くまだから人外日記

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【偽伝】平成八犬伝奇譚with9G 外伝1『哀しき八月の凱歌』 40

2014-02-17 00:20:40 | 【偽書】シリーズ
「ふ~ん。詩織ん、妙なものを拾ったのねん」
「誰からですか?」
「バカ殿の所のサルからよ。偶然見かけたとかのメール、有り得ないし。このガキんちょ追ってたのね。まぁ、半蔵に気をつけんのね。大方ワンコの所絡みなんだろうし。まぁチビっこを放って置けない所がデカいだけの詩織んの唯一の取り柄だしね」
「猿飛様神出鬼没ですね」
「単なるストーカーよ。才蔵とおんなじで」
「報われませんね。主君の他にわざわざ太閤にまでお友達の情報を知らせてくれたのに」
「バーカの子分はやっぱりバーカ」
「じゃあ、桃恵様の子分は?」
「何よ。千ちゃん。アンタ誉めてもらいたい訳?」
「別にそんな。桃恵様はどう考えてるのかな、と」
「桃恵はお利口さんだけど、他の人は知~らない」
「急にお茶が苦くなりました」
千利休は食後のお茶に顔をしかめる。



「ほう。誰か天候を変える印を切りましたね。かなり稚拙な技ですが、それなりに想いを込めている様子ですね。しかしこれでは望みは叶いそうも有りませんね。仕方がない。私がちょいとお手伝いしておきますか。同乗者は既に意識が無いご様子なので、私の術式を披露出来ないのが残念ではありますが」
晴明は機体を再度上昇し眼下に広がる瓦礫の灼熱地平で天に向かい謳う忠深を見つめながら、遥かに強い印を切る。

みるみるうちに眼下に地表を覆う様な漆黒の雲が広がって行き、やがて晴明の機体からは地表は全く見えなくなった。
「降りますよ…」




「タダ、雨が降らない所か更に暑くなっていないか?」
智海の言葉に答えることもせずに、一心不乱に勅を吟じる忠深。
「ふぅ。思い込んだら頑固な犬士の中でも屈指の頑固者だからな。タダは…」
雲ひとつ無くなった真夏の八月の空を見つめる智海。
「呪術が使えるなら誰も苦労しないし、下手に使えても玉梓みたいになっては手に余るし。やはりコツコツやるしか無いのか」
虎尼の力自慢の大男の配下達が歪んで潰れかけた灼熱の鉄扉を素手が焼けていくのも意に介さずに交互に怪力でこじ開けようとするのを見つめて、忠深は主君を思い玉梓と戦った日々を懐かしく思い出した。

あの日から拙者達はどれだけ成長出来たのだろう。少なくとも拙者は何ら変わらない気もしている。
入道様は大きくなったと誉めてはくださったが、その実月子姉様や仲間達に守られて戦ったあの日々から…。