くまだから人外日記

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12【偽譜】ジャンキー・サクソフォン 12

2014-02-08 00:53:48 | 【偽書】シリーズ
12

「吹いたね、風がさ…」

右手にチャート速報のデータを持って、背広が嬉しそうに白パンに語り掛けた。

「興味無えなぁ。判り切った事だろ」

「いやいや、あの男性グループばかりの大会社や少女集団の向こうを張って、オリコン1位なんだよ。これは凄い」

「単にそいつらが今回楽曲を出していなかっただけだろ。それで無くても、インターネットで“音”を売買するご時世だ。CD媒体だけで勝った負けたなんて、奴等の会社は考えちゃいないだろ。こう言うはずさ。デカいスポーツアリーナを毎回満員動員してから言え!とな」

白パンは背広に背を向けて、速報値のプリントを見もせずに嘯いた。

「やる気なんだろう、それを…」

「あいつら次第だ」






「あれ~アタシ何でこんな所で寝てんだろう…」

古びたオフィスの会議室に仕切られた応接コーナーの長椅子で目覚めたミキは辺りを見渡す。

「あれ~!またやっちゃった?」

扉が開き、白パンが顔を出す。

「いい加減、ギグの度に酒カッ食らって、事務所を救護室にするのはやめてくんねえか?ガキじゃねえんだからよ」

「じゃあ何なんですか?“商品”?」

ミキは寝起き(しかも二日酔い)とは思えないハッキリした口調で尋ねた。


「お前さんは、ガキじゃ無くて“お転婆”ネェチャン!だよ」

「一応人間の女扱いなんですね」

「はなからそのつもりで接して来たんだかな~不満か?」

「全然、満足です。お酒を呑ませてもらえない以外は」

「未成年でしかも無茶苦茶弱え癖に何言ってやがる」

「みんなが呑むお酒が強過ぎるんです!」

「昨日なんて水みたいな水割り一口飲んでぶっ倒れたくせに、何ヌかしてやがる」

「あれはアルコール度数が50は超えています」

「そんな水割りあるかッ!」

「じゃなければあんなに簡単に酔いません!」

「ヌかしてな。顔洗ったら、事務所のネーチャンに声掛けな。熱いミルク用意してくれっからよ」

「ご飯に味噌汁がいい。味付海苔と…」

「俺が食いたいぜ、それなら」

「じゃあ行きましょう。この前見つけたんですよ。事務所の側で朝から営業している定食屋」

白パンは腕時計を確認してから、返事していた。

「じゃあ、行ってみっか」

「じゃあ、善は急っそげ!」

ミキは長椅子から飛び起きて白パンの腕を掴んで出口に向う。

「お~い、ツラくらい洗えや」