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創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ベベアンの扉(18/22)

2006年11月26日 22時26分12秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 振り返ると、十歳くらいの女の子と、五歳くらいの女の子が立っていた。
 二人ともぷつりと切りそろえられたおかっぱ頭をしていて、顔つきも妙に似通っていた。言われなくても姉妹だとわかる。
「どうして帰るなんていうの? 達之はここにいたがってるじゃないの。七重もここにいればいいじゃないの」
「あんた達・・・」
 私は怯まなかった。
「あんた達があの扉を作ったの?」
「違うよ。ここはずーっとずーっと前からある場所なの。私たちはここに逃げてきたの」
「逃げて・・・?」
 姉と思われる子が妹を抱き寄せて、つぶやくように続けた。
「私たちのお母さんは私たちのこと嫌いだったの。ご飯もあまり食べさせてもらえなかったし、お母さんのお友達がくると夜でも家から追い出されてたし・・・。追い出されているうちはよかったんだけど、そのうち一人のお友達が一緒に住むようになって・・・そうしたらその人、何かにつけて私たちのことぶったりけったりするようになって・・・お母さんも一緒になってぶつこともあったし・・・」
 幼児虐待。テレビのニュースで見たことはあったけど・・・本当にそんなことをする人がいるなんて・・・。
「もう家に帰りたくないって思いながら二人で歩いてたら、この扉が開いたの。この中では誰も私たちのこと邪魔にしない。この中にいればお腹もすかない。あそこにいたくない人はみんなこっちにくればいいんだよ」
「でも・・・」
 お母さん今頃反省して二人のこと探してるかもよ、とか、学校はどうするの、とか、お友達が心配してるかもよ、とかそんな綺麗事は言えない。確かに二人にとっては、ここのほうが居心地がいいのかもしれない。でも。
「私はあっちに友達がいるから帰る。緑澤君もお母さんと弟が待ってるから帰るわよ」
「そうなの?」
 姉の方がビックリしたように言った。
「七重は『居場所がない』ってずーっと前からずっとずっと言ってたじゃない。私たちずーっとここから見てたのよ」
「・・・え?」
「同じ気持ちが響きあったときにこの扉は開くの。七重もヒデ君と響きあったでしょ」
 それは小学生の時に見た、柿の木の上にいた高校生のこと? それじゃ、この子達はそのころからずっとここにいるっていうこと?
「そのヒデ君もまだここにいるの?」
「ううん。ヒデ君はもう行っちゃった」
「行ったってどこへ?」
「扉の向こう」
「それは帰ったってこと?」
「ううん。違う方の扉」
「違う方・・・?」
 なんだ? それは?
「そっちの扉にはね、白い女の人がいるの」
 白い・・・女?
「私たち、その女の人にお願いされて、時々家があった方の扉の様子をみて、同じ気持ちの人をこっちに呼んでいるのよ。七重のことも何回も呼びにいったでしょ?」
 あの『声』はそういうことだったのか。しかし・・・白い女の人って・・・?

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ベベアンの扉(17/22)

2006年11月25日 23時55分24秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 先に進んでみたけど、いつまでたっても人影は現れない。
 ずんずん進んでいったら、ロープの限界が来てしまった。しょうがないので、ロープを近くにあった木に巻き付けてから先に進む。
「緑澤くーん!」
 いつまで歩いても草原だけだ。その先に山もない。ひたすら草原だけ。動物もいない。花も咲いていない。ただひたすら、草。時々、木。
「と、思ったら、岩があった!」
 忽然とあらわれた岩に近寄ってみると・・・
「緑澤・・・君?」
 六年ぶりに見る緑澤君。元々痩せた男の子ではあったけど、眼鏡をかけていないせいかさらに輪をかけて痩せてみえる。と、いうかやつれてみえる。
 軽く揺さぶると、岩にもたれて目をつむっていた緑澤君が、ゆっくりと目を開けた。
「ああ・・・山本さん? なわけないか・・・幻覚かな・・・会いたい会いたいってずっと思ってたから、幻覚まで見えるようになっちゃったのかなあ・・・まあ、いいや。幻覚でも。すごいなあ・・・僕の幻覚。ちゃんと予想通り美人に育ってる。やっぱり僕の目に狂いはなかった。この子は将来きっと美人になるって思ったんだよねえ。中学の時はパッとしなかったけど、あと数年したらって・・・」
「・・・あの~」
 それは・・・褒められてるんだろうけど、微妙に素直に喜べない褒められ方だな。
「緑澤君? 大丈夫?」
「わあ、すごい。幻覚がしゃべった。でも予想としてはもう少し艶っぽい声になると思ったんだけどなあ。ちょっと色気が・・・」
 ムカ。
「色気がなくて悪かったわね! もういい加減に目を覚ましてよ!」
 グリグリグリと思いっきり、こめかみをげんこつで押してやったら、ようやく緑澤君の目の焦点があってきた。
「え、本物なの? 本当に本物の山本さんなの?」
「そうよ! 迎えにきたのよ!」
「え? え? 何で??」
 緑澤君は慌てたように、ポケットから眼鏡をだして装着した。たちまち中学のころと変わらない緑澤君になった。
「何でも何もないわよ。六年ぶりに会いに来たら、こんなところにいるんだもの。さ、帰ろう。お母さんも和也君も待ってるよ」
 たちまち緑澤君の表情が曇った。
「帰りたくないなあ・・・。母さんだって僕みたいな息子いなくなったほうがいいと思ってるだろうし・・・母さんには和也がいるから。和也だったら母さんの期待にそえる」
「ばっかじゃないの」
 本気で呆れた。
「緑澤君って、親の期待にそうためだけに生きてるの?」
「そういうわけじゃないけど・・・でも、あの家では居場所がなくて・・・でもここなら誰も僕を邪魔にしない。すごく居心地がいいんだよ」
「居心地がいいって・・・いったいここで何をしてるの? 一日中、こうやってボーーーーーーッとしてるの?」
「うん・・・まあ・・・そうかなあ」
 緑澤君が首をかしげながらいう。呆れた。本当に呆れた。
「ねえ、それで楽しい? それで満足?」
「うん・・・」
「ばっかじゃないの!」
 衝動にまかせて、緑澤君の頬をつねりあげた。緑澤君が驚いたようにこちらを見返す。
「目を覚ましなよ。中学の時、花火作ってみせてくれたあの緑澤君はどこにいっちゃったの? 先生にむかってエアガンぶつけて一緒に喜んだじゃないの。それも忘れちゃった?」
「・・・忘れてないよ」
 ポツリ、と緑澤君が言う。
「忘れるわけないじゃないか。山本さんと一緒に過ごしたあの時間だけが僕の支えだった。何があってもあの時のことを思い出して乗り越えてきた。でも・・・もう限界なんだよ」
「何が限界よ! 馬鹿なこと言ってないで早く・・・」
『帰らないで。ここにいて』
 あの『声』だ!

