くまだから人外日記

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【偽書】短期集中掲載『来夢の扉』…青葉起(た)つ 4

2014-02-09 23:06:40 | 【偽書】シリーズ
青葉は悟られない様に身構えながら、顔は変わらず笑顔を作っていた。

「無理に笑わなくても構いません。いちファンの不愉快な言葉でしょうから」
