原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

それでも判例から出発する(論文アドバイス)

2011-10-20 | 勉強法全般
突然ですが,平成22年の民事系・設問4(1)の問題はぱっと出てくるでしょうか?ぱっとは出てこなくても,言われれば思い出せるレベルの過去問分析をしておきたいところです。概要,次の通りの問題です。

A(借主)は,Fから借りたのは1500万円だと言っている。F(貸主)は,Aに貸したのは2000万円だと言っている。Aは,Fを被告として,1500万円を超える債務は存在しないことの確認を求める訴えを提起した。当該訴訟は,Aの全面勝訴に終わったが,Aはその訴訟の口頭弁論終結前に500万円を弁済しており,それを主張しなかった。

まず確認ですが,上記の訴訟の訴訟物は?自認部分(1500万円)は訴訟物となるか?判例の立場は,「NO」です。ですから,1500万円の部分には既判力は生じていない。信義則で封ぜられるかどうかは別として,Aとしては,後訴で,500万円の弁済を主張できることになります。

Fとしては,面白くない話ですよね。そこで,Fの代理人弁護士が,判例とは別の理論構成をし,その長所と短所を修習生に検討させます(それが設問)。

構成1:訴訟物は自認部分も含めて全体だ。既判力は全体に生じる。

構成2:訴訟物は自認部分も含めて全体と捉えるが,自認部分は請求の放棄があったものとみる。自認部分には,一部放棄の既判力が生じる。

こんな感じの問題です。

この問題,試験終了1か月後くらいの平成22年6月に行われた分析会で私が担当した(民事系全体を担当しました)問題で,私が作成した答案はレジュメとしてお配りしましたので,それをお持ちの方もいるかもしれません。

その答案を作成するにあたり,私は,構成1と構成2は,判例の立場とは違うことを明確に認識しつつも,長所と短所の説明を求められているので,事案解決の上では判例に言及する実益はないのであるから,判例の立場に触れる必要はない,要は,構成1と構成2は,判例に反する異説であることを前提にしてその論理的な帰結を考察させる問題である,と捉えて起案しました。

そして,それから3か月,9月に出題趣旨が発表されて,(私としては)意外な一言。

「まずは,判例の立場とは異なることを説明し…」

こんなフレーズがありました。出題趣旨にこう言及されているということは,判例の立場との相違の点の言及に,確実に配点があります。「なるほど,このタイプ(異説からの帰結を求める問題)でも,まずは判例にご挨拶することが必要なのか」と,こんな感想を持ちました。解答のうえでは(事案解決のうえでは)判例への言及が不要と思われる問題でも,です。

言わんとすることはもうご理解いただけるでしょう。実務家登用試験たる司法試験の鉄則。法律問題の解決準則というのは,

一に条文,二に判例。三・四がなくて,五に学説。

実務において,判例と異なる立場で準備書面を書こうものなら,相手方に判例を引用されたうえで一蹴されるのが関の山。判例のと異なる立場の主張を通そうとするなら,相手方も裁判所も白旗を挙げるほど説得的な理由付けをして論破しなくてはいけません。

答案も,そういうスタンスでなくてはいけない。平成22年・民事系・設問4(1)は,その一端を示す例です。出題趣旨は,このように読んでくださいね。「このタイプの問題ですら,いわんや他のタイプの問題をや」です。

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2 コメント

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はじめまして。 (きみ)
2011-10-21 00:43:56
今度初受験となる受験生です。今年の初めにこのブログに出会い勉強させていただいています。

別の方も書いておられましたが、私の周囲でも先生の憲法の答案を知る人は多くて、法学セミナーなどの答案よりも的を射たものであると評されております。出題趣旨が出て以降は特にです。

そこで不躾にもお願いなのですが、先生はこの平成22年の民事の答案をまだデータか何かでお持ちでしょうか?もしお持ちなのであれば、是非ともここで紹介していただきたいです。本文で紹介しているレジュメを持っていないのです。

あと、一点質問があるのですが、現役の受験生はいつ頃から答練に参加すべきでしょうか?今のところ、スタ論とスタ短を検討中です。時期についてアドバイスがありましたらお願い致します。よろしくお願い致します。
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Unknown (はら)
2011-10-24 19:37:54
平成22年民事の答案は,記事にしておきました。そちらを参照してください。

答練ですが,現役生も第1クール(10月)から行って欲しいところです。「2時間で書く」ことができるようになるためには,年明けからでは不十分のように思うのです。やはり,十分な数(量)をこなすことは大事です。

憲法の答案は,前にも書きましたが,特別なことは書いていないです。基本部分をしっかり押さえて,出題趣旨等を(私なりに)よく分析するとあんな感じになるのです。

一発合格に向けて,頑張って勉強を進めてくださいね!

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