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SF 界の巨匠 アーサー・C・クラークスペシャル1 『太陽系最後の日』@100分de名著

2020-04-18 13:13:23 | テレビ・動画配信
SF 界の巨匠 アーサー・C・クラークスペシャル1 『太陽系最後の日』@100分de名著
~知的好奇心が未来をつくる

出演:伊集院光、安部みちこ
指南役:作家 瀬名秀明
朗読:声優 銀河万丈

人類を救おうと人類が奮闘する『太陽系最後の日』

宇宙への好奇心は人間に備わった本性である
そう信じ続けたクラークの原点となる作品です
クラーク屈指の SF 作品を現代の視点から読み解いていきます

『2001年宇宙の旅』の原作者(驚×5000
数々の傑作を残している

今回は短編で初心者でも入りやすい作品

瀬名秀明さんは『パラサイト・イヴ』など SF 、ホラー、科学、ノンフィクションと幅広く執筆しています





Q: SF 初心者におすすめしたいということなんですよね?

クラークはSFの代表的な一人で
SF を読むということと等しい方だと言えると思います

特に海外SFの小説は割と食わず嫌いで
ちょっと難しいんじゃないかとか
共感もできないのではないかと思われる方も多いと思うんです

まずは無心に読んでもらって
僕らでも楽しめるところがたくさんあるよねっていうのを
感じてもらえればいいんじゃないかな

光:
僕らはウルトラマンで育った世代なので
SF 自体に壁はないんだけれども
クラークは偉人だということが分かっちゃってるからハードルがあるんですよね

アナ:
まったくクラークを知らなかったので
今回とても楽しく読めました
太鼓判を押します


イギリス南部の港町で誕生したクラーク




貝殻や化石を集めて遊ぶ、海が大好きな理科少年として育ちました

12歳で SF の虜となり、やがて宇宙への強い関心を持つようになります





その後、宇宙開発の素晴らしさを啓蒙する英国惑星間協会で伝道者として活躍





やがて28歳で小説家としてデビューします
戦時中にはある科学論文を書いてその名声を高めました

論文:人工衛星によって全世界の電波通信を可能にする






瀬名:
通信衛星など、今ではと地球の裏側でもテレビ中継が見られますけれども
あれも通信衛星を使っている

それらのアイデアを予言するような論文を初めて発表して
これが後々「すごい!」と言われて
「ビジョナリスト(未来予測者)」だと賞賛されるようになった

ジュール・ヴェルヌみたい



センスのいい好奇心

瀬名:
よく「好奇心を持つことは大切だ」という人はたくさんいますが
今では人工知能とか入れようと思えばできないことはない
そこにセンスのよさを入れることで
より良い未来を考えたり、読書を楽しんだりすることができるんじゃないか

光:
こどもとかはよく知りたがるけど
質問に対して「そんなバカなことを考えるより勉強しろよ」っていうやつと
「面白いとこに気づいたなあ」って言う差ですかね

アナ:
今回はスペシャルということで4つの作品を瀬名さんに選んでいただきました

瀬名:
クラークが成熟して思索を深めていく
センスのいい好奇心にどんどん移っていく過程が見られると思います
この順序で読むと SF の成熟と未来も多分見えてくるんじゃないかな
『太陽系最後の日』は、クラークが一番最初に書いた、売れた小説









朗読
一体誰の責任なのか
3日間というもの、その疑問がアルヴェロンの脳裡を去らなかった

我々は今、ある恒星に近づいており、それは新星ノヴァと化そうとしている
破滅に瀕している星系には一個の惑星があり、その3番目には文明が存在する
その悲運の種属と接触し、可能であればその成員の一部を救出するのが
我々に課せられた悲しむべき任務である


全長1マイルに及ぶ銀河調査船 S 900号
そこには様々な出自の異星人たちが乗っていました



(宇宙人可愛すぎる!!



船長は宇宙の大貴族アルヴェロン
最高度の文明と知性を誇り、銀河系の管理を担う種属の一人です

数日前、彼はある星に知的生命体が破滅の危機に瀕していることを知り
その救出を決意しました

その星とは、地球のこと
今から7時間後、太陽が新星となって爆発を起こし
壊滅が避けられないというのです

(なんかいきなりこの間見た都市伝説系の動画とリンクしてるんだけど…


アルヴェロンは到着するとすぐに2つの探検隊を派遣
4時間以内に人類を救出し、母船に戻れと命じました

地表のあらゆるものが燃え尽き、海水も沸騰し
人類の生存は絶望的と思われました





そんな時、探検隊を率いるオロストロンが
山頂に通信施設らしきものを発見して驚きます





あれが電波ステーションだとしたら
惑星間通信のために構造されたことになる

鏡の向きを見たまえ
電波を使うようになって200年しかならない種属が
宇宙空間を渡れたなんて到底信じられん
私の種属は6000年かかったんだぞ!

