいと願ったものは、愛する妻葵との記憶だった。
甘南備俊介は、木星衛星探査船でのミッション中、太陽面爆発による事故に遭遇する。
事故時に人工冬眠に入っていたため、58年9ヵ月後に奇跡的に救出され、地球に生還した。
姿かたちは出発時の33歳のままだが、記憶は断片的にしかなく、愛する妻はすでに14年前75歳で他界していた。
やがて国際宇宙開発機構が作成した回復訓練プログラムで、橘ムラサキという若い女性専任医務官が担当につくことになった。
橘自身がかつて事故に遭い、このプログラムの経験者であったからだ。訓練が進むうち、甘南備は橘の不思議な挙動に気付く。
橘のふとした仕草が、亡くなったはずの妻の葵のそれと重なるのだ。彼は次第に訓練の時間を心待ちにするようになるが・・・。
脳医学の細かな仕組みや科学は理解できなかったが時間と記憶と愛をめぐるSFロマンは意外と読みやすくスラスラ読めた。
誰も知っている人がいない世界に帰還した浦島太郎の気持ちに通じるものがあるが
生きるモチベーションをアップさせるのはやはり愛なのか・・・。
2015年9月講談社刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小島正樹著「浜中刑事の妄想と檄運」

2016-03-20 | か行
群馬県警捜査一課の切り札と噂される浜中康平刑事は強運で事件を次々と解決する。
しかし本人は、村の駐在所勤務を夢見てその光景を日々妄想し、手柄をたてることを望まないのだ。
彼は容疑者の境遇に同情をし、その言葉を信じるときに事件の小さな綻びに遭遇しそれがヒントになり事件を解決に導く。
「強運と悲運」のミステリ2本建て。最初に非常な犯罪が淡々とドライに描かれており読み人と、警察を両方欺くトリックが書かれている。
しかし完全犯罪あわや達成寸前で主人公浜中の強運でそれが露見する展開。
もう一つはしみじみと読んでいくと「奇想」と「不可能」が浮かび上がるというプロットの倒叙ミステリだ。
強運の浜中の推理と同僚で一緒に組む夏木刑事という役割分担が絶妙でキャラクターもしかっり描かれていて面白い警察小説だった。
2015年4月南雲堂刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

垣根涼介著「迷子の王様 君たちに明日はない5」

2016-01-15 | か行
シリーズ第5作の完結編。一時代を築いた優良企業にも、容赦なく不況が襲いかかる。
剛腕リストラ請負人・村上真介の今回のターゲットは、大手家電メーカー、老舗化粧品ブランド、
地域密着型の書店チェーン。
そして、ついには真介の働く会社の社長が会社解散の決断をし真介自身がリストラの対象に・・・。
終始雇用制度が崩れリストラが当たり前になりつつある昨今ついにこのシリーズも最終卷。
真介の今後を含め明るいラストで締めくくられ納得の物語でした。
「世間の常識に沿った意見しか持っていない者、自分の存在や考え方を疑ったことがない者には進歩がない。
変化もない。・・・世の常識と今の自分に暫時寄り添いながらも・・・自分の正しさを、そして自分の常識を常に疑い続ける者だけが、大人になってからも人間的に成長し続けることができる」(P87)
「世の中は変わっていくものでしょう・・・いくら、自分が現状のまま居たいと思っても、その世間との兼ね合いを含めてどうしても状況は変わっていく・・・だからむしろ、その事実を受け止めて今を生きるしかないんだな」(P203)
「未来は常に不確定です。そしてその分だけ、気楽です。つまりぼくたちの今は、死ぬまでずっと連続した、
一つの通過点でしかない。最終結論の場はなく、それは死ぬまで持ち越していくことですね。生き方も含めて」(P204)
2014年5月 新潮社刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鏑木蓮著「京都西陣シェアハウス~憎まれ天使・有村志穂~」