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ベベアンの扉(16/22)

2006年11月24日 23時35分40秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 金属が軋むような音がして、扉が開いた。
 すると突然、すごい勢いで体が扉の中に引きずり込まれた。
 扉の中はまぶしいほど真っ白だった。
 キラキラキラキラ・・・という鉄琴のような音が、あたり一面に広がっている。
「緑澤くーん」
 くーん、くーん・・・と声がこだまする。
「和也くーん」
 目が慣れてきたのか、周りが見えてきた。
 黄緑の草原が広がっていて、所々に木がはえている。テレビで見たモンゴルの草原っぽい感じ。でも空は青ではなく、真っ白く靄がかかっている。
 振り返ってみたが、扉は景色と一体化していて見あたらなかった。
 とりあえず一番近くの木に行ってみると、驚いたことに和也が木の根本に座り込んでいた。木に体を預けた状態で、ボーっと上のほうを見ている。
「和也君。大丈夫?」
 思い切り体を揺さぶると、和也はぼんやりとこちらに視線を向けた。
「ああ・・・七重さん。七重さんも来たの?」
「来たけど・・・ずっといるつもりはないわよ。一緒に帰ろうよ」
「なんで?」
 和也はうっすらと笑った。
「ここにいれば何も考えなくていいんだよ。家族のことも学校のことも、全部、ね」
「・・・あんたはそれでいいかもしれないけど、残されたお母さんはどうするのよ?」
 和也はゆっくりと頭をふった。
「母さんはお兄ちゃんさえいればいいんだよ。オレがいなくなったところでどうもならないよ」
「どうもなってるわよっ」
 イラッときた。
「あんたが消えたって言って、おばさん半狂乱になって家中探し回ったもんだから、あの小綺麗な家がメチャクチャになってたわよ。あんたも帰ったら片づけ手伝いなさいよ」
「・・・母さんが? ううん。それはオレをお兄ちゃんだと思ってたからでしょ。お兄ちゃんが消えたっていって探して・・・」
「だーかーらー違うの!」
 強引に腕を掴んでひっぱり起こした。
「本当はあんたが和也だってわかってて、わざと達之って呼んでたんだって。あんたのお母さん。でも、あんたが平気な顔してるから、あんたが自分に全然感心がないんだってショックを受けてたみたいよ。あんたも嫌なら嫌って言えばよかったじゃないの」
「だって・・・」
 和也は口をパクパクさせていたが、続きの言葉は出てこなかった。
「ちゃんと話し合いなさいよ。本当はまだまだお母さんに甘えたい年頃なんでしょ?」
「そんなことないよっ」
 赤くなった和也の目に精気が戻ってきた。
「よし。じゃあ、これを辿っていって」
 私は自分の体に巻いてきたロープの一本を和也に渡した。
 実はこの扉に入る前に、ロープを二本巻き付けてきたんだ。扉の向こうでおばさんが逆の端を机に巻き付けて待っているはずだ。
 ロープを引っ張って合図をすると、僅かながら引っ張り返された。ちゃんとまだつながっているようだ。
「ほら、これを辿ってお母さんの元に戻って」
「七重さんは?」
 心配げに聞いてきた和也に、私は力強くうなずきかけた。
「緑澤君をさがしてくるよ。必ず連れて帰るから、お母さんと一緒に待ってて」


