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BL小説・風のゆくえには~片恋10(浩介視点)

2016年01月29日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋



 6月15日土曜日

 土曜日は、授業の後、各自で昼食をとってから体育館に集合することになっている。でも、みんな体育館で食べるので、おれもそれに倣っている。だいたい、男子は入り口側、女子はステージ側、その中でも学年ごとで車座になって食べる。

 美幸さんが女子部3年生の人達と一緒に食べていたのは見ていたけれど、気がついたらいなくなっていた。部活開始時間まであと5分なのにもどってこない……。心配になって探しにいったら、

「……あ、やっぱり」

 校庭に下りる階段の途中で座っている後ろ姿を発見。前もここで寝ていたことがある。

 そっと近づいてみたら………やっぱり寝てた。バスケットボールを抱えて、そこに頬をつけて………。こんな体勢でよく眠れるな……。

『眠るの大好き。どこでも寝られるのが特技なんだ~』

 昨日、一緒に帰ったときに言っていた。

 そうそう……、せっかく練習してもらったけれど、昨日も結局、手繋げなかった。まあ、繋ぐ気もなかったけど。
 でもそれでいい気がする。ようやく少し慣れてきたけれど、まだまだ緊張するし、こうして見ているだけで充分なのに、それ以上のことなんて……

 少し開いた唇あたりをみて、うーんとうなってしまう。

(キス……)

 別にしたいと思わない……というのは、男として何か欠けているんだろうか……

(そういえば、渋谷、すごい手慣れた感じだったな……)

 なんだかまたモヤモヤしてきてしまう。
 おれが知らない中学時代の渋谷……。本人は否定していたけれど、やっぱり女落としまくりのモテモテの生活だったんだろうな……。

(渋谷はキスしたことあるんだろうな……)

 相手はどんな人なんだろう。どんな顔してキス……してたのかな……。

 練習の時の渋谷を思い出して、ドキドキしてきてしまう。
 あんな美形に至近距離で見つめられたら、男でも女でも金縛りにあうに決まっている。本当に吸い込まれるみたいに綺麗で………

「桜井」
「あ」

 キャプテンの田辺先輩の声に我に返る。先輩は身軽に階段を下りてくると、

「なんだ、堀川、また寝てんのか」

 苦笑しながらも、なんだか優しい目で美幸さんを見下ろしている。

「またって……」
「こいつホントどこでも寝るんだよ。中学の時もよく、陽当たりのいい体育倉庫の前とかで丸まって寝てた」
「丸まってって」

 猫みたいだ。

 田辺先輩は美幸さんの横にしゃがみこむと、ツンツンツンとその頬をつついた。

「堀川、堀川、練習はじまるぞ」
「んー……」

 ボンヤリと目をあけた美幸さん………

「起きたか?」
「んん」

 美幸さんの目の焦点があって、田辺先輩の姿を認めると、

「ああ、ひでくん………」
「!」

 ドキッとするほど、可愛らしい笑顔を浮かべ……

「あと5分……」
「…………」

 再び目をつむってしまった。

「こらこらこら、美幸!」
「!」

 笑いながら今度は美幸さんの頭をぐちゃぐちゃとかきまわす田辺先輩……。

 二人の様子に、鼓動が早くなってくる。

『ひでくん』
『美幸』

 そんな呼び方してるの聞いたことがない。
 それに、美幸さんの、今までにみたことないような女の子女の子した表情。田辺先輩の、美幸さんを見るいとおしげな瞳。

 二人………もしかして、付き合ってる……?

「……………」

 鼓動が早くなりすぎて苦しい。

 付き合っているとしたら……もう、こうやって見つめていたり、一緒に帰ったり、できなくなる。田辺先輩が相手じゃ敵うわけない。

(渋谷……)
 せっかく応援してくれたのに………
 親友の期待に応えることもできないなんて、やっぱりおれは、何をやってもダメな奴だ……



 この日の部活は、おれはもうボロボロだった。
 はじめは叱り飛ばしてくれていた田辺先輩に、途中から「具合悪いのか?」と心配されるくらいにボロボロで、結局、篠原に保健室に連れていかれる羽目になってしまった。

「……迷惑かけてごめんね」
「いやー?」

 篠原はニコニコとおれの背中をバシバシたたくと、

「サボれてラッキー」
「……ごめん」

 篠原の明るさには本当に救われる……

「田辺先輩もあれで結構気にし屋さんだからさー、前半桜井のこと怒りすぎたって気にしてるよ絶対」
「………うん。悪いことしちゃった」

 田辺先輩には、入部した時からいつも気にかけてもらっていた。頼りがいがあって、優しくて、みんなに気を配れて、その上カッコいいから、女子からの人気はすごいことになっている。

 田辺先輩と美幸さんは同じ中学出身。中学の時も同じバスケ部だったらしい。でも、普段は全然話したりしないので、あんなに親しいだなんて、誰も知らないんじゃないだろうか……。

