くまだから人外日記

くまだからくまなのだ。

それでいいのだ。

【偽書】虹メイル・アン 〔第六話〕緑の大地に英雄は眠る 5

2016-11-27 09:01:50 | 【偽書】シリーズ
「降下開始」
「GO!」
合図に従い、アンを先頭に、メルティ、リンダ、サニー、カレン、セイラの六人が原発敷地へ向けてヘリから飛び出す。
六人のメイル達はそのコーティングされた六色のボディを煌めかせて降下し、着地前に減速の為の小型のパラシュートが開く。

「メイルが使用するのを想定して開発された特殊小型パラシュートですから、地上から狙撃されにくいとは思います。人間だと加速が速すぎて着地の衝撃が危険ですが」
警察の特殊機動班の隊員が説明する。
確かにアン達は生身の人間なら引力で地面に叩きつけられてしまいそうな勢いで降下して行く。

ー「目標地点に到達。着地します」
アンの声がレシーバーを通して聞こえて来る。
間髪を入れずに第二信が入る。
ー「虹メイル六体着地完了。これより原発内に突入します」
「気をつけて、アン。みんな」
ー「了解」

上空から六人が敵に破壊された原発への入り口の中へ消えて行くのが見える。

「難波部隊長、六体のメイルが原発内へ入場しました」
ー「了解。今セイラからの位置情報入信。視認域で何か動きがあれば連絡されたし」
ー「了解です」
名探偵と読みが同じな近代地刑事が難波刑事(さん)に甲高い声で応答する。
ヘリの中はどうしても声が通りにくいからね。
アン達なら通信してデータで会話するから大して声は高くならないけれど。
僕が手にしたモバイルモニターからはアンの視点の映像が入信してくる。敵は侵入の為に壁面をかなり派手に破壊した様だ。
薄暗く灯りが付いた廊下には、異常や外部からの侵入を知らせる赤色灯があちこちで点滅している。

ー「職員らが拉致されていると目される場所まで約五十…」
そこでアンからの音声が途切れ、モニターへの映像が切断された。
画像データ送信の能力を演算に切り替えざるを得ない事態になったのかも知れない。
「状況を説明して。アン」
マイクに向かう僕の声はヘリコプターの中に虚しく響く。

「戦闘に突入したのでしょうか」
「分からない」
近代地刑事の問い掛けに、僕はそう言い首を振るだけだった。


「かなり激しいジャミングを受けています」
「私達の相互通信に干渉する目的の様ですね」
「みんな、赤外線通信とアルゴリズム音声に切り替えて意思疎通に切り替えます」
カレンとセイラの言葉を受けてアンが指示を出す。






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筆者敬白

【偽書】雪華残像(9G) 33

2016-11-23 20:11:26 | 【偽書】シリーズ
私達の部屋の扉が再びノックされた。
「どなたですか?」
「明かりをお持ち致しました」
執事さんの落ち着いた声を聞いて、私は部屋の扉の鍵を開ける。

「さぞかし驚かれたでしょう」
執事さんは頭からずぶ濡れでバスタオル三枚(私と幸の分も使っていた)にくるまりべそをかいている杏を見て言った。
「目を開けたらお風呂が真っ暗になっていて…怖かったよ〜もうダメかと思ったよう〜」
「杏ちゃん。大袈裟過ぎ」
幸は杏に呆れて言う。
「最初に新庄様のお部屋を訪ねましたら、葛城様の部屋に先に明かりを持って行って欲しいと申されまして」
「ありがとうございます。停電の原因はやはり落雷ですか?」
私は冷静な顔を崩さない執事さんに原因を尋ねた。
「その様でございます」
執事さんは部屋のテーブル脇に古いスタンドを立ててキャンプなどで見かけるオイル式のランタンを掛けて点火する。
ホワイトガソリンの燃える匂いが部屋に 広がった。
「なんだか落ち着くわね〜電気と違って赤く燃える火は」
幸は少し嬉しそうにホワイトガソリンを燃焼して燃える炎を見つめる。
「早く電気が復旧してもらいたいよ…ガタガタ…」
杏はバスタオルに埋もれる様に震える。
寒さではなく怖さに…。
「残る小早川様のお部屋にランプをお付けしたら鉄塔の電機設備を至急点検致しますので、しばらくお待ち下さい」
「大変ですね。アクシデントとは言え」
「これも仕事のうちです」
「プロですね。執事さんは」
幸は平然と言ってのける執事さんに感心したように告げる。
「とんでもございません。長旅でお疲れの皆様をもてなすどころか更に疲れさせてしまい心苦しい限りでございます」
「小夜子さんは?大丈夫ですか?」
幸が若い当主を思いやる。
「大丈夫でございます。お優しいのですね。山東様は」
「幸は鬼だよ。あんなに私がバスルームから助けを求めたのにシカトするわ冷たくあたるわで」
杏はそうとう怖かったと見えて、恨み辛みが半端ないわねえ。
「高校生の杏ちゃんでさえこうなんですから、小さな小夜子さんなら…」
「人それそれだろ〜」
「確かに小夜子様はお小さいですが、この屋敷の当主としてご立派なお気持ちをお持ちでございますよ。自分よりまずはお客様に灯りを…あと申されまして」
「なら今は真っ暗な中に?」
流石に私も驚く。






