限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

【座右之銘・40】『君子贈人以言』

2010-07-13 00:40:02 | 日記
前回に続いて荀子からの言葉。  

中国は古来から文を尊ぶ、つまり尚文、の伝統がある。それは華麗な美辞麗句の場合もあるし、堂々とした論理的な文章の場合もあろう。しかし何と言っても、一番多いのが、人生のちょっとした指針となる、警句が一番もてはやされる。当然のことながら警句は人々によって創造され、記憶され、さまざまな歴史的場面ので使い込まれていくうちに陰翳を増し、光彩を添えつつ成長する。言葉が人を動かし、歴史を大きく転回させたことは、中国ではまれではなかった。それ故、人々は適切な言葉を贈られることを最大の慶事としたようだ。

荀子の非相篇には、次の句が見える。
『人はぴったりとした言葉を好む。特に君子はそうだ。それ故、人に善言を送るのは、金銀宝石より喜ばれる』
(凡人莫不好言其所善,而君子為甚。故贈人以言,重於金石珠玉。)



この『贈人以言(人に贈るに言をもってす)』は晏子春秋が初出であるが、荀子はどうやらこのフレーズが気に入っていたようで、大略篇で、もう一度次のようなエピソードと共に語っている。

曾子が旅立とうとし、晏子が郊外まで見送った。そして餞(はなむけ)に次のように言った。『私は、君子贈人以言,庶人贈人以財(君子は、人に贈るに言をもってし、庶人は人に贈るに財をもってす)と聞いている。私は貧乏なので、君子ではないが、君子の真似をして、君に次の言葉を贈りたい。車の輪はもとは、普通の真っ直ぐな木であるが、これを曲げて固定して数ヶ月すると完全に丸くなって元にはもどらない。人間もこれと同様、悪い習慣がついては元に戻らない。悪い習慣は慎しまれよ。香草を、蜜酒に浸するといっぺんに香りが善くなる。主君を正すのはこれより簡単で、口先三寸でなんとでもできる。君子の影響力はかくも大きいのだから、その影響の大きさに留意されたし。』
(曾子行,晏子従於郊,曰:「嬰聞之:君子贈人以言,庶人贈人以財。嬰貧無財,請仮於君子,贈吾子以言:乗輿之輪,太山之木也,示諸檠括,三月五月,為帳采,敝而不反其常。君子之檠括,不可不謹也。慎之!蘭芝槁本,漸於蜜醴,一佩易之。正君漸於香酒,可讒而得也。君子之所漸,不可不慎也。」)

私はこの言葉『君子贈人以言』(君子は、人に贈るに言をもってす)を知ってから、晏子ではないが、にわか君子となって、人にこの言葉を贈っている。あるいは、説明するのが、面倒な時は、講談社学術文庫の『中国古典名言事典』(諸橋轍次著)を贈って、この句の説明を読んでもらうように伝えている。
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