「田辺先輩って、彼女……」
「いないって言ってたよー?」

 おれの独り言のようなつぶやきに、篠原がアッサリと答えてくれた。じゃあ二人、付き合ってはいないのか……

「あんなモテモテだから一人に絞れないんじゃないのー? 渋谷と一緒」
「………」

 渋谷は面倒くさいから彼女はいらないと言っていた。それで、おれと遊ぶのが一番楽しいって言ってくれてる。……なんてことは篠原には教えてやらない。

「でさー、再来週の引退試合の前に、三年生は女バスからお守りもらうじゃん?」
「あー……去年もそんなのしてたね」

 誰が誰に渡すかとか、女子がきゃあきゃあ騒いでいた記憶がある。

「今回、田辺先輩に誰が渡すかで、今、女バス内、険悪になってるらしいよ~」
「えー……」

 美幸さんは……渡さないのかな……

 と、思ったら、篠原にニヤニヤとつつかれた。

「今、美幸先輩は誰に渡すのかな?って思ったでしょ?」
「え!?」

 す、するどいっ。

「桜井ってホントわかりやすーい。でもご安心を~~。美幸先輩は誰にも渡さないって言ってたよ」
「誰が?」
「みんな」
「…………」

 みんなって誰なんだろう……

 その後、保健室で休ませてもらって、部活終了直前に戻った。
 保健室のベッドで寝ていたら、美幸さんと田辺先輩のやり取りが夢の中のことのような気がしてきていたんだけど……

(………美幸さん)

 気がついて、しまった。
 体育館に戻ったらちょうど、男子部は紅白に分かれて試合をしていた。入り口でそれを見ていたら、女子部がステージの上でストレッチをしている様子も目に入ったのだけれども……、美幸さんの視線……ずっと、ずっと田辺先輩を追っている。

 そう思ったら、今までの様々なことが頭の中で回りだした。
 打ち上げの席で、田辺先輩が女子に囲まれている様子を、女神のような微笑みを浮かべながら見ていた美幸さん。おれと一緒に帰るときも、話題の中には必ず田辺先輩のことが入っていて……。そして、さっきの「ひでくん」と言った美幸さんの少女のような表情……。

(好き……なんだ)

 美幸さん、田辺先輩のことが好きなんだ……。

 そして………

「………あ」

 田辺先輩がチラッとステージの上を見た。その先には……美幸さん。
 さっきも、美幸さんをみるその目は愛情に溢れていたし………

(やっぱり田辺先輩も……)


 田辺先輩がゴールを決める度に、女子部から歓声が上がる。本当にカッコいい。こんな人に、おれが敵うわけがない……。


 それから後のことはあまり覚えていない。

「大丈夫?」
って、何人も声かけてくれたけど、上手く答えられなかった。でもみんな、おれが具合悪いせいだと思ったみたいで、それ以上は何も言われなかった。

 ただひたすら、美幸さんの女の子女の子した表情とか「ひでくん」って言った声とか、ゴールを決めた田辺先輩の姿とかが頭の中をグルグル回っていて……
 気がついた時には、もう帰り道で、自転車を走らせていた。自転車を漕ぎながら、一人ごちる。

「ごめん……ごめんね、慶」

 せっかく応援してくれてたのに。おれ、期待に添えないよ。あんな人がライバルじゃ、どうやったって勝ち目がない。

 もう、美幸さんと一緒に帰るドキドキした時間も無くなってしまう。美幸さんを見つめて癒される時間も無くなってしまう。それに、渋谷に相談にのってもらう時間も無くなってしまう。

 渋谷に合わす顔がない、と思いつつも、今すぐ会いたい、とも思う。でも、会えない……会いたい……

 ……と、そこへ。


「おーい」
「!」

 遠くの方から渋谷の声がする。え、と思ったら、川辺の先の方で渋谷がぶんぶん手を振りながら立っていた。

「……渋谷」

 ズキっと心臓に痛みが走る。
 渋谷は時々、ああやっておれの帰りを待ってくれていることがある。
 どうしておれなんかのために、渋谷はこんな嬉しいことしてくれるんだろう。その渋谷の期待に添えないおれは本当にどうしようもない使えないクズだ。

『お前は本当にできそこないだな』

 父の声がこだまする。苦しい。おれは本当にできそこないで……

 でも、でも……

「渋谷……」

 必死に自転車をこぐ。近づいてきた渋谷はあいかわらずキラキラしていて……

 ああ、今すぐ、今すぐ、触れたい。
 そうしないと、息もできない。

 我慢できなくて、自転車から飛び降りて、渋谷を強引に抱き寄せる。

「慶!」
「え?」

 戸惑っている様子の渋谷をぎゅうううっと抱きしめる。

「慶……慶!」

 体中が渋谷のオーラで包まれていく……
 息を吸い込むと、清涼な空気が入ってくる。少しずつ息が整ってくる。

「慶……ごめんね」

 なんとかそういうと、渋谷が優しく頬に触れてくれた。

「何が? どうした?」
「おれ………」
「どうした」

 顔をあげると、渋谷の綺麗な瞳がすぐ近くにあった。吸い込まれるみたいに綺麗……。涙が出そうになる。

「おれ………フラれる、みたい」

 勇気を出して言うと、渋谷は「?」というように首を傾げた。ああ……本当に、ごめんね。

「慶、ごめんね」

 再び渋谷の髪に顔を埋めてぎゅうっと力をこめて抱きしめると、渋谷はゆっくりゆっくり背中を撫でてくれた。

「慶……」

 おれ、期待に添えないような、できそこないのダメな人間だけど……でも、おれ、一緒にいてもいいかな……。





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お読みくださりありがとうございました!

これで9の終わりと10の終わりがそろいました。
9の最後で、慶は浩介が美幸さんのせいで心乱されてると思って嫉妬してましたが、
実は浩介は、美幸さんのことプラス、慶の期待に応えられないということにも心乱されていた、という……。いや別に期待してないから^^;

続きはまた明後日!よろしくお願いいたします!

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コメント (2)
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