大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

百花繚乱 夢の後 ~奥女中の日記~ 二十八

2011年10月26日 | 百花繚乱 夢の後 ~奥女中の日記~
 兄様。歳暮のお祝い、御松飾り、除夜と慌ただしいお行事が続くのが大奥の決まりにございます。
 除夜には女中一同が言上を述べますので、瀧山様を拝顔する機会もございましたが、大勢の中での御質疑は憚られました。
 それに今は将軍家におかれましても、難儀な時にございます。今暫くの後に、落ち着かれましてから、瀧山様に伺うつもりにございます。
 歳暮のお祝いとは、将軍様、御三卿様、御台様、姫君様の間にて、贈り物が取り交わされます。将軍様から御台様へは、御側衆がお使いとなられます。
 ですが、御年は将軍様御不在にあらせられます上に、先達ての火災で、華やかさに欠けてはございましたが、それでも、御進物を台車に乗せ、その先に付けた紐を引く、お女中の姿が長いお廊下で見られました。
 通年ですと、紙垂を付けた七五三縄が飾り終えますと、お納戸払いが行われ、御台様からお女中へのお召し物のお下がりが賜わされるのが恒例にございますが、こちらも御年は、御松飾りはそれぞれに借りのお住まいをなさっておられるお屋敷で行われ、お納戸払いは、火事で焼けてしまいましたので、行われませんでした。
 それでも年は明けます。
 東の空に、茜色の日が昇りますれば文久四年にございます。どうぞ、天子様と将軍様が手を取り合い、より良き日の本の国をお治めくださいますよう、千代は願っております。
 長州様とも今一度お話になられればよろしいかと。女子の浅はかな望みにございまする。兄様、お笑いにならないでくださいませ。



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