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BL小説・風のゆくえには~グレーテ6

2018年04月13日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ グレーテ

【真木視点】


「真木さん! おはようございます!」

 ………………うわ。

 朝っぱらからのキラキラオーラに軽いめまいを覚える。

「………おはよう。慶君」

 待ち合わせの新幹線の改札口。早朝で人も少ないため、慶のキラキラは余計に目立っていて、行き交う人がチラチラと視線を送っている………ことには、本人全然気がついていない。

(………そうとう鈍感だな)

 そこがまた、可愛くていい。

(って、俺もそうとうだな……)

 笑いそうになってしまう。
 慶に対する気持ちが本格的に、世間一般で言う『恋』になっている。それを楽しんでいる自分の姿は、なかなか新鮮だ。

(昨日の夜も、電話できるだけで嬉しかったな……)

 昨晩、今日の研究会で使う資料を読んでいたら、添付写真に間違いを見つけて、

(これをネタに慶に電話できる!)

と、嬉しくなって速攻で電話してしまったのだ。まるで中学生だ。

 そうとう浮かれていたらしく、マッサージに来ていたチヒロにも『楽しそう』と言われてしまった。空気みたいなチヒロの前では、つい素でいてしまう。

 チヒロとは、もう10回ほど朝まで一緒に過ごした。先週、ついに連絡先も交換した。

 二丁目で知り合った男の子とは連絡先を交換しないことにしているので、しばらくはチヒロともチヒロの姉であるアユミを通して連絡を取っていた。でも、思いの外、チヒロのマッサージと抱き枕は快適で………

(チヒロを呼び出すのにいちいちアユミの店に行くのは面倒すぎる……)

 そう思って、信念を曲げて、チヒロとも連絡先を交換したのだ。

(まあ………チヒロは大丈夫だろう)

 この子は悪用したりしないと信じられる。それに、関係を聞かれても、アユミ繋がりの友人だと主張できる。

 男の子達と連絡先を交換しない一番の理由は、携帯のアドレス帳や履歴に男の子達の名前を残したくないからだ。もし、俺の身に何かあって、親や兄達の手に俺の携帯が渡ることがあったらと思うと……

(………無理だ)

 あの人達に、余計なことを知られて気を煩わせたくない。父も母も兄二人も祖父母も、皆、優しくて穏やかで善良な人達なのだ。昔も今も変わらぬ愛情を俺に向けてくれている。
 結婚して子供を持つ、という世間一般的な将来を俺に望んでいる彼らが、俺の性的指向を知ったら、きっと、驚き、悲しみ、悩むだろう。……でも、最終的には受け入れてくれると思う。そういう人達だ。だからこそ……知られたくない。

(今日の研修会の会場、わりと実家に近いんだよな……)

 実家に顔を出したら喜んでもらえることは分かっている。でも……

(時間ないしな。しかも明日の夕方まで、せっかく慶と一緒にいられるんだし)

 せっかくの一泊の研修会。あの邪魔な慶の恋人・桜井浩介と物理的な距離を置ける。今日の夕飯は、大食いの慶を満足させられる店に連れて行って、それから……

 と、頭の中では今夜の計画を練りつつ、慶と話しながら新幹線のホームを歩いていたのだけれども……

「渋谷君! 真木先生!」
「おー」
「え」

 大きなカバンを持った長い髪の女性が、俺達の乗る号車のあたりでブンブン手を振っている。あれは……慶の同期の吉村亮子か。

「………。吉村先生も一緒だったっけ?」
「あ、はい。急遽、空きが出て、行くことになって……」

 言いながら慶は、吉村に手を振り返すと、ちょっと笑いながら、

「吉村、お前、なんだよその荷物! 何泊するつもりだよ!」
「うるさい! 女の子は色々あるんですー」

 ………。28で『女の子』とは図々しい……。

「真木先生、よろしくお願いしますー」
「……よろしくね」

 内心の不機嫌を隠して、にっこりと微笑みかけてやる。

(ああ、せっかく慶と二人きりだと思ったのに……)

 残念過ぎる上に、相手が吉村というところも鬱陶しい。吉村は病院内で噂が出るほど慶と仲が良いのだ。吉村自身は、気さくでサバサバしていて感じの良い子ではあるけれど……

 そんなおれの内心には気が付かないようで、吉村がニコニコと話しかけてくる。

「真木先生って、大阪のご出身なんですよね? でも全然関西弁出ないですよね? あっちについたら出るのかな?」
「ああ……出身、といっても、住むようになったのは、最近だから。生まれた病院は大阪だけどね」

 少し肩をすくめてみせる。

「うちの父親は銀行員でね。転勤が多くて、しょっちゅう引っ越ししてたから、自分でもどこが出身なのか分からないよ」
「あれ?真木さん、実家は病院っておっしゃってませんでした?」

 小首をかしげた慶、かわいい。頭を撫でてやりたい衝動をどうにか押さえて質問に答える。

「うん。母の実家がね。父は婿養子なんだよ。祖父母は本当は医者の婿が欲しかったらしいんだけど、母が、認めてくれないなら駆け落ちするって言ったらしくて」
「わあ。素敵」

 ぱん、と手を打った吉村。女性はこういう話が好きだな。

「じゃ、孫である真木先生が病院を継ぐために医師に……」
「いや。兄二人も医師で、祖父の病院は長兄が継いでる。俺は好き勝手にフラフラしてるだけだよ」
「フラフラって」

