くまだから人外日記

くまだからくまなのだ。

それでいいのだ。

【偽譜】ジャンキー・サクソフォン 14

2014-02-18 20:52:15 | 【偽書】シリーズ
「遂に二千人規模のホールかぁ…」

他人事の様にミキが言う。

「その会場(ハコ)を5日間、直ぐに地方を5ヵ所だ。初の“地方巡業”だな」

オレたちゃ力士かよ。

白パンのセリフにゃあ笑えない。

「今回からは、ミキには専属のスタイリストとヘアメイクがつく」
ふーん。いよいよ客席から遠くなる分“ビジュアル”重視か。

「どっちでもイイよ、ワタシは」

ミキは歌える事が、何より大切なんだな。

メンバーも、あくまでミキが楽しく歌う為の顔ぶれであれば、ステージ以外で多少皮肉や癖があってもお構いなしだ。

オレには気になると、言った事があるが、ミキは

「アタイはステージに上がれるだけ幸せよ」

と、聖女みたいなセリフをヌカしやがった。
酒に弱い癖に酒癖の悪い聖女様だ。


「イベンターからはとにかく、出演依頼が引っ切り無しだ。しかも、会場(ハコ)開けて待ってるから、一日も早く、だとよ」

白パンは、オレ達二人を、パンダでも見る様に言ってのけた。

「笹は好物じゃない」

オレはうっかり思っている事を口にした。

「何だ?菜食主義者か?オメエは…」

「だから、嫌いなんだよ。笹は」

「どうしたのよムサシったら急に」

ミキはおかしそうに笑う。

「先に予定していたツアーやレコーディングも前倒しだ。日程変更をお前達の偉大なマネージャー様が社長と調整中だ」

背広と社長?

一度だけ会ったが、アイツは食えない。

オレは無視…それはイイ。だがミキは仮にもてめぇん所の商品だろう。それを疑い深げに腐ったミカンみたいな者を見る品定めな目つきだった。

実際腐っていようがいまいが、今ミキは確実に売れている。
それは事実だ。

何でオレはこんな事に腹を立てているんだろう?
もっと貪欲にこの世界でのし上がる算段をするべきなのかも知れないが、何だか割り切れない気分だ。

ともかく、間違ない事は、ミキの歌が必要とされている事だ。少なくとも今、は。