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筆者敬白

【偽書】虹メイル・アン 〔第六話〕緑の大地に英雄は眠る 4

2016-11-20 17:56:53 | 【偽書】シリーズ
ー「既に警察側のメイル対処班が到着したらしいが、外壁を守備する部隊がいるらしく、中へは入れていない状況だ」
対処班とは言え生身の人間だから、戦闘用のメイル相手では分が悪いよね。

「難波刑事。敵の総数はどれくらいでしょうか?」
アンが尋ねる。
ー「約15体と推察される」
「特殊事案があれば、詳細データをセイラまで転送して下さい」
ー「了解だ。頼りにしているよ。みんな」
難波刑事(さん)はモニターの向こうの僕らに頭を下げる。
「任せてよ。アン達が必ず悪事を阻止してくれる」
ー「それと、分かっているとは思うが、万が一に備えて、翔太郎君はその移動ヘリに待機してもらう。最新鋭とはいえ、原子力発電所の危険リスクに対して一般市民まして子供を送り込む事は出来ない」
「うん。分かった。改めて頼んだよ。みんな」
六人のメイルが一斉に僕に頷く。
「任せておきなよ。翔太郎」
「それとも一人留守番は寂しいですか?」
「ルナじゃあるまいし。大丈夫だろ?翔太郎」
メルティとサニー、それにリンダが僕に語りかける。
「僕は大丈夫だよ。それより被害を最小限に抑えるんだ」
「了解です。翔太郎」
アンが歯切れのいい返事をする。
「目的地上空です」
パイロットの声に、僕らは窓の下に広がる広大な防護ゾーンに囲まれた原子力発電所を眺める。
「警察本部から本案件の詳細データを受信しました。データ共有します」
セイラは六人にデータ転送を開始した。
「中には原発職員と警察の特殊部隊がいます。まず彼らの安全を確保し、敵部隊を殲滅します」
アンが他の五人に言う。
「場所が場所だけに、慎重な対応が必要となりますね。万が一核が拡散しては大惨事につながります。後、勤務している生身の職員の被爆は避けなくてはなりません。私達とは違い、後々までの生命に関わりますから」
「多数の職員の安全には細心の注意を払ってね、みんな」
「了解です。では行きましょうか」
六人のメイル達は特殊作業用の降下パラシュートを背負い、パイロットの指示を待つ。

「目的地上空です。高度を下げますか?」
パイロットの問いにセイラが首を振る。
「無風状態ですからこから降下しても問題無いでしょう。ねえ、アン?」
「そうですね。不要な接近は危険を増す可能性も高くなりますから、この高度から一気に突入しましょう」
六人が頷くのを確認すると、パイロットが合図をよこし、近代地刑事がハッチの安全装置を解除する。





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サウザント・クロノス・ナイツ 銀髪のノーラ 『四つのクロノス その2』 19

2016-11-17 18:31:31 | 【偽書】シリーズ
ある村で謀反者を退治し、村長(むらおさ)の家で湯を借りたバナーィは、ひとり武具を外して湯を浴びる支度に取りかかっておりました。
平時であれば、居城に到着するまでは武具を外すなど有り得ない事でしょうが、慣れぬ気候の地での度重なる戦闘に、気を休めたくなるのも理解出来ぬ話ではなかったでしょう。