 慶と吉村が顔を見合わせて笑ったところで、新幹線がホームに滑り込んできた。

「じゃ、行こうか」

 スッとさりげなく慶の背中に手を置いて、吉村との間に入ってやる。吉村の入り込む隙も、浩介の入り込む隙も、与えてやるものか。


***


 電車遅延があったため、会場にはギリギリに着いてしまった。本当はコーヒーでも飲んでから会場入りするはずだったのに予定が狂った。

 受付を済ませて、席に滑り込んだ時点で、吉村が「あー……」とお腹に手をやり、唸るように言った。

「朝早かったからお腹空いた……」
「チョコとか食うか?」

 慶がさっとカバンから袋を取りだし、中に入っているお菓子を吉村に渡している。

「真木さんも何かいりますか?」
「あ……うん。ありがとう」

 見ると、袋の中には、小分けで食べやすいチョコやクッキーがいくつも入っていた。その中からアメ玉を一つもらう。

「用意がいいね、慶君」
「あ……いや」

 慶はちょっと照れたように笑うと、吉村に背を向けてコソッと俺だけに聞こえるようにいった。

「おれ昨日、資料の読み込みで時間なかったから、この出張の用意は全部、浩介にやってもらったんです」
「………」

 ………浩介。

「オヤツ入れておいたよって言われて、遠足じゃねーんだからって思ったけど、助かったなー。あいつ、ホントおれのこと分かり過ぎ」
「………」
「あ、なんだこれ。抹茶味? こんなのうちにあったっけ?」

 ぶつぶつ言いながら、袋の中身を探っている慶。その白皙には柔らかな笑みが浮かんでいて……

(………そこに、いるのか)

 浩介の姿が慶と重なって見える。
 東京と大阪とに離れているのに……君たちは、一緒にいなくても、一緒にいるんだな……

「君たちは本当に仲が良いんだね……」
「え」

 思わず漏れた声に、慶はキョトン、とした顔をしてから……

「はい。高校からの親友なので」

 にっこりと幸せそうに肯いた。


***


 夜は3人でお好み焼きを食べにいった。もう一軒……と思ったけれど、慶も吉村も疲れ切っていたので、結局すぐに宿泊するホテルに戻ってきてしまった。慣れない土地による疲れもあるのだろう……

(今ごろ慶は、浩介に電話してるんだろうな……)

 近くにいる俺よりも、もっと近くにいる恋人に……

(入りこむ隙間がない……)

 自嘲しながら、ホテルのベッドに腰かけると、俺にもドッと疲労感が押し寄せてきた。

(ああ……チヒロにマッサージしてもらいたい)

 もう少し早い時間だったらこちらに来させたのに、さすがにもう無理か。新幹線の最終は9時半くらいだったな……

(明日はどうかな……)

 今までは当日に連絡して当日に来させていた。それで断られたことは一度もない。だから明日連絡してもいいんだけど、なぜか妙に、チヒロのあの淡々とした声を聞きたくてしょうがない。

 その思いのまま、携帯を手に取った。
 数回の呼び出し音の後……

『はい』
 聞こえてきたチヒロの声。『は』と『い』の大きさが同じの抑揚のない話し方。ああ、チヒロだな……と、笑いそうになった。が。

 ………。周りがうるさい。大きな音楽の音。カラオケか?

「……チヒロ君?」
『はい』

 ……………。歌っているのは……誰だ?

「誰が歌ってるの?」
『コータが歌っています』
「………そう」

 そういえば、彼らも仲良しだって言ってたな。今、一緒にいるのか………

「……チヒロ君」
『はい』

 俺の沈黙にも急かすことなく、言葉を待っているチヒロ……

「…………。明日、帰ったら連絡する」
『はい』

「……………」
『……………』

 たぶん……このまま黙っていても、チヒロはずっと待っていてくれるだろう。くれるだろうけど………

『チヒロー? 電話? 誰?』

 曲が終わり、コータの明るい声が聞こえてきた時点で電話を切った。


 途端に、耳が痛くなるほどシンッとする。


 ああ………俺は……一人だな。


 迫ってくる闇………
 耐えきれなくなり、外に出た。


***


 慶には浩介がいて、チヒロにはコータがいて……

 転校を繰り返していた俺は、小さい頃から誰か一人と特別に仲良くなることを避けていた。
 その代わり、いつでも、どこへ行っても、すぐにたくさんの友人はできた。何もしなくても、完璧なこの俺のオーラに吸い付くように人が寄ってきて……


「あっれー? お久しぶり~」
「……久しぶり」

 自然と足が向いた『仲間』が集まる場所。受付の従業員も変わっていない。久しぶりなのに体が勝手に動く。さっさと服を脱いでロッカーにぶち込み、薄暗い廊下を進む。……と、

「…………」
「…………」

 来た早々、運がいい。わりと好みのタイプの子がいた。向こうから寄ってきたので、望み通り、個室に連れ込んで、名前も知らないその子の中に、この鬱屈したものを吐き出してやる。

 でも………

(全然、気持ちが晴れない)

 その後も、何人かの男の子を抱いたけれど、何も埋まらない。何も感じない。何も癒されない。何も変わらない。

(俺はただ、毎日、楽しく飲んで食べて、好みの男の子を抱ければそれでいい)

 ずっと、ずっとそう思ってきた。ずっと、ずっとそうしてきた。

 今だって、俺の周りにはたくさんの男の子達が集まってきていて………

 なのに、何だ。この虚無感は……





---

お読みくださりありがとうございました!
何か真面目な話になってきた……

ちょっと立て込んでいるため、一回お休みして、来週の金曜日に更新……できたらいいなあ、と思っております。
お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。


クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうございます。どれだけ有り難いことか……。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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