2015-05-21 | か行
京都西陣の機屋のシェアハウスには悩み多き4所帯の住人たちが住んでいた。
シェアハウスの同居人たちの触れて欲しくはない彼らの内面にどんどん踏み込み、憎まれ口を叩く
3号室の女子大生・有村志穂。
当初は無遠慮なこのお節介に拒否反応を起こしていたが、本人たちも気付かなかった謎を解きあかす。
1号室の死亡事故を起こした元自動車セールスマン家族、
4号室には不倫相手のために犯罪に走ろうとする30代のOL、
2号室の過去の恋愛を40年間妻に隠し続ける老人夫婦。
何やら志穂にも人に言えない何かがありそう。
就職面接77回不採用のお節介な女子大生・有村志穂が、固く閉していた同居人たちの
心を開き問題を克服していく人情ミステリー。終盤明かされる志穂の目的と正体。癒し系の物語でした。
2013年10月講談社刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

海道尊著「カレイドスコープの箱庭」

2015-02-26 | か行
「チーム・バチスタの栄光」から続くメディカルエンターテインメントシリーズ。カレイドスコープとは万華鏡のこと。
東城大学病院は存続の危機に立たされながらも、運営を続けていたのだが、そんな折、肺癌患者が右葉摘出手術で亡くなったのは、病理医の誤診が原因ではないかとの疑惑が浮上。
高階病院長の実態把握調査の依頼を受け田口医師は仕方なく、呼吸器外科や病理検査室などの医師や技師たちに聞き取り調査を開始する。
なぜか出世してしまう愚痴外来の元窓際講師田口&厚生労働省の変人白鳥のコンビが今回も活躍する展開。
検体取り違えか、それとも診断ミスか調査を進めると万華鏡のように、見る角度によって様々な形となって姿を現す大学病院の実態人間関係。途中から犯人の予想がついて意外性のないのが残念。
巻末に登場人物リスト&桜宮市年表&作品相関図など収録されていて、海堂ワールドの読者にとっては楽しい付録つき。

2014年3月宝島社刊

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

川辺純可著「焼け跡のユディトへ」

2015-02-05 | か行
島田荘司選 第6回 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作。
敗戦から6年、瀬戸内のある軍港都市で起こった女性連続殺人事件。
被害者には能面が被せられていた。
被害者たちを結ぶ糸、そして心揺さぶるその「動機」とは。
生き別れになった姉を探して主人公矢代信生が瀬戸内のある都市に立ち寄ります。
偶然知り合ったそこで河本家の人々と親しくなりしばらく居候として同居することになります。
やがて2人目の殺人事件の現場を見ることになり連続見立て殺人事件に巻き込まれていきます。
進駐軍の白人調査員のディツクとともに犯人捜しをすることに・・・。
題名のユディトとは『旧約聖書外典の1つである『ユディト記』に登場するユダヤ人女性のこと』で
後半その名の意味合いが明らかにされています。
戦後の混乱期の雰囲気を上手く描写しており、また犯行の動機も時代性を感じされる。
細かな伏線も上手くちりばめられており謎解きの妙に引き込まれ面白く読めました。

2014年11月原書房刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

海堂尊著「輝天炎上」

2013-12-29 | か行
田口公平&白鳥圭輔ペアが主人公の「バチスタ」シリーズの完結編「ケルベロスの肖像」とは別の「螺鈿迷宮」の主人公で医学生・天馬大吉の視点で描かれたアナザーストリー・碧翠院桜宮病院サイドの物語。
桜宮病院の全焼から1年。東城大学医学部4年生の天馬大吉は才色兼備の優等生・冷泉深雪と公衆衛生学の実習で同じグループとなりゼミの課題で「日本の死因究明制度」を調べることに取材を続けるうちにやがて制度の矛盾に気づき始める。
そして、碧翠院の跡地にAiセンターが設立され、センター長に不定愁訴外来の田口医師が任命されたことを知る。
時を同じくして、東城大への復讐を果たすためにそ碧翠院を経営していた桜宮一族の生き残りが活動を開始する。
『螺鈿迷宮』の続編、陰謀とトリックが渦巻く復讐劇の顛末、天馬くんの成長物語として懐かしく面白く読めたが、シリーズを読んでない人にはわかりにくいかも。
天馬君のそれ以後が書かれた続編を期待する。
2013年1月角川書店刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

