くまだから人外日記

くまだからくまなのだ。

それでいいのだ。

【偽書】虹メイル・アン 〔第八話〕藍深き深海より聖者は鐘を打つ 7

2018-02-26 18:48:18 | 【偽書】シリーズ
「海底には特に何の変化も見られませんね。海上ではどうしてそんな非科学的な話題で盛り上がれるのでしょうね」
サニーは救助艇のモニタデータに注視しているセイラに語りかける。
セイラはモニタデータの解析に使用しているエリアを切り離して、視線はそのままに音声データエリアをオープンにしてサニーへ返答する。

「あの“黄色”にみんなつられているのでしょう。妙に叙情的になりすぎると事象を正しく判断出来ませんからね。正直私にはノイズみたいな存在です」
「ドクター敷島が最初に設計したとされるセイラにはそうなりますよね。機械体で構成されている私達メイルにはそれは当然の反応でしょう。ルナの前に設計されたリンダあたりまでは理解出来ますが、セイラの次に設計されたとされるメルティまでも、今やルナに似た反応を見せています」
「サニーはどうなのです?私達にルナの様な思考は必要だと思いますか?確かに私達は同じドクター敷島により設計された“姉妹”体ですが、機能はともかくこうまで七体別々の思考は必要なのでしょうか?」
「七人でしょ。翔太郎ならそう言いますよ」
「正直私は七“体”で構いません。私達はメイルなのですから。人間に敵対する相手に対抗する為に異なる能力を与えられる事には意味を感じますが、どうしても思考部分に大量の演算機能を割いてまで感情や思考を切り分ける事には理解出来ないのです」
セイラは相変わらずモニタデータから視線を外す事無くサニーに問いかける。

「分かりません。私達は何の為に感情や思考を切り分けられているのか?でも…」
「でも?」
「もし力や技術が必要ならそれに特化した機械体を造れば事足ります。でも機械が人間にとって最良の判断を自ら下しそれを自ら行動する立場になるべく設計したいと、ドクター敷島が考えての事なら」
「人間より僅かに力がある程度のあの黄色に、ドクター敷島は一体何をさせたいというのでしょうか」
「それも分かりませ。単に人間の相手をする受け身の会話ならAAI(全対応型人工知能)タイプで事欠きませんからね」
「会話相手にもなりませんよ。あの黄色は」
「ですが…」
「何を?」
「ですが、セイラを含めた私達六“人”がルナをバックアップすれは…データでも個々の特殊能力でも…そうすれはあるいは…」






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筆者敬白

新春ドリームマッチ2018 鬼のイヌ間にババ抜きを 21

2018-02-25 20:02:54 | 【偽書】シリーズ
「正直孫可愛さも程々にして貰いたいですよね」
桃太郎の刀を受けながら碧が愚痴る。
「碧ちゃん。押されてるよ」
じりじり足元の土が削れて後退させられて行く碧。
「女なんぞに押し負けるものか」
「お婆さんに守ってもらってる人の言うセリフじゃいと黄菜は思うよ」
碧の背中を押す黄菜。
「緑ちゃん、攻めて」
「だけど桃子ちゃん。またお婆さんが出て来たら今度こそ死んじゃうかも」

「なるほど。鬼も逃げ出す作戦ですね」
「何で?」
「桃太郎を狙っても、老婆が出て来て傷つければ、老人を傷つけた罪の意識も沸きましょう。下手をすれば殺してしまいかねませんから手を出せませんね」
「でもあれだけ弱っていればいずれ…。そうなれば金太郎や浦島太郎も加勢して桃太郎を狙うよ」
「それも計算しての桃太郎の作戦の様ですね」
「ふうん…そうなの」
気のない返事をかぐや姫に返すとその場を離れる看護師。
「おや?どこへ行かれるのでしょうか」
「オシッコ」
「冬は冷えますからね」
「十二単を着てぬくぬくしているアンタに言われたくないな」
「更にカイロ入りですわ」
「あは…」
呆れ顔を見せて足を急がせる看護師。
「漏れそうなのに我慢していたのでしょうか?」


