紹介が遅れたが、この読書メモで取り上げるピエール・デュエム(Pierre Duhem, 1861 - 1916)について説明しよう。
前回も述べたように、私がデュエムのことを知ったのは矢島祐利氏の『科学史とともに五十年』(中公文庫)である。この本のP.131~146にかけて『先駆者ピエル・デュエム』という一節があり、その中にデュエムの経歴がかなり詳しく書かれている。ざっといえば、フランスの科学者(専門は物理)であり、同時に科学史家でもある。年代的には夏目漱石(1867 - 1916)とほぼ同じであり、55歳で亡くなっている。
Pierre Duhemの経歴は、Wikipediaにも載っている。そのような場合でも私はたいてい、自分の持っている百科事典でチェックしている。今回、下記の百科事典で調べた。
1.日本語:平凡社・大百科事典(1972年版)
2.英語-1: Encyclopedia Britannica (1969年版)
3.英語-2: Encyclopedia Americana (1968年版)
4.ドイツ語:Brockhaus Enzyklopädie(1968年版)
5.フランス語:Grand Dictionnaire Encyclopédique Larousse(1983年)
年代が古い理由は、これらは古本で格安になったものを買ったからであるが、本質的には、私は辞書類や事典類はかならずしも最新のものがベストとは考えていないからである。これはかつての連載記事『良質の情報源を手にいれるには?』でも述べているように、かつての欧文の辞書・事典の方に私の求める情報が多く記載されているからである。というのは、かつての欧文の辞書・事典類は基本的には高等教育を受けた人間を対象にした知識を書くというのが暗黙の了解になっていたように思えるからだ。具体的には、かつての辞書の語源欄にはギリシャ語由来であれば、ギリシャ文字で語原が記載されていた。また、百科事典にはギリシャ語やラテン語の単語や句が、時には現代語への翻訳文なしに記載されていることも間々見られる。
今回、Pierre Duhemを調べると1~3は記載なしであった。Britannicaに記載なしとは、少し驚いたが最新版には載っているのかもしれない。
4.ドイツ語と5.フランス語には以下に示すような簡単な説明があった。それぞれの百科事典に記載されている原文と、Google翻訳の英文を掲げる。
4.ドイツ語:Brockhaus Enzyklopädie(1968年版)
Duhem [dy'ɛm], Pierre Maurice Marie, French physicist, philosopher, * Paris 10.6.1861, † Ca- brespine (Aude) 14.9.1916, Jesuit, professor of theoretical physics in Bordeaux, representative of classical thermodynamics, developed a scientific theory that became particularly influential in the Vienna Circle. According to this, the laws of physics are nothing but symbolic constructions that reflect reality neither completely nor true nor false. Philosophy serves to develop metaphysical hypotheses for a provisional understanding of the world. Through his well-founded research into the history of science, he paved the way for a new and better understanding of scholastic physics.
Works. La mixte et la combinaison chimique. Essai sur l'evolution d'une idee (1902); L'evolution de la mecanique (1903; German The Changes in Mechanics and the Mechanical Explanation of Nature, 1912); Les origines de la statique, 2 vols. (1905-07); La theorie physique, son objet et sa structure, 2 vols. (1905-06, 1914; German aim and structure of physical theories, 1908); Essai sur la notion de theorie physique de Plato and Galilee (1909); Etudes sur Leonard de Vinci, 3 vols. (1906-13, 21955); Le systeme du monde (5 vols. 1913-17, 10 vols. 1954-59). P. HUMBERT: P. D. (Paris 1937); Ph. FRANK: Modern science and its philosophy (Cambridge 1949).
5.フランス語:Grand Dictionnaire Encyclopédique Larousse(1983年)
DUHEM (Pierre), French physicist and philosopher (Paris 1861-Cabrespine, Aude, 1916). Lecturer at the Faculty of Sciences of Lille (1887), then at that of Rennes (1893), finally professor at the Faculty of Sciences of Bordeaux (1894), he was elected to the Academy of Sciences in 1913. He brought together theoretical works in his Treatise on Energy or General Thermodynamics. A historian of science, he began in 1913 the publication of the System of the World, History of Cosmological Doctrines from Plato to Copernicus, of which five volumes appeared before the Second World War; the last five having been published between 1954 and 1959. ( Bibliography)
この2つを比べて、ドイツ語のBrockhausの方がフランス語のLarousseより文章分量が多いことには意外な感じがした。
ドイツ語の百科事典は、たいていにおいて形容詞の語尾部分が省略されている。例えば3行目から4行目にかけての「der theoret. Physik」とは「der theoretischen Physik」(理論物理学の)と意味である。これはいやしくもドイツ語の百科事典を読もうとする人間であれば、この程度の省略は何も言わなくても正しく読めるはずという前提で書かれているといえる。それに比べて、フランス語の百科事典は語の省略はかなり少なく、よく出会うのは c.-à-d. (即ち)程度である。
それにしても、このGoogle翻訳の英文を見る限り、フランス語原文の意味が正確に読み取れる。2020年代以降の自動翻訳のレベルの高さはセミプロ的とさえいえる。とりわけ、数年前に彗星のように現れたドイツの DeepL との競争でGoogle 翻訳のレベルも一層高まったことは良いことだ。私のDuhem、全10巻読破挑戦もこのような最新のITテクノロジーの助けを借りながら進めていこうとしている。