「騎士様、お支度手伝いましょうか?」
村長の末娘が扉から声をかけます。

「いやいや、手を煩わせるには至らぬ事。そこにある沐浴布を置いて下さればそれで良い」
「では、これを」
娘は手に持った布を扉の内に置いて立ち去ろうとした時でした。
村長の屋敷の外にけたたましい騒音がしたと言われています。
「賊軍か?先程の仲間が仇を取りに参ったのか?」
バナーィは再び武具を身に纏うべく湯室を出て先程外した武具を身に掛けようとした時、まだ残っていた村長の末娘に気づきました。
「ここは危険だ。早く外へ…」
爆音が響く外の気配に恐れを成した娘は既に腰を抜かし失禁している様子でした。
「ならばせめて湯室の中へ…」
娘は怯えただ首を振るばかりです。
「埒が開かん」
騎士バナーィは娘を抱え上げると湯室へ運び込み、再び湯室の外へ出ます。
外の気配は一刻の猶予も無い様子に聞こえたのでしょう。
バナーィは一瞬の躊躇があったのか、胸当ての武具を装着する際、武具の稼動部を保護する金具をひとつ落としてしまいます。
「しまった」
運悪く、金具は古い板床の隙間に落ちてしまいました。
「仕方がない。今は他の武具だけを纏う事にしよう」
もし、バナーィが冷静に一旦胸の武具を外して床下に落ちた金具を拾い上げれば、あのような悲劇には陥らなかったであろうと言われています。

ひとつの金具を除いて武を纏ったバナーィは屋敷の正門に陣取る無頼者達の群れの中に切り込んで行きました。


「村を略奪して回る野党共よ。人の道を外れた不埒者め」
「理不尽な搾取を繰り返す領主のせいだ。我々にも生きる権利がある」
「それを理由に村人から搾取するには値せず」
「はなから説得など考えておらぬわ。うぬも刃の塵になってもらうだけよ。お前ら、全員でやっちまいな。騎士の首を捕った者の褒美は…この村長の家の娘達だ。好きにしていいぜ」
命知らずな無頼者達は大挙して騎士に向かって刃物を向けて突入して来ました。







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【偽書】雪華残像(9G) 32

2016-11-16 06:21:58 | 【偽書】シリーズ
「停電…ね」
「真っ暗…」
早矢と姫は互いにあまり意に介さないように、まるで日常の出来事の様に停電を語る。
それは次に起こる事を二人共良く知っていたからだ。
夜の停電は、普通の女子校生なら悲鳴のひとつもあげて慌てたり逆に固まったりしがちなものだが、二人のそばには、夜になり目を醒ました月子がいた。
「月ちゃん。お願いね」
寝ていた月子の夕食のディナーを執事さんに頼んで特別に部屋に運んでもらっていたのをのんびり食べていた月子が、姫の言葉に頷いて…。

「わぁ明るい」
「いつもながら驚かされるわね。月子のその“特技”と言うか“才能”は」
姫と早矢は昼間と変わらない明るさが戻った部屋の中で笑う。
姫は月子の夕食のおかわりを手伝い、早矢は食後のお茶の支度を始める。
自身の内部からハロゲンライトの様な発光を始めた月子の灯りを頼りに。

「入るよ〜早矢」
扉をノックして部屋に入って来る詩織は笑いながら部屋を見渡す。
「やっぱりこの部屋は“月子の灯り”か」
「わざわざ来てくれたの?」
「亨留(みちる)が一応確認してくれってさ」
「見ての通りよ。月子が居るからこの部屋に停電は関係ないわ」
「ディナーは旨いかい?月子」
「うん。温め直しとは思えない出来だよ。詩織」
月子は自ら発光する灯りで器用にナイフとフォークを使い食事を進める。
「隣の部屋はどうなの?」
早矢はピンときたのか、詩織に尋ねる。
「杏が入浴中らしくてパニクってたよ。まあ、いつもの事だけどさ」
「杏ちゃん臆病だから。でもよく夜な夜な出かけるわよね。バイクに乗って。後ろに幽霊とかいたら怖いのにね」
姫は他の三人がギョッとするのを見て首を傾げておっとりと尋ねる。
「あれ?何か変な事言ったかしら〜」
「姫のその発想の方が怖いよ〜」
詩織は真顔で姫の方を見る。
「でも確かにそれを言ったら怖がりの杏は二度と夜中にバイクには乗らないでしょうから、同室の幸は喜ぶかもね。不良の乗り物に杏が乗らなくなって(笑)」
早矢はニヤニヤ笑って詩織に熱いお茶を振る舞う。
「それを言ったら恨まれるよ、姫」
杏の夜の“外出仲間”の月子はそれは困るといわんばかりに食事を終えてナイフとフォークを皿に置く。

「で、どうするの?今夜は」
「このまま復旧しなければ、大人しく眠るしかないかな…」
「夜は寝るのが一番よ。詩織ちゃん」
早々とパジャマに着替え終えた姫を見て、詩織は頷く。
「そうだね」







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