限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

百論簇出:(第271回目)『若い時に鍛錬する語学が一生の財産になる』

2023-04-02 14:31:07 | 日記
自慢話に聞こえるのを承知で、語学学習に関する私の個人的経験を話してみたい。

私は若いころ(20才代前半)ドイツ語に惹かれ、念願のドイツ留学を果たすことができた。当時は、ドイツ語で身を立てようとして、ドイツ語力の向上にいそしんだ。1年のドイツ留学から戻ってきてからは京都に多くいたドイツ人のパーティに参加させてもらい、ヒアリングとスピーキングを磨いた。その後、社会人となり、会社からアメリカ留学させてもらったが、アメリカ滞在当初はまだドイツ語の方がよくできた。その後の2年間は、英語の環境にどっぷりとつかっていたこともあり、英語力は順調に伸びたが、その反面、残念ながらドイツ語の力は少しづつ、ずり落ちていった。

ところがアメリカ留学から戻り、1年して東京勤務となったが、幸運なことにオーストリア大使館が毎月のようにパーティを開催していたので、いそいそと出かけていった。流石にオーストリア大使館だけあって、毎回、ドイツ語を母国語とするオーストリア人、ドイツ人、スイス人など何人かはいたので、アメリカ留学でサビついたドイツ語を取り戻すことができた。もっとも、総体的にみれば、ここでも英語での会話が多かったのは事実だが。 ところが、数年してオーストリア大使館の財政的な理由から、この楽しい環境が無くなってしまったので、それ以降ドイツ語を話す機会がめっきり無くなってしまった。

当然、語学力は会話だけでなく、本を読んだり、文章を書いたりすることで持続できるので、その後は、ギリシャ・ローマ古典のドイツ語訳の本を読むことでかろうじてドイツ語とは縁をつなぎとめている。最近では、数年前からインプレス社の IT Leaders (Web版)に「麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド」というタイトルでほぼ毎月のようにドイツ語のWeb記事からドイツのIT事情を紹介していることで、いわば強制的にでもドイツ語に触れる機会を作っている。しかし、やはり脳への刺激と言う点では、会話に優るものはないのは正直な感想だ。

さて、話は変わるが、以前のドイツ留学中、ヨーロッパを旅行しているとヨーロッパ人の年配の方の中には、60歳や70歳を過ぎても尚、外国語を堪能に話せる人が多くいたことに当時の私はびっくりした。というのは、年をとると記憶力が衰えるはずなのに、どうして老年になっても外国語の単語を忘れずにいられるのだろうか、と不思議に思った。

それから数十年経って、私自身がそのような年齢になって初めて実体験することができた。

というのは、最近、孫をつれて少し遠くの緑豊かな公園に出かけることがあるのだが、ときたまその単純な公園の名前を思い出せないことがある。記憶力が落ちたかな、と内心嘆くが、必ずしも記憶力そのものが落ちたわけではない。というのは外国語 ― 私の場合は、英語とドイツ語であるが ― の単語は普段全く使っていないにも拘わらず、大部分(多分 90%超)今でもしっかり覚えているからである。テレビの第二音声や YouTubeの動画で、字幕なしで英語を聞いてみても、たいてい支障なく理解できる。英語のケースはそうだとして、ドイツ語ではどうだろうかと、試しにドイツ語のYouTubeの動画が理解できるか聴いてみた。

Vortrag Künstliche Intelligenz und Industrie 4 0 Andreas Wagener Hochschule Hof

この動画はAIに関する最近の話題であるので、内容は難しくはない。講師はかなりの早口であるが、ほぼ支障なく理解できる。途中、囲碁のAIソフトのAlphaGoと李世乭(イ・セドル)の対戦にも言及しているので、結構よく楽しめた。ついでに、同じような内容のYouTube動画も見たが、これも問題なく理解できた。

Blick in die Labore ? Künstliche Intelligenz in der Medienanalyse,Medizin,
Robotik und Produktion


ついでに、フランス語も試した。フランス語は会話系はダメなので、本を読んで理解度を試したが、これも単語、文章ともかなり高いレベルで語学力がキープされていることが分かった。

以上のことから、医学的な説明はできないが、私の個人的な感覚からいえば外国語の単語や文法の記憶領域と、公園の名前の記憶領域は脳の別の場所にあるのではないかと想像する。これから、上で述べたように、年配のヨーロッパ人がかなりの高齢になっても外国語が堪能なのは、何も特別なことでなかったと分かった。ただ、誰もかれもが老齢になるまで語学力を維持できるとは考えていない。というのは、以前のブログ
 百論簇出:(第77回目)『語学を伸ばすには、若いころの海外滞在が必須』
で述べたように、老齢まで語学力を維持するには、若いころに語学力がかなり高いレベルに達している、つまり『ハイスコア組』である必要があると思えるからだ。つまり、若い頃の語学力がブロークンレベルである『ロースコア組』は老年になると外国語は、読み書きだけでなく、聞く話すもかなり難しいと想像する。

結論として、
「語学力は25歳までに基礎固めをきっちりしておかないと一生ものにはならない」
と述べておきたい。ただし、25歳という年齢は、多少譲歩しても35歳までにだと思う。

ところで、上に挙げたドイツ語のYouTubeの動画だが、講師のAndreas Wagenerはかなりの早口でしゃべっている。その背景にはドイツ人は早口でしゃべることが「知性」の高さを示すという感覚があるようだからだ。かつて、何人かの非常に早口でしゃべるドイツ人やイギリス人に出会ったことがある。彼らの早さはAndreas Wagenerの更に1.5倍程度であった。そこまでくると、流石に本国人にも分からないことがあるようだ。このような早口でも話の筋道が分かっていると、なんとかキーワードを掴むことができれば会話は成り立ったものの、会話中ずっと冷や汗ものだった。しかし、このような早口の話者に慣れると、普通の速度の話者の話は極めて容易に聞き取ることができる。野球では、剛速球に慣れてしまうと普通の球は、あたかも止まっているように見えるというが語学についても言える。ここから分かるのは、英会話の練習において、わざとゆっくりと話している教材は、会話能力の上達に逆効果であるということだ。残念ながら、 NHKの英語放送や、英語教材は読者に良かれと思って、わざとゆっくり話しているが、これではいつまでたっても徒労疲れするだけだ。試みに、YouTube の動画を1.3~1.5倍速程度で聴く練習をしてみたらいかがだろうか?
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