2足生物で、腕は2本しかない
そういうハンディキャップを負いながらも立派にやっていたようだ

目も2つしかない
後ろにもついていない限りは


果たして人類はどこにいるのか謎が深まる中
もう一つの探検隊がトンネルを発見
地底に逃げ込んだに違いないと奥へ進んで行きます





ところが事件が起きました
なんとそこは地下鉄
あっという間に列車は出発してしまったのです

しかも大陸間を走る列車
次々と駅を通過していく中、異星人達は閉じ込められたまま
地球脱出までのリミットは残り30分と迫っていました





光:
もう面白い
いろんな視点の逆転をすることでこんなに面白くできるっていう


「新星化」
太陽は光り輝く恒星です
これがだんだん老朽化して爆発が起こる

たくさんの物質を放出して、おそらく地球も飲み込んでしまうだろう
だからタイトルは『太陽系最後の日』

実はこれは日本でつけたタイトルで
原題は『レスキューパーティー(救助隊)』っていう意味なんです

読み始めた初っ端からいやおうなしに
僕らが異星人になって物語に入っていく視点の逆転があるわけです

光:
かなり何度も逆転してると思う
巨大な宇宙船に対して、地下鉄から出られなくなっちゃうとか

アナ:異星人は私達をどう捉えたんですかね 同情してたんですか?

瀬名:
未開の地にいる若い連中が
今、危機に瀕しているから
種を存続させてあげようっていう気持ち
非常にユーモラスな部分をちょくちょく挟んでくるところが
クラークの面白いところなんですよね


閉じ込められた探検隊の一人パラドー人がある脱出作戦を提案します
パラドー人は一人一人の種属が全体の一細胞に過ぎないという奇妙な異星人

彼らはどこにいても全員と意識がつながっており
母船にいる別のパラドー人を通して
アルヴェロンに自分たちの位置を伝えようというのです







作戦は見事成功
アルヴェロンが母船から特殊な装置を使って縦穴を穿ち
間一髪で脱出できたのです

しかし地球は太陽の新星化とともに消え去ってしまいました
将来有望な知的生命体の絶滅を惜しむアルヴェロンたち



(なんかネタバレする前に原作を読んでみたくなった


ところがふとした興味から
地球から発せられていた電波を特定し追跡することにします
すると1週間後、スクリーンに星雲が映りました







拡大するとそれはなんと膨大な数にのぼる人類の宇宙船団だと判明

朗読:
眼前に展開する光景を見て、全員の口から驚愕の喘ぎが一斉に漏れた

これが例の種属です
電波を使うようになって200年しかならない種属
彼らは無謀にもロケットを用いて恒星間宇宙を渡ろうとしているのです!

種属全体がこの旅に乗り出したに違いありません
何世代か後の子孫が旅を成就してくれるだろうと希望を抱いて


宇宙でも極めて若い知的生命体である人類の太陽系脱出
その勇気と行動力に異星人達は驚愕します

その後、彼らの旅を手助けすることにしたアルヴェロンでしたが
一方でこんな思いを副船長に伝えます

アルヴェロン:
私はあの連中がなんとなく怖いんだ
我々のささやかな連邦が連中のお気に召さなかったとしたらどうなる?


あの連中には礼儀を尽くしたほうがいい
結局数の上では我々のほうが優位だとしても
10億対一ぐらいの差でしかないんだから

ルーゴンは船長のちょっとしたジョークに笑い声をあげた(ジョークだったんだww

20年後、その言葉は笑い事では済まされなかった

これが最後の1文


光:
この番組で小松左京スペシャルもやったんですけど
『日本沈没』と少し響き合う気がする

小松左京スペシャル第3回 深層意識と宇宙をつなぐ@100分 de 名著


瀬名:
これは『 SF マガジン』っていう
60年前にできた日本の初めての SF 専門誌があるんですけど
その創刊号に翻訳が掲載されて小松左京さんはそれを夢中になって読んで
それからSF作家を目指したと言われています





この小説がすごく匠だと思うのは
最後に一斉に宇宙船団をバーッと見せて
実は外に向けて脱出していたんだっていうことは
「人類スゲー!」っていう気持ちにもなる
こういう小説を私は勝手に「人類スゲー小説」って言っていますがw

光:
地球人としての誇りみたいなものをくすぐりながら
主人公してのビビリみたいなものを同居させるテクニックってものすごいですね


「人類スゲー小説」の功罪

瀬名:
僕自身は「人類スゲー小説」っていうのは
俺の中にこんなにすごい力が潜んでいたんだ
つまり、これに感動している俺すげー!っていう
自己陶酔みたいになってしまいました

光:
確かにこれを理解できないやつはすごくないっていうことになると
SF のハードルの高さみたいなものに繋がるかもしれない

瀬名:SF の良い面・悪い面を刻み付けた記念碑的小説じゃないかと思います

アナ:
最後の1文というのは、人類すごかったと受け止めていいんですか?