黒野伸一著「経済特区自由村」

2013-09-07 | か行
外食産業と提携し、ブロイラー養鶏場を経営したものの、度重なる設備投資で借金まみれ。
あげく追加投資を勧めた営業マンを突き飛ばし殺めてしまったと、鈴木明男は自家用軽トラックで逃亡する。
たどり着いたのは人里離れた山奥の廃村・神山田村。昔ながらの農法で、自然と共存している素晴らしい村だった。
村の物知り・こなたばあちゃんの世話になりつつ暮らし始めた明男は、金を使わない暮らしを提唱するフリーエコノミー&エコロジー、略してFEEのリーダー・民人と出会う。
インターネットのホームページを見て都会からやってきた村人たちは彼に賛同しているようだ。
始めはFEEにやってきた村人それぞれの視点で語られ、途中からは創始者の民人の年少期からファストフード経営で名を馳せ富を得た過程が描かれる。
身分を隠し今までとは逆のFEE(フリーエコノミー&エコロジー)を目指すため、廃村で理想郷を目指すのだが・・・。
女子プロレスラーや元ヤクザなど面白いいキャラクターを配して、自給自足的な自由な村での脱マネー生活且つ無秩序空間におかれたこの共同体で展開されるまざまな人間模様は面白い。
果たして理想通りに共同体が機能するのかどうか?FEEの真の目的はと興味持ちつつ読まされたが後半意外な展開で失速気味で残念だが物語としては面白かった。

2013年7月徳間書店刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

北山猛邦著「人外境ロマンス」

2013-09-03 | か行
6つのミステリー風のほんわかしたファンタジー短編集。
何もかも理想通りで、身悶えするほどキュートな恋人なんだけど、彼の仕事ってなんだろうと疑問が・・・「かわいい狙撃手」。
冬のある日、その密室から、彼女はどうやって抜け出したのか。・・・「つめたい転校生」。
大切な恋人を急病で亡くした弓子が、アルバイト先の山奥の旅館で出会ったのは双子の兄弟・・・「うるさい双子」。
さみしい少年時代に出会ったたったひとりの友達は、人を殺す妖怪だった。・・・「いとしいくねくね」。名探偵コンビは、冷徹なエリート刑事とピンクの薔薇?・・・「はかない薔薇」。
森の中の古ぼけた洋館から夜な夜な聞こえるピアノの音色・・・「ちいさいピアニスト」。
人外と人間、人外の存在のせつない恋と謎、人間と怪したちの恋は謎めいて詩的なのだけど、不思議でせつないのだ。
「いとしいくねくね」は「○○の恩返し」?

 2013年6月角川書店刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

櫛木理宇著「赤と白」 

2013-05-21 | か行
第25回小説すばる新人賞受賞作。舞台は新潟県中越地方の街。冒頭の新聞記事で、人家で火事があり母子家庭の母親と高校生の娘の友人の二人が亡くなり娘が行方不明とあり、物語のエンディングを暗示させる。
そして、続く、何気ない女子高生たちの日常の描写。「みんな死ね、消えろ、いなくなれ」・・・
いますぐ誰かと話したかった。会話したかった。メールしたい。誰かとつながりたい。
この世界に、自分はひとりじゃないのだと思いたい。著者は、彼女たちの密やかな狂気が雪だるま式に巨大に膨張してゆく世界を緻密に描写して、不穏な雰囲気を醸し出す。少女たちが精神的に追い詰められていく様がスリリングで怖い。
特に主人公の友人の苺実ちゃんの壊れっぷりが怖面白い。両親の離婚・引きこもりの家族、臓器移植などの社会問題、大人たちの無責任な行動や発言に振り回される思春期の少女たち。家族ってやっかい。
切っても切れない 家族の見えない糸に絡まってく高校生たち。読後感は相当 悪い。
豪雪に見舞われて生活する人々の、雪による閉塞感とネガティブな展開に終始閉口した。