「どうする碧ちゃん?お婆さんと桃太郎さんを引き離さないと…このままでは黄菜達…」
「だから、僕の名前は…」
「ハイハイ。ピーチプリンス桃太郎様…」
緑はへりくだって言う。
「茜ちゃんはここで待ってて」
“はよせな、ウチら真っ裸やで”
「その時は大事な所を桜の花びらででも隠してて」
そう言い、桃子は碧達の方へ向かって駆け出す。
“ちょっと待て桃。ウチの豊満な肢体を花びらなんぞで隠せる訳あらへんやろ〜待てゆうとんのや”
「嘘はいけませんね。ゴジラの件といい…」
かぐや姫は茜の方を呆れて見つめて言う。
“せや。おんどれ十二単来てるならウチらに一枚づつ貸してえな。同じ女同士やろ”
「ノーサンキュー」
“姫やなくて鬼やな…”
「なら成敗しますか?桃太郎の様に」
“おんどれ。何が言いたいんや”
「何故鬼達は桃太郎に退治されたのでしょうね」
“桃太郎より弱いからやろ”
「人ならざる彼等が全力で当たれば桃太郎と小動物達など赤子の首を捻るより容易かったでしょうに…」
“つまり?鬼達は桃太郎に全力を出せない理由が?”






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筆者敬白

「ラスト・ダンス」 恋人はサンタ…なんかじゃない… 6

2018-02-23 13:26:40 | 【偽書】シリーズ
「大成功だったわ。ヒロイン役お疲れ様」

女社長から握手を求められ、着替えの終わったタレントははにかんだ握手を返す。

「バカ殿様以外は、ね」
バカ殿様の衣装の俺を見て、余計なひと言を付け加えなければ、可愛い女社長で通るのにな。

「大体何でバカ殿様?ゲームに出て来ないじゃないのよ」
「ご希望ならば今からプログラム変更してラストバトルはバカ殿様と…」
「ノーサンキュー」
女社長は右手の掌をバカ殿様に向けて一閃。
それはゲームに出て来る老師匠の技の真似であろう。似ていないが…。
「でもまぁ、貴女よくヒロインを演じたわね。研究したの?」
俺はもう話題に用無しになったと見えて、女社長は振り向いてタレントの方に話し掛ける。
「いえ。マネージャーから受け取った何枚かのFAXの画像のポーズを真似ただけで。きっと準備して頂いた衣装が素晴らしかったから、誰が着てもあのヒロインに見えますよ」
「ご謙遜ね。年が明けたらテレビCMの撮影だから、年末年始は肌のお手入れを怠りなくね」
あんたは芸能マネージャーか?俺は二人のやり取りを見兼ねて、一服しにホテルの中庭に向かう。



「あっ…バカ殿だ。だっふんだ〜やってくれよ」
両親に連れられて来たのか小さな男の子…いや、悪ガキが絡んで来る。
「今日は定休日だ」
「殿様なんだから年中無休だろ。サービス業と殿様は働いてナンボじゃないのかよ」
糞ガキめ…。
「本日の営業はしゅうりょうしました。ガラガラガラ〜」
「他のお笑いのパクリをやる殿様がどこにいるんだよ!」
「どうもすいませんでしたッ」
「それもパクリじゃんか。しかも全部中途半端にネタ古いし」
「ゲッツ!」
「もういいよ。殿様やめて黄色いスーツでも着てろ!」
そう言い残して俺と入れ違いにホテルの中に駆け込んで行く糞ガキ。

イブの夜はイベントの中、月明りに紛れてサンタを迎えに行った様だ。
俺は衣装のポケットからワンカップならぬ缶コーヒーを取り出す。
さっき売店で買ったものだが、既にホットでななくウォームコーヒーになっている。
外気は容赦無く薄い衣装から体熱を奪って行った。
リングプルを引くと、一瞬だけコーヒーの香りがして、直ぐに茶褐色の液体に変遷して行く。それをグイッと一気に飲み干す。
「さて。帰るとするか」
「その格好で帰るの?」
声に驚き振り向くと、羽根付甲冑姿のあのタレント女がそこにいた。




注・本作品は2012年12月から2013年にかけて掲載したものを一部加筆修正して掲載しております。






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筆者敬白

新春ドリームマッチ2018 鬼のイヌ間にババ抜きを 20

2018-02-22 14:28:54 | 【偽書】シリーズ
「ああ…茜ちゃん。ひとりで勝手に突っ込んで行ってはなりませんよ。桃太郎さんの思うつぼです」
「だから、ピーチプリンス桃太郎とだね」
「もうまどろっこしい。私もしびれ切らしたわ!」
「ああ。緑ちゃんまで勝手に」
「もう行くしかありませんね」
「せっかくマネープリンス金太郎さんとマリンジェットプリンス浦島太郎さんが仇を討つって言っているのに…疲れるな〜」
「マネープリンスじゃないし。意味が変わるだろ。ゴールドだから」
「何だよその船舶みたいな呼び名は。マリンだけでいいんだよ」
「バラバラに戦っちゃダメだよ。茜ちゃん。緑ちゃん」
「…て、こいつら全然聞いていねえ」
「俺達も行くぜ」