瀬名:
今回の小説では、人類の勇気や好奇心が大船団を作って動かしたんだという
いい終わり方になってますが
クラーク自身が若さ故のちょっと無鉄砲なところもある

(宇宙連邦がもしかしたらその後
 人類から搾取されたかもしれないみたいな匂わせ方だったから
 ハッピーエンドとは言えないんじゃないのかな?
 宇宙の外に出ても人類は凶暴なままだったみたいな


瀬名:
『宇宙の征服』っていう本をクラークが子どもの頃に読んで感銘を受けて
宇宙への興味をかきたてたんですけれども
タイトルを今見ると、すごく違和感があると思うんです
当時の人たちにとっては「宇宙とは征服するもの」なのだと

光:
今は宇宙も自然も征服するものではないじゃないですか
でも優れすぎてて今の視点でも読めますよね

瀬名:
宇宙へのストレートな気持ちは我々も持ってますよね
そこは心を打つじゃないですか
それがあるからやっぱりクラークは
作家、名著として生き延びているところだと思います


瀬名さんによれば、クラークの豊かな想像力の秘密は
作中に出てきたパラドー人に隠されているといいます

朗読:
危機に際してパラドー人の精神を構成する個々の単位は連結し
いかなる物理的頭脳にも遜色のない緊密な組織となることができる


そのような時、彼らは大宇宙で類を見ないほど強力な知性を形成する
あらゆる知的種属は、最終的に個々の意識を犠牲にし
いつの日か大宇宙には集合精神しか残らないだろう

(これってもろスピリチュアリズムじゃん


クラークは、宇宙にはパラドー人のような
想像を超える地球外生命が存在するかもしれないと考えていました

奇跡の星 異星人との遭遇 前編



その事を語るクラークの貴重な映像が残されています





クラーク:
地球外生命はどんな形で存在しているか分かりません
人工知能や知的ロボットを想像しても
それはすでに地球上にあるものの延長線上に過ぎないのです

物質の形を取らない存在という考え方もできるんです
それは精神的、宗教的存在と言えるかもしれません
私は可能性をどれも否定したくない


こうしたクラークの考えに影響を与えた2冊の本があります
科学者バザールが未来における人類の劇的な変貌を描いた『宇宙・肉体・悪魔』





ステープルドンが人類の未来を途方もなく
壮大なスケールで描いた小説『最後にして最初の人類』





瀬名さんはクラークが現実的な科学技術におさまらない
宗教的・神秘的なビジョンを持っていたと考えています

瀬名:
クラークってまずイギリス人だった
イギリスではとてつもない大きなことを想像して
文学で書いて伝えるっていう伝統というものがありました

(スピリチュアルも、オカルトも、歴史が深いよね

例えばステープルドンの『最後にして最初の人類』っていうのは
人類が20億年とか50億年くらいに渡って何度も絶滅しかかってはまた復活して
宇宙に出て行ってはまた帰ってきてみたいなのを繰り返す変な小説なんです
これをクラークは子どもの頃に読んで、ものすごく感銘を受けるんです

バナールは群体知性とか
人間が今後サイボーグになっていくのではないかとか
ロボットと融合していくじゃないかとか
後々の SF アイデアのルーツになっていた

(もうこれらの例は既に現実化してるよね


例えば仏教で弥勒菩薩が何億年後かにやってくる
とかのビジョンってありますよね

当時は第一線の科学者の人がそんなことをちゃんと考えて本にしていたし
それに影響を受けて何十億年後の人類の未来を書いてた人がいたわけです

クラークもそれを受け継いでる
ちょっと神秘的なところがあったり
宗教的なところがあったりして
イギリス文学の伝統を受け継いだ作家として読むと
意外とすんなり入ってくるところがあると思います

アナ:
いろんなものが混ざってそうですよね
科学や摩訶不思議なことに純粋にドキドキしたりするような

光:だからこそ SF 小説なんだという気がしますね

瀬名:
サイエンスフィクションというと
どうしても科学や技術を正確に書いてないといけないとか言われがちなんですけど
未だにこのクラークの実質的なデビュー作が驚くほど読まれているっていうのは
人が持っている好奇心を彼はまだ非常に若くて強く持っていた
それをストレートに出して不思議なものを素直に不思議だと

最初に「センスのいい好奇心」と言ったんですが
まさにそのセンスのバランスを示してくれたのがクラークだと思っています

***

私の定義としては SF って非日常だからこそ
ドキドキワクワクして面白いって思っていたけれども
現代の科学技術の進歩のスピードがあまりにも速すぎて
どんどん追い付いてきちゃったのかもしれないな

第2回につづく・・・



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