原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

短答に通過した方へ

2011-06-29 | 勉強法全般
今日は,口頭弁論期日。せっせと素案を起案した準備書面と請求拡張申立書の陳述。裁判所から宿題が出され(次回期日までに主張を検討し,準備書面として提出するように求められたということ),事務所に帰ってさっそく検討・起案。民法総則で誰もが勉強するテーマなのですが,ちょっとイレギュラーなケースで,まさに本試験の論文の問題になりそうな話。参考になる裁判例を発見し,その勢いのまま起案。かなり古い地裁判決なのですが,読んでいて「なるほどなぁ」と思いました。ここで書けないのがもったいないくらいの話です。夕方は,弁護士会館で民事模擬裁判の打ち合わせ。刑事模擬裁判に引き続いて,弁護士役になりました(原告訴訟代理人弁護士役)。

さて,昨日は短答で涙をのんだ方・受け控えた方に向けて書きましたので,今日は短答を通過された方に向けて。

まず,私を含めて多くの人が経験したことのあることだと思うのですが,どうしても「不毛な夏」を過ごしやすいんですよね。私の場合は,仕事ばっかりしていました(だから主観的には「不毛」とは思っていないのですが,対司法試験・対修習という見地から客観的に考えると不毛です)。最悪のパターンは,そして,最も三振しやすいパターンは,5月の中旬から法律の勉強が「お留守」になり,大きく力を落として9月を迎え,不合格を知り,しばらく立ち直れず,10月くらいから勉強を再開するも年内は実力を戻すのに精いっぱいで,その結果,翌年の試験まで大して実力が挙がらず,翌年も不合格,です。これをやってしまったら,一生後悔するはずです。ですから,この夏は,有意義な時間にしなくてはいけない。就活やエクスターンシップなどに時間を充てるのは,有意義な時間の使い方の一つでしょう。以下は,自分で勉強する時間の話をします。

短答通過者といっても状況は様々で,一括りにして論じるのは難しい。合格しているなら,修習・実務家としてデビューする日に向けて勉強するのが「正解」で,論文不合格だったなら,翌年の本試験に向けて勉強するのが「正解」ということになりましょうか。論文の成績は,短答の順位に相関しやすいので,ある程度の見通しを立てることはできますが,見通しに過ぎないのが難しいところ。ご存知の通り,点数配分も1:8なわけで,短答で300点あっても,そのリードは1科目の大失敗で吹っ飛ぶこともある(平成20年の私なんかまさにそう)。逆も然り。大逆転合格も,間々あるとまではいえないけれど,あるはあります。

そういう事情もあって,短答通過者のうちの多くの方が,「受かったとも落ちたともわからん,確信は持てない」状況かと思います。どっちになっても有意義な時間の使い方をしたい,と思うところでしょうか。

そういった方に特にお勧めなのは,「刑事訴訟実務の基礎」「民事訴訟実務の基礎」(弘文堂)を読み込むことです。修習に向けて事件記録に触れておくことは非常に重要で,また,ここでも何度も強調したように近時の短答では訴訟手続の理解が非常に重要になってきているからです。また,これを読むと,民訴・刑訴の理解はぐっと深まります。

そして,要件事実の勉強も大事です。「問題研究要件事実」「紛争類型別」は,対修習でも,対司法試験でも必須です。より理解を深めたいなら,「要件事実論30講」(弘文堂)です。「30講」は,ほとんどの修習生が持っていて,読み込む本です。

それから,刑事裁判傍聴もお勧めの一つです(民事裁判は,傍聴するだけではあんまり勉強になりません)。手続の理解を深めたいなら,裁判員裁判がお勧めです。

以上が,「どっちに転んでも…」という方にお勧めでのもので,合格を確信できる方は,あまり勉強したことのない法分野に触れておくとよいと思います。私の経験から言うと,労働法(労働基準法・労働契約法・労働審判法),倒産法(破産法),家事事件法(家事審判法・人訴法),少年法,民事執行法・民事保全法あたりは,修習中もたびたびその理解が要求されます。この私は,指導弁護士の先生の言葉を借りると,「一般的な実務家(弁護士)としてすぐ使う」ものなので,早いうちにマスターしておくとよいかと思います(先生は,これらも積極的に司法試験に出題すべきとおっしゃる)。

逆に,ちょっと不合格の可能性の方が大きいと思う方は,来年の司法試験に向けて,まずは,苦手科目を集中的に補強するとよいと思います。苦手科目があると,他でホームランを打たないと合格しないのが司法試験です(そういう受かり方をする人もそれなりの数いるんですが)。ただ,野球と同じように,ホームランに頼って大振りすると空振りする可能性はぐっと高まってしまうのです。まずは,苦手科目を潰すことが必要かと思います。苦手科目がない状態で9月を迎えれば,来年リベンジを果たす確率はぐっと高まるはずです。

短答で涙をのんでも,受け控えても,短答に通過していても,やっぱりこの夏は重要なのです。


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (devilsadvocate)
2011-07-01 07:49:32
先生のおっしゃる通り、新司法試験的に「不毛な夏」を過ごしてしまいそうな予感がしております。

頑張って、「刑事訴訟実務の基礎」「民事訴訟実務の基礎」(弘文堂)と要件事実関連、読んでみようと思います!
有益な記事、ありがとうございます♫
返信する
Unknown (はら)
2011-07-04 01:14:22
不毛な夏,ある程度は仕方ない部分もあると思うんですよね~。まぁただ,司法試験合格は「一応の」ゴールに過ぎないんですよね。「○○実務の基礎」は良い本ですので,是非,読んでみてください!
返信する
紹介されている本について (新66期司法修習予定者)
2012-08-30 17:32:45
 先生がおすすめしている、「刑事訴訟実務・民事訴訟実務の基礎」
を読み込みことは、研修所での起案対策に「直結」するものなのでしょうか??
  どうか、回答をお願いいたします。
返信する
Unknown (はら)
2012-10-07 01:33:05
遅くなってすみません。。。

回答を一言で言うと、手続問に関しては「直結」すると言えます。事実認定に関しては、「直結」するとは言えません。

ただ、あれ、分野別実務修習を充実させるには良い本だと思います。ちょっとした書式集にもなるんですよね。

いきなり分野別実務修習に行っちゃうと、漫然と傍聴してるだけになりかねないので、その意味でも読む価値はあるかな、と。
返信する

コメントを投稿