「羨ましいって。あたしがかい」。
「そりゃあ、見かけもさることながら、大店の手代だ。三太がどう逆立ちしたって男として由造に適いやしねえ。そこにきて、腕っ節も強ええとなりゃ尚更さ」。
これには千吉も黙って頷く。由造と三太は見かけひとつをとっても桁外れ。上背もあり涼やかな面差しの由造に反し、その小さな人柄が外見をも占領しているかのように、細くて小さな三太である。顔付も常に眉間に皺を寄せ剣呑な表情。薄い唇はいつも歪んで不平不満を掃き出している。
羨む心が、妬みに変わっていつしか、嫉妬の炎となるのは浅はかな人には多々あること。三太も御多分に漏れず、今や由造に嫉妬しているのである。
「それであの男はあたしをどうしようってのさ」。
「それは解らねえが、まあお前さんが女でも紹介すれば気が修まるんじゃないかい」。
加助の人ごとのような物言いに由造は、眉を吊り上げ険しい表情を見せるが、寸の間の後、ぽんと右手の拳で左掌を打つと、
「妙案がある」。
千吉と加助を手招きで呼び寄せ、三人は頭を付け合わせるように小声で話すのだった。
「駄目だ、駄目だ」。
最初に右手を大きく横に振ったのは加助である。千吉も苦笑い。
「何が駄目なもんか。いいかい、互いに縁のない者同士さ。きっかけさえありゃあ簡単さ」。
由造は、節、竹、友の誰かと三太を恋仲にすれば八方丸く修まると言い出したのである。
「ああいった輩は己を知らず、高望みをするものだ。第一お竹さんは由造、お前さんに惚の字じゃねえか」。
「だから都合がいいのさ」。由造が言いかけたとき、
「案外いいかも知れないね」。
千吉は、三太が落ち着けば妹の奈美に迫ることも無くなるだろうと考えていた。
となると節、竹、友のいずれを三太とめあわせるかが問題となる。
由造は竹。加助は節がいいと言う。この二人、己に言い寄っている相手を三太に押し付ければ面倒が無くなっていいと思っているのだ。
「お節さんは三太よりも一回りも年上じゃねえか。それにどう考えたってお節さんに惚れる訳がねえ」。
「たで食う虫も好きずきさ。それにあんないけ好かねえ男は年上のしっかりとした姉さん女房の方が良いってもんよ」。
そう言うと加助は千吉の顔を覗き込む。先程から何やら考え込んでいた千吉だったが、
「だけど、あたしたちがそんな面倒な事に顔を突っ込まなくても、ほれあの旦那を焚き付ければそれでいいんじゃないかい」。
千吉は、色恋沙汰の大好きな濱部にちょっと告げれば、後はどうにかしてくれるだろうと考えていた。何より、できれば三太には関わり合いたくないのだ。
「お前さんたち物騒な話をしてるじゃねえか」。
豊金の主人の金治である。この日は大根の皮のかき揚げといったまた妙なつまみを千吉たちに試食させている。
「いいかい、始末屋同士がくっ付いちまったら、輪を掛けて手に負えねえ。これ程物騒なことなんぞあるもんかい」。
言われてみれば身震いするくらいに末恐ろしくもある。「この案は取り下げよう」。と千吉が洩らすと、「それじゃあ、あたしはあいつに付きまとわれたままかい」。由造が不満そうに言う。
「そうだねえ、由造を付け回す意味が解らねえや」。
金治も腕を組んで考え込むが、それは大根の皮の天ぷらで幾ら銭を取れるかだ。
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「そりゃあ、見かけもさることながら、大店の手代だ。三太がどう逆立ちしたって男として由造に適いやしねえ。そこにきて、腕っ節も強ええとなりゃ尚更さ」。
これには千吉も黙って頷く。由造と三太は見かけひとつをとっても桁外れ。上背もあり涼やかな面差しの由造に反し、その小さな人柄が外見をも占領しているかのように、細くて小さな三太である。顔付も常に眉間に皺を寄せ剣呑な表情。薄い唇はいつも歪んで不平不満を掃き出している。
羨む心が、妬みに変わっていつしか、嫉妬の炎となるのは浅はかな人には多々あること。三太も御多分に漏れず、今や由造に嫉妬しているのである。
「それであの男はあたしをどうしようってのさ」。
「それは解らねえが、まあお前さんが女でも紹介すれば気が修まるんじゃないかい」。
加助の人ごとのような物言いに由造は、眉を吊り上げ険しい表情を見せるが、寸の間の後、ぽんと右手の拳で左掌を打つと、
「妙案がある」。
千吉と加助を手招きで呼び寄せ、三人は頭を付け合わせるように小声で話すのだった。
「駄目だ、駄目だ」。
最初に右手を大きく横に振ったのは加助である。千吉も苦笑い。
「何が駄目なもんか。いいかい、互いに縁のない者同士さ。きっかけさえありゃあ簡単さ」。
由造は、節、竹、友の誰かと三太を恋仲にすれば八方丸く修まると言い出したのである。
「ああいった輩は己を知らず、高望みをするものだ。第一お竹さんは由造、お前さんに惚の字じゃねえか」。
「だから都合がいいのさ」。由造が言いかけたとき、
「案外いいかも知れないね」。
千吉は、三太が落ち着けば妹の奈美に迫ることも無くなるだろうと考えていた。
となると節、竹、友のいずれを三太とめあわせるかが問題となる。
由造は竹。加助は節がいいと言う。この二人、己に言い寄っている相手を三太に押し付ければ面倒が無くなっていいと思っているのだ。
「お節さんは三太よりも一回りも年上じゃねえか。それにどう考えたってお節さんに惚れる訳がねえ」。
「たで食う虫も好きずきさ。それにあんないけ好かねえ男は年上のしっかりとした姉さん女房の方が良いってもんよ」。
そう言うと加助は千吉の顔を覗き込む。先程から何やら考え込んでいた千吉だったが、
「だけど、あたしたちがそんな面倒な事に顔を突っ込まなくても、ほれあの旦那を焚き付ければそれでいいんじゃないかい」。
千吉は、色恋沙汰の大好きな濱部にちょっと告げれば、後はどうにかしてくれるだろうと考えていた。何より、できれば三太には関わり合いたくないのだ。
「お前さんたち物騒な話をしてるじゃねえか」。
豊金の主人の金治である。この日は大根の皮のかき揚げといったまた妙なつまみを千吉たちに試食させている。
「いいかい、始末屋同士がくっ付いちまったら、輪を掛けて手に負えねえ。これ程物騒なことなんぞあるもんかい」。
言われてみれば身震いするくらいに末恐ろしくもある。「この案は取り下げよう」。と千吉が洩らすと、「それじゃあ、あたしはあいつに付きまとわれたままかい」。由造が不満そうに言う。
「そうだねえ、由造を付け回す意味が解らねえや」。
金治も腕を組んで考え込むが、それは大根の皮の天ぷらで幾ら銭を取れるかだ。
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