畑倉山の忘備録

日々気ままに

日本憲兵隊の物語

2016年09月06日 | 鬼塚英昭

私はこの惨殺(森赳近衛師団長の殺害)事件を調べてきて、ひとつ気になることがあった。それは井田正孝中佐である。彼は集団自殺をあおった張本人であったが、自決しなかった。そして「井田手記」を残した。この手記をもとに、『日本のいちばん長い日』他が書かれたことは間違いない。彼は後に岩田姓を名乗る。塚本憲兵中佐が戦後電通に入社すると、岩田は電通に迎えられる。一九六五年、塚本は「社長室長」となり、岩田は「総務課長」になる。後に二人は電通社内で出世してく。

『日本のいちばん長い日』はー面、日本憲兵隊の物語である。塚本と井田(後の岩田)は、あの日の演出家から大きな役割をふりあてられていた。その二人は、戦後も、その演出家の庇護のもとで、日本最大の広告代理店・電通の力を最大限に駆使して、この『日本のいちばん長い日』の物語が大宅本(大宅壮一編『日本のいちばん長い日』)の範囲を超えないように、絶えず監視の目を光らせていたのではなかったか、と思うようになったのである。これは私の取り越し苦労ではないであろう。

(鬼塚英昭『日本のいちばん醜い日』成甲書房、2007年)