その翌日から加助は大変な目に合っていた。件の節が加助に、「棚を作っておくれな」。「流しの木が腐っちまって作り直しておくれな」。と詰め寄るのだった。
流石に鹿の子は付けていないが、それでも朱の紅はさしている。
先達ての千吉の件もあり、「今度はあっしか」。加助は、濱部と節の仲裁に入ったことを悔やんでいた。
一方の近江屋では、小僧が由造に向かい、
「手代さん。手代さんにご用のお方です」。
そう言われて暖簾を手で手繰ると、竹がの姿がある。だが、そこは由造。千吉や加助と違い、どんな女子であろうがはっきりとものを言う。
「あたしになにかご用ですか」。
厳しい口調だが、それに気付きもしない竹は、引っ叩いた詫びを言うのだった。
「でしたら気にしちゃおりませのでもう結構。お帰りください」。
そんな言葉にさえ竹は、俯いて恥じらいながら、
「だったら水に流してくれるってことだね。これからも変わらずに会ってくれるんだろ」。
「水に流すもなにも、変わらずもなにも、あたしはお前さんと付き合った覚えは無いよ」。
竹は寸の間、「えっ」といった表情を見せたが、直ぐに、
「じゃあなにい。あたしの気持ちを弄んだのかい」。
そう由造に食ってかかる。どうやら鶴二に言い寄られた美代の護衛代わりに泊まらせたことや、誤りで水をかけて拭いたことが、竹に恋心を抱かせてしまったらしい。
「お竹さん。申し訳ありませんがね、あたしはお前さんを、旦那様の長屋の住人としか見てやしません」。
今後一切、天地がひっくり返ろうとも竹に惚れることも、竹と添うこともない。由造はその端正な面差しからは想像も出来ぬくらいの厳しい言葉を浴びせ、「商売があるのでこれっきりにしてくださいな」。わざと丁寧な言葉で竹に距離を置くのだった。
そんな荒技ができない加助は、困り果てていた。
「それで今度は加助。お前がお節に見入られたのかい」。
これは愉快とばかりに豊金では主の金治が腹を抱えて笑っている。
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流石に鹿の子は付けていないが、それでも朱の紅はさしている。
先達ての千吉の件もあり、「今度はあっしか」。加助は、濱部と節の仲裁に入ったことを悔やんでいた。
一方の近江屋では、小僧が由造に向かい、
「手代さん。手代さんにご用のお方です」。
そう言われて暖簾を手で手繰ると、竹がの姿がある。だが、そこは由造。千吉や加助と違い、どんな女子であろうがはっきりとものを言う。
「あたしになにかご用ですか」。
厳しい口調だが、それに気付きもしない竹は、引っ叩いた詫びを言うのだった。
「でしたら気にしちゃおりませのでもう結構。お帰りください」。
そんな言葉にさえ竹は、俯いて恥じらいながら、
「だったら水に流してくれるってことだね。これからも変わらずに会ってくれるんだろ」。
「水に流すもなにも、変わらずもなにも、あたしはお前さんと付き合った覚えは無いよ」。
竹は寸の間、「えっ」といった表情を見せたが、直ぐに、
「じゃあなにい。あたしの気持ちを弄んだのかい」。
そう由造に食ってかかる。どうやら鶴二に言い寄られた美代の護衛代わりに泊まらせたことや、誤りで水をかけて拭いたことが、竹に恋心を抱かせてしまったらしい。
「お竹さん。申し訳ありませんがね、あたしはお前さんを、旦那様の長屋の住人としか見てやしません」。
今後一切、天地がひっくり返ろうとも竹に惚れることも、竹と添うこともない。由造はその端正な面差しからは想像も出来ぬくらいの厳しい言葉を浴びせ、「商売があるのでこれっきりにしてくださいな」。わざと丁寧な言葉で竹に距離を置くのだった。
そんな荒技ができない加助は、困り果てていた。
「それで今度は加助。お前がお節に見入られたのかい」。
これは愉快とばかりに豊金では主の金治が腹を抱えて笑っている。
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