(続く。。。)
前回も述べたように、私がデュエムのことを知ったのは矢島祐利氏の『科学史とともに五十年』(中公文庫)である。この本のP.131~146にかけて『先駆者ピエル・デュエム』という一節があり、その中にデュエムの経歴がかなり詳しく書かれている。ざっといえば、フランスの科学者(専門は物理)であり、同時に科学史家でもある。年代的には夏目漱石(1867 - 1916)とほぼ同じであり、55歳で亡くなっている。
Pierre Duhemの経歴は、Wikipediaにも載っている。そのような場合でも私はたいてい、自分の持っている百科事典でチェックしている。今回、下記の百科事典で調べた。
1.日本語:平凡社・大百科事典(1972年版)
2.英語-1: Encyclopedia Britannica (1969年版)
3.英語-2: Encyclopedia Americana (1968年版)
4.ドイツ語:Brockhaus Enzyklopädie(1968年版)
5.フランス語:Grand Dictionnaire Encyclopédique Larousse(1983年)
年代が古い理由は、これらは古本で格安になったものを買ったからであるが、本質的には、私は辞書類や事典類はかならずしも最新のものがベストとは考えていないからである。これはかつての連載記事『良質の情報源を手にいれるには?』でも述べているように、かつての欧文の辞書・事典の方に私の求める情報が多く記載されているからである。というのは、かつての欧文の辞書・事典類は基本的には高等教育を受けた人間を対象にした知識を書くというのが暗黙の了解になっていたように思えるからだ。具体的には、かつての辞書の語源欄にはギリシャ語由来であれば、ギリシャ文字で語原が記載されていた。また、百科事典にはギリシャ語やラテン語の単語や句が、時には現代語への翻訳文なしに記載されていることも間々見られる。
今回、Pierre Duhemを調べると1~3は記載なしであった。Britannicaに記載なしとは、少し驚いたが最新版には載っているのかもしれない。
4.ドイツ語と5.フランス語には以下に示すような簡単な説明があった。それぞれの百科事典に記載されている原文と、Google翻訳の英文を掲げる。
4.ドイツ語:Brockhaus Enzyklopädie(1968年版)
Duhem [dy'ɛm], Pierre Maurice Marie, French physicist, philosopher, * Paris 10.6.1861, † Ca- brespine (Aude) 14.9.1916, Jesuit, professor of theoretical physics in Bordeaux, representative of classical thermodynamics, developed a scientific theory that became particularly influential in the Vienna Circle. According to this, the laws of physics are nothing but symbolic constructions that reflect reality neither completely nor true nor false. Philosophy serves to develop metaphysical hypotheses for a provisional understanding of the world. Through his well-founded research into the history of science, he paved the way for a new and better understanding of scholastic physics.
Works. La mixte et la combinaison chimique. Essai sur l'evolution d'une idee (1902); L'evolution de la mecanique (1903; German The Changes in Mechanics and the Mechanical Explanation of Nature, 1912); Les origines de la statique, 2 vols. (1905-07); La theorie physique, son objet et sa structure, 2 vols. (1905-06, 1914; German aim and structure of physical theories, 1908); Essai sur la notion de theorie physique de Plato and Galilee (1909); Etudes sur Leonard de Vinci, 3 vols. (1906-13, 21955); Le systeme du monde (5 vols. 1913-17, 10 vols. 1954-59). P. HUMBERT: P. D. (Paris 1937); Ph. FRANK: Modern science and its philosophy (Cambridge 1949).
5.フランス語:Grand Dictionnaire Encyclopédique Larousse(1983年)
DUHEM (Pierre), French physicist and philosopher (Paris 1861-Cabrespine, Aude, 1916). Lecturer at the Faculty of Sciences of Lille (1887), then at that of Rennes (1893), finally professor at the Faculty of Sciences of Bordeaux (1894), he was elected to the Academy of Sciences in 1913. He brought together theoretical works in his Treatise on Energy or General Thermodynamics. A historian of science, he began in 1913 the publication of the System of the World, History of Cosmological Doctrines from Plato to Copernicus, of which five volumes appeared before the Second World War; the last five having been published between 1954 and 1959. ( Bibliography)
この2つを比べて、ドイツ語のBrockhausの方がフランス語のLarousseより文章分量が多いことには意外な感じがした。
ドイツ語の百科事典は、たいていにおいて形容詞の語尾部分が省略されている。例えば3行目から4行目にかけての「der theoret. Physik」とは「der theoretischen Physik」(理論物理学の)と意味である。これはいやしくもドイツ語の百科事典を読もうとする人間であれば、この程度の省略は何も言わなくても正しく読めるはずという前提で書かれているといえる。それに比べて、フランス語の百科事典は語の省略はかなり少なく、よく出会うのは c.-à-d. (即ち)程度である。
それにしても、このGoogle翻訳の英文を見る限り、フランス語原文の意味が正確に読み取れる。2020年代以降の自動翻訳のレベルの高さはセミプロ的とさえいえる。とりわけ、数年前に彗星のように現れたドイツの DeepL との競争でGoogle 翻訳のレベルも一層高まったことは良いことだ。私のDuhem、全10巻読破挑戦もこのような最新のITテクノロジーの助けを借りながら進めていこうとしている。
(続く。。。)