大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

百花繚乱 夢の後 ~奥女中の日記~ 三十一

2011年10月29日 | 百花繚乱 夢の後 ~奥女中の日記~
 兄様。やはり瀧山様は、千代が何故、おてふの方様を捜しているのかをお尋ねにございました。
 千代は、城下で御親切にして頂きましたお礼を申し上げたいと申しましたが、瀧山様はお顔をしかめると、美緒を捜していたのではないのかと、お言いになられ、千代は寸の間息が付けませなんだ。
 咄嗟に、御本人からは、お美緒様と伺っておりましたが、そのお方がおてふの方様になられた由聞き及びました。とお答えしたのですが、瀧山様は剣呑なお顔で千代を睨みました。
 そして、美緒という女中は、流行病いにて亡くなったが為、遺体を御実家にお返しすることは適わなんだ。てふという名の者はおらぬ。将軍様には御側室などおらぬ故、何かの間違いであろうと、おっしゃいましてございます。
 千代はそれ以上のことは何も言えませなんだが、美緒と千代の出生をお調べになられれば、分かってしまうやも知れませぬ。いえ、瀧山様なれば既にお調べの上やも知れませぬ。
 ただひとつ、美緒と千代の里親となってくださったのが、違うお武家様だったことは幸いにございました。
 瀧山様のお部屋を辞して直ぐに、智瀬様が寄って来られ、御自身は何も申していないが、田丸様に問い質されたのだ。田丸様が千代を良く思っておられないのだ。とおっしゃっておられました。
 千代には智瀬様の御真意が分かり兼ねまする。



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