くまだから人外日記

くまだからくまなのだ。

それでいいのだ。

【偽譜】ジャンキー・サクソフォン 13

2014-02-16 20:10:41 | 【偽書】シリーズ
「だからさ、ここの小節は…」

「それよりここのリフを…」

ノッポ杉山とデブ田代は、事務所で顔をあわせては暇があると、楽譜を挟んで、議論を戦わしてしる。

相変わらずミスった北海道のベー子は、音合わせギリギリにやって来ては、ベースの調律を素早く済ませる。

予定時間キッカリに白パンの後ろに着いて、親父ギターがスタジオに顔を出す。

そして、五分遅れて、ミキがボサボサの頭で現われるのが、お約束だ。

「おはよう~」

決まった様に、背広が苦い顔で時計を指さす。


その間オレは一人スタジオの隅でサクソフォンを吹きまくる。


譜面をなぞると、どうしても音符の裏の間合いがシャキッとしない。

風が吹かない…

各々が楽器やマイクの前に立つ。

スティックが打ち鳴らされ、リズムにメロディが乗り、そこにハーモニーが重なると、ミキのボーカルが風を巻起こして入り込む。


今日もイカしてる?

間奏でオレのパートが滑り出す。

まぁ、イイんでないの!

行間に足りなかった音が風に煽られて自然と飛び出す。

小さなつむじ風がやがて金切音をあげて疾風と変わってゆく。

この風に、メンバー達は吸い込まれて行く。

明日もご機嫌な夜会になりそうだ…


ガラスの向こうの白パンが、ミキサーに指図して音をトレースさせる。






「今夜は、何だか客層が違ったな」

親父ギターが白パンに尋ねる。

「少し年齢高めの異質な集団が(笑)」

ベー子も白パンににじり寄る。

「ダウンタウンなお姫様を閲覧に来られた、業界各位の皆様…だったなぁ」

ノッポが指摘する。

「その通りだ。開演前に、“ご挨拶”に来られたよ。お歴々が…」

白パンがニヤリと笑う。

「そして、次のニュースだ。ほれ」

白パンは背広を急かす。

「え、ええと~来週から、ホールで3ヵ所、他に雑誌・ラジオ・ネットテレビの取材が複数件…」

「へえ~出世しましたなぁ、ミキ嬢…」

ノッポが驚く。

「それと個別にバックのメンバーにもレコーディングなどの依頼が来てるぜ。後でコイツに聞いときな」

白パンが背広の肩を叩く。

白パンはオレの隣りに座って言う。

「ザ~ンネンながら、ムサシへの依頼は0だ。まぁ当然…かな?」

悔しいが、他のメンバーに比べたら、二回りも三回りもバックサポーターとしては差があるのは事実だ。

「しかしな…」

「?」