2013年3月 集英社刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

梶村 啓二著「使者と果実」

2013-04-10 | か行
第二次世界大戦前夜、満州ハルピン・ナチス独國のベルリン・アルゼンチンのブエノスアイレスの戦前と現在を舞台に、当時ならではの政治謀略が絡んだ、音楽と愛の物語。2004年のブエノスアイレス、勤め先の中堅商社が倒産し、同時に婚約者も失った平悠一は行きつけの酒場でチェロを弾く日本人の老人タダシと知り合う。
やがて4か月ほど付き合いが続いた後に彼が満州からベルリンを経てブエノスアイレスまで来た身の上話を聞くことに。
若き日の百済タダシは1939年のハルピンで、当時の満州国国務院外事部に勤務していた。
同じ勤務先のマゴエとも音楽好きで学生時代からの友人同士だったが、チェロを嗜むタダシが音楽学校の練習場で、満州に進出してきた倉橋醸造の社長夫人奈津と知り合い、音楽仲間の域を超えて急速に恋愛関係を深めていくことになる。当時ドイツではナチスが権勢を欲しいままにし、第三帝国の威信のためベルリン・フィルハーモーは帝国オーケストラになり、宣伝相ゲッペルスの指示で楽器の名器を集めていた。“独立”後間もない満州国と関東軍はドイツとの関係強化のため、さる伯爵家が欧州で手に入れた1730年代に制作されたチェロの名器ドメニコ・モンターニャを買い取り、これをゲッペルスに献呈する計画を立て、マゴエはベルリンまで運ぶクーリエにチェロの素養があるタダシを推挙し、奈津との関係を断たせる工作をする。
「時をさかのぼる苦痛の大きさと記憶の美しさは比例する」
「記憶とは出来事の刻印ではない。感情の刻印だ。感動がなければ記憶は生じない。深く感情が動いた経験のない人生に、真の記憶はないだろう。たとえ、それが苦悩の記憶でもわたしは記憶のある人生が欲しい。波風なく平和であっても、感情の刻印のない人生はやはり砂漠だ。」(P192)
波のたたず、砂も動かない平安は、死の平和です。わたしには愛が必要です。愛を与え、愛を与えられることが必要です。」(P193)
大戦直前の満州で対独工作を命じられた官僚の許されざる恋。理性と感情がせめぎあい、破滅に向かう苦悩と快楽の日々。
道ならぬ恋に落たち男と女の行く末は。対独工作のためのチェロ“18世紀の貴婦人・モンターニャ”は今何処に。
人々の喜びの記憶と透明な悲哀が、とともに響き合う、刹那と永遠の物語。ミステリアスでサスペンスもあり官能的なチェロの音色が聞こえてくるような恋愛小説でした。

2013年2月日本経済新聞出版社刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

垣根涼介著「勝ち逃げ女王 君たちに明日はない4」

2013-02-21 | か行
リストラ請負会社に勤務する村上真介が主人公のシリーズ4作目。今回は首切りというよりも引き止め役の苦労が書かれている日本のフラッシングシップ・キャリアのベテランキャビンアテンダントを扱った表題作含め4つの連作短編集。
真介の勤める日本ヒューマンリアウトの社長高橋の過去が語れる「ノー・エクスキューズ」。有名な楽器会社のリストラの話し「永遠のディーバ」。全店舗閉鎖のファミレスチェーンのリストラの話し「リヴ・フォー・トゥディ」。リストラという人生の岐路に立った時に見えてくるその人の人生・家族・人間関係をさりげなく描きながら考えさせてくれるこのシリーズ真介と派遣社員の川田美代子とのコンビの間が好きだ。
個人的には「永遠のディーバ」の話しが良かった。

2012年5月新潮社刊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする