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BL小説・風のゆくえには~グレーテ25

2018年07月13日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ グレーテ

【真木視点】


 古谷環は俺のことを『鴨ネギ』だといったけれど、俺にしてみれば環の提案は『渡りに船』だった。

 俺たちの利害は完全に一致している。この際、俺は環に賭けてみようと思う。


**


「空封筒の話をしましょうか」

 環が「結婚して」と言ったあの朝、流れで入った駅近くの珈琲店で環はニヤニヤと言ってきた。

 空封筒の話、とは、チヒロの勤める会員制のバーに行った際、先に帰った俺に環がチヒロを使って封筒を届けさせたのだが、その中身が空だった、という話だ。

「あれは、別に何でも良かったの。たまたま封筒があったから封筒にしただけで」
「何でもって……」
「いやー、あまりにもヒロ君が真木君に熱い視線を送ってたから、チャンスをあげようかと思ってね」
「え」

 熱い視線? そうなのか? チヒロは俺のことなんか気にせずテキパキと働いているようにしか見えなかったけれど……。
 あ、いや、そのいつもと違うチヒロを見たくなくて、あまり視界に入れないようにしていたから気が付かなかっただけか。

(そうか……。他人が気が付くほどの視線を俺に送っていたということか。チヒロは本当に俺のことが好きだな。さっきだって……)

 と、マズイマズイ。
 思わず、数時間前に、俺の腕の中で蕩けるようにイッたチヒロを思い出して、頬が緩みそうになり、慌ててポーカーフェイスを取り戻す。と、

「ねえ、本当は二人、知り合いなんじゃないの?」
「…………」

 環が大きな目をキラキラさせながら聞いてきた。

「………なぜそう思うんですか?」

 質問には質問返し。
 すると、環は「いや~~」と言いながら、チヒロとの出会いの話をしはじめた。


 約2週間前、チヒロがあの店の面接を受けた日、環は帰りのエレベーターで偶然チヒロと一緒になったそうだ。話しかけてみたら、面接に合格して明日からシフトに入る、とチヒロが言ったので、

「じゃあ、よろしくね。私、たまき」

 そう、名乗ったところ、チヒロが目をキラッと輝かせて、

「え、まきさんっておっしゃるんですか?」

と、それはそれは嬉しそうに言ったそうだ。

「違う違う。た、が付くの。たまき」
「あ………失礼しました」

 真っ赤になったチヒロがすごく可愛かったので、「もしかして、君の好きな人の名前が『まき』さんだったりするの?」と揶揄ってやると、チヒロはますます赤くなりながら俯いたそうだ。



「私もすっかりそんな話忘れてたんだけど、真木君に対するヒロ君の態度見てたら、急にそれ思い出してね。だから封筒渡してあげたっていうのもあるんだけどね」
「…………」

「で。封筒渡して戻ってきたヒロ君が、いまだかつてないほどの色気まるだしの可愛い顔になってたから、こりゃ、真木君が何かしたんだな、と」
「……………」

「それからヒロ君、仕事終わった途端に、飛ぶように帰っていったからねえ。こりゃ、真木君に喰われにいったのかな、と」
「………」

 すごい観察眼だな。それで、『ヒロ君のこと、美味しくいただいた?』ってメールを送ってきたってわけか……

「ヒロ君の好きな人、『まき』って名前の女の子かと思ったら、『まき』って苗字の男だったとはね」
「…………」

 これは……どう答えたら……


 しばらくの沈黙の後、環がふっと表情をあらためた。

「以前、君のお兄さんから聞いたことがあるの」
「え」

 環は俺の上の兄と知り合いらしい。何を言われたんだ、と、とっさに身構えてしまう。

「お兄さん、言ってたよ。すぐ下の弟は、結婚して子供もいるけれど、歳の離れた弟の方は、ふらふらと女遊びしていて一向に落ちつこうとしないって」
「…………」

 ああ、キャバクラ行きまくりのカモフラージュはきちんと作用しているんだな、とホッとした。が、環は瞬きもせずにこちらをジッとみてきた。

「でも、女遊びしてるってわりには、君からは女の匂いが少しもしてこない。しかも、こんな美人を前にしても、口説いてくる雰囲気もない」
「…………」

 こんな美人って自分のことか。まあ否定はしないが……

「そして、あのメールを見て、あわてて私に会いにきたってことも判断材料に入れて、出した結論。君の恋愛対象は……」
「…………」
「…………」
「…………」

 俺もジッと見返してやる。と、環はニッコリと笑いかけてきた。

「君を『鴨ネギ』って言ったのはね、『鴨』は、私と利害一致できる人ってこと」

 利害、一致?

「『ネギ』は、そのルックスと、医者で家が金持ちってこと」
「………………」
「君だったら、父も必ず認めてくれる」
「………………」

 父親……か。
 なるほど。親の手前、結婚しなくてはならない、ということか……

「利害一致、ということは、あなたも恋愛対象が同性、ということですか?」

 直球で聞いてやると、環は苦笑して首を振った。

「違うよ。私のは……絶対に幸せになれないやつ」
「?」
「だからギリギリのところで、あの店利用してるってわけ」
「……?」

 ギリギリのところで利用……?

「それはどういう……?」
「ああ……、まあそれは朝からする話じゃないから置いておいて」
「………………」

 テーブルに置いた手に、すっと綺麗な赤いマニキュアの塗られた指を一本乗せられた。

「……このくらいは我慢できる?」
「別に大丈夫ですよ」

 上目遣いで聞かれ、ちょっと笑ってしまうと、環もつられたように笑った。なかなか可愛らしい。

「どうかな?この提案。君もどうせ結婚とか勧められてるんでしょ?」
「まあ……そうですね」

 そうですね、どころか、近々お見合いをさせられることになっている。

「問題は私が8才歳上ってところかな? 反対されちゃうかな?」
「ああ……、そこは話の持って行き方で………、って」

 言いかけて、はっとして手を離した。

「俺、まだその話に乗るって言ってませんよ?」
「えー、いいじゃないのよー。私のおかげで昨日良い思いできたでしょー?」
「…………」

 脅すつもりか。

「ねえ、本当はヒロ君と知り合いだったんでしょ? ていうか、もしかして今までにも関係あった?」
「ないですよ」

 ニヤニヤと言ってきた環に肩をすくめてみせる。手の内すべてが分からない限り、こちらも内部事情を教えるのは危険だ。

「彼のお姉さんと同伴を何度かしたことがあるので、その時に会ったかもしれませんけど、覚えてません」
「あ、そうなんだ」

 じゃ、ヒロ君の片思いか、と環は納得したように肯いてから、パンッと手を叩いた。

「じゃあ、ヒロ君、思いが叶ってよかったねー」
「でも俺、基本的に誰とでも一晩限りなので、昨日が最初で最後ですけどね」

 しれっと言ってやる。
 すると、環は大きな目をますます大きくさせて「あらま」と口に手をやった。

「えー、ヒロ君可哀想に。じゃあ、今後君と一緒にあの店に行くときは、ヒロ君が休みの時にしてあげるね」
「…………」

 一緒にあの店に行くって決定事項か。

「だから俺、その話……」
「結婚すれば、周りからうるさく言われなくなるわよ? それに無理してキャバクラに通う必要もなくなる」
「…………」

 それは……

「真木君は私の性的対象から完全に外れてるから、結婚しても絶対に手出したりしないから安心して? 住む場所も、仕事部屋、とか適当に理由をつけて、別々にしましょう」
「…………」
「お互いのプライベート最優先。どこで誰と何をしようと絶対に何も言わない」
「…………」
「良い話だと思わない?」
「…………」

 こんな都合の良い話があるだろうか……何か騙されたりしていないだろうか。
 いや、でも、騙されていたとしたって、乗ってみる価値はある。とりあえず、今、親から言われているお見合いの話を断る口実にはなるのだから、それはそれでいいのかもしれない。

 しかも、この話がうまくいってくれれば……

(これからもチヒロと会える)

 結婚したら自由に会うことができなくなるので、関係を続けるのは無理だと思っていた。そんな不安定な関係は、チヒロの将来のためにあきらめなくてはならないと思っていた。
 でも、この環との結婚だと話は変わってくる。外見上は不倫になってしまうけれど、それでも良いとチヒロが言ってくれるなら……

(いや、良いと言わせるけどな)

 これはチャンスだ。あと数回しか会えないと思っていたチヒロとの毎日が手に入るかもしれない。

「……分かりました」

 覚悟を決めて、肯いてやる。

「まず、攻略しやすい2番目の兄に話してみます」
「やった!」

 パンッと環は再び手をうち、その手をこちらに伸ばしてきた。

「よろしくね。未来の旦那様?」
「…………」

 握手したその手は少し汗ばんでいた。環は終始、余裕の顔をしていたけれど、本当は緊張していたのかもしれない。



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お読みくださりありがとうございました!
こうして『グレーテ24-1』の、真木さんの電話に繋がるのでした。

次回、火曜日に更新予定です。お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

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