くまだから人外日記

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【偽書】短期集中掲載『来夢の扉』…青葉起(た)つ 10

2014-02-27 05:25:58 | 【偽書】シリーズ
「勝利さん。我々どうすればいいんですか」
投手陣を束ねる宮東と、移籍二年目にして野手を束ねる大押は声を揃える様に青葉に詰め寄る。

「こらこら。お前達、打撃不振で冷や飯喰らわされてるオッサンを苛めるなや」
天野美琴はいきり立つ二人をなだめつつも、振り返り青葉の顔を見る。
「とは言え、このままだと、昨年よりヤバいよな。昨年はチーム自体不振傾向だったけど、今年は個々人はそれほど悪くない。ただ、ただきっかけが無いんだよな。チームやベンチ、ファンを巻き込んで巻き返すムードってやつは、簡単には起こせないにしろ、何とかせねばチームの活気も萎んじまう」

「俺がやるよ」
青葉はハッキリした口調で居合わせる中堅選手らに答える。

ミーティングルームに集まった約十人の投手野手の主要メンバーは、一斉に青葉の方を向く。

「やる、って。まさか監督代行とか?」
「まさか。不振の俺がそんなのやっても勢いなんか生まれないよ。俺は選手だ。選手がやることはひとつだろ」


後にその場所にいたある選手はこう語る。
「マジ怖かったす。あの温厚な青葉さんが、鬼気迫る勢いでいきなり立ち上がったんですよ。バットを持って。居合わせたメンバー全員ぶんなぐられるかと身構えましたよ。勿論そんなことはせずに、青葉さんはバットを持ったままベンチ裏のドレスルームへ素振りをしに向かったんですけど、間違いなく背中にはメラメラ燃える紅蓮の炎見えてましたから。そして翌日のあの件ですからね。本当に驚きましたよ。あれでチームもムードが変わったんです。やはり青葉さんは凄いですわ。ほんま」




「ご心配かけました。大事を取っての精密検査と一日中安静を取って、ご覧の様に元気です」
粟山を取り巻く取材陣達は、“いやいや、顔真っ青ですから”とも言えず、ひたすら談話をメモしたりICレコーダに録音する事に専念せざるを得なかった。

「青葉選手は二試合出番が有りませんが、抹消もされていませんよね。曖昧な立場にあると思いますが、出す、下げるのご判断は?」
敢えて地雷を踏みに出た新婚のアナウンサーは独特の関西弁で粟山に問うた。

「出しますよ。出すつもりだから貴重なベンチ枠に入れているんどすぇ」
慣れない京都弁で粟山は答えた…んどすえ。