「なら、私はさながらムーンプリンセス…と、言った所でしょうか?」
「何それ。ん十年前の流行りの美少女変身ものの流れみたいな代名詞は」
「ムーンライトセレナーデ!」
「やめぃ!」
戦況を見つめておちゃらけるかぐや姫にすかさず戻って突っ込みを入れる看護師。


「秘剣・斬天丸の冴えを見よ!秘技桜吹雪」
“うわ〜季節外れの吹雪…って、今正月やん…あれ?目に桜の花びらが…”
「茜ちゃん。花びらで目かくしされちゃったからメモに字が書けなくなってるわ」
「バラバラに当たっては危険ですよ、緑ちゃん」
「風に対抗するには風だよ。かまいたちウィング〜」
黄菜の起こす風でとび去る花びら。

「うう…」
ただ唸る茜。
「何が言いたいの?茜ちゃん」
「たぶん“ウチの目に張り付いた桜の花びらを取ってくれ”ですよね」
碧の言葉に頷く茜。
「仕方ないわね。だいたい車椅子に乗って先頭で行くなんて」
桃子が張り付いた花びらを剥がす。
“死ぬかと思ったで”
「大袈裟な」
“うわ〜来た!”
「ちょっと〜メモに書く暇があるなら自分で車椅子動かして逃げてよ〜」
迫り来る桃太郎を避けてけて茜の乗った車椅子を押して逃げる桃子。
「行かせませんよ」
「邪魔立てするなら切る」
「加勢するよ。碧ちゃん」
緑が碧の横に並び桃太郎の刃に向かいうつ。
「アイスシールド!」
腕の装甲で刀を受ける碧。
「植物には植物でお返しよ。グリーンティエッジ」
鋭利な茶葉のつぶてを桃太郎に放つ緑。
「桃太郎ちゃん危ない!」
桃太郎を庇い再び盾になる老婆。
「うわー。お婆ちゃんがまた…」







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【偽書】虹メイル・アン 〔第八話〕藍深き深海より聖者は鐘を打つ 6

2018-02-19 00:26:00 | 【偽書】シリーズ
「ドイツにある河川ライン川にまつわる名前でしょうか?この深海に川など…」
カレンは正宗誠志朗の言葉に反応する。
「あの川のその名前の別名が『待ち伏せする者』や『待ち受ける者』と呼ばれている比喩なんだが、海域のあの深度の辺りは調査挺に時々不思議な現象に陥るんだよ」
「怪奇現象…?」
ルナが不安な顔をする。
メイルなのに非科学的な物に恐れを抱くなんて何だかね。

「これまでも、あの海域で深度六千辺りにたどり着くと無人の探索挺や機材がまるで待ち受けている人魚にでも誑(たぶら)かされた様に……」「errorなのか…」
メルティが不安そうなルナ張りに眉をひそめる。
うん、まあ、機械思考にエラーは怖い存在たろうけれど。
「そんな場所にセイラやサニーを送り込んで大丈夫でしょうか」
カレンは不安そうな顔をする。
「確かに、挺や私達機械体は、強い地場などではベストの力を発揮出来ない場合もありますからね。あくまでも可能性の領域ですが」
アンはなだめる様にカレンに返答する。
日増しにみんな人間くさい感情を所有しているのかな?

ー「カ…エ…レ…」
「だ、誰?カレーライスの話をするのは」
謎の声にルナが慌てる。
「カエレ…でしょ。相変わらず聴覚センサーも狂ってるの?ルナは」
リンダが呆れる。
「今の声スピーカーを通して聞こえた様な」
「探査挺のマイクが拾ったのかしら」
ー「私達は何も言っていませんが」
僕達の会話を聞いていたセイラが返事をする。
「セイラ達には聞こえましたか?」
ー「可聴領域音ではありますが、発生源は不明な音声です」
「まだ音声と決まった訳じゃないぞ」
正宗誠志朗は非論理的な事はメイルである彼女達以上にとことん追求したいタチの様だ。
「音声解析によれば、二十代から三十代の若い女性の音域に近いですね。勿論人為的に機械で出した音の可能性もありますが」
「まさか人魚の声では?」
メルティがカレンに尋ねる。
「可能性が無いとは言いませんが、何せ人魚の音声データサンプルがありませんので」
ー「どちらにしてもこの深海に人間の女性が存在しているとは想定出来ません。人魚なら水圧に耐え得うる内蔵ならあるいは…と、言いたいですが、そもそも声を出す肺が水圧に耐えられません」
海底でも変わらずセイラは冷静だった。
「でも、人魚は人間と同じ耐浸透圧とは限らないよね。長らく海で生活しているだろうし」
あっ。つられて僕まで。






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