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何とか11月中に復帰できましたっ。
更新していないのに見に来てくださっていた方々、本当にありがとうございますっ!
今後ともよろしくお願いいたします。
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ベベアンの扉(15/22)

2006年10月17日 22時10分29秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
「私、思ったんですけど、誰かが下から見ている必要があるのかもしれません。私が昔見た高校生も、私と目があったときに柿を投げてきたんです。和也君もおばさんに見られてからボールを投げてる。たぶん緑澤君も和也君に外からみられたんでしょう」
「あ、ええ、和也もそういっていたわ」
 鼻をすすりながらおばさんがいう。
「じゃあ、私、一回外にでるから、あなたボールを投げてくれる?」
 おばさんが急いで外に向かう。その様子に自分の母親の姿と重なる。
 果たして私がこういう目にあったときに、母は涙を流してくれるのだろうか。助け出そうとしてくれるのだろうか。・・・きっと、幼い息子(私の父親違いの弟だ)を気遣って、自分の命までは投げ出せないだろうな。父も同じだ。萌を残すことを考えたらできないだろう。そう思うと気分が落ち込んでくる。
『七重、きてくれたのね』
「!」
 ギョッとした。あの声がどこかから聞こえてきた。
『赤い物を投げて』
 窓の外を見てみる。うつろな目をした緑澤君のお母さんが立っている。それを見てはっとした。昔見た高校生もこんなうつろな目をしていた。そして、当時の私も・・・。
 今の私もこんな目をしているのだろうか? 緑澤君も和也も? 同じ目をしたものと見つめあったときに扉が開くのか?
『赤い物を投げて』
 言われるまま、赤いボールをおばさんの足元に向かって投げつける。
 すると・・・
「夢と一緒だ・・・」
 大きな扉が窓の外に忽然と現れた。あたりはまぶしいほどに光っていて、扉を直視することができない。
「まあ・・・っ」
 部屋に戻ってきたおばさんが、感嘆ともいえる悲鳴をあげた。
「本当だったのね。本当に扉が現れたわ!」
「これ、外からは?」
「見えなかったわよ。何も」
 では、この部屋からだけ見える扉なのか?
『呪文を唱えて、呪文を唱えて』
 またあの声が聞こえてきた。扉の方から聞こえてくるようだ。
 私はおばさんにうなずきかけ、思い切ってその言葉を言い放った。
「ベベアン、ベベアン!」


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ここまでお読みくださった方々、本当にありがとうございます。
ワードに書いてそれをブログにアップするという形をとっているのですが、
ついにブログに追いつかれてしまいました
今、ちょっと抱えている仕事がありまして・・・。
それが落ち着いたら続きをアップさせていただきます。
できれば来月には再開したいと思っています。
それまでどうかお見捨てなきよう、よろしくお願いいたします。

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ベベアンの扉(14/22)

2006年10月16日 15時29分06秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 それから、達之の部屋から赤い物を何度も投げてみたが、扉は現れなかった。何かが違うのかもしれない。
「本当に達之と和也はその何とかっていう扉の向こうに行ってしまったのかしら?」
「たぶん・・・。もう一度和也君が消えたときの状況を話していただけますか?」
 おばさんは爪を噛みながら、話し出した。
「ゴミ捨てをして、戻ってきて、家の門を開けようとしたときに、窓の外をみている和也の姿がみえてね。『達之なにしてるの?』って声をかけたのよ。そうしたら、突然赤いボールを投げてきて・・・」
「え? ちょっと待ってください」
 スラスラ言うから聞き流すところだった。
「和也君をみて『達之』って声をかけたっておっしゃいました? おばさん、和也君のことをわざと達之って呼んでるんですか?」
 するとおばさんは気まずそうに俯いた。
「だって・・・和也のせいで達之はいなくなったのよ。あの子がいつも達之のことを馬鹿にしていたから・・・。和也が達之になればいいのにっていつも思ってたわ。そう思ってたら、自然と和也のことを達之って呼ぶようになっていたの」
「そんな・・・」
 そんな馬鹿な理由があるか!? 二人とも自分の子供なのに・・・。
「でもね、消える寸前の和也・・・、いつものように『達之』って呼んだだけなのに、あの子、みたこともないような寂しそうな顔をしたのよ。今までは何て呼ばれようと飄々としていて・・・、ああ、この子は私になんの感心もないんだなって思ってたのに・・・」
 いきなり、おばさんはわあっと泣き出した。
「ごめんね、和也。あなたのせいじゃないのにね。ごめんね、達之。私があなたを追いつめたのよね。悪いお母さんよね。全部私が悪いのよね。ごめんね。ごめんね・・・」
「・・・・・・」
 泣き崩れるおばさんを励ます言葉は見つからなかった。だって、緑澤君と和也のほうがもっともっと辛かったって思えるから。
「おばさん・・・それは二人が無事帰ってきたら直接言ってあげてください」
 そう。私たちは二人を連れ戻すんだから。泣いている場合ではないんだ。

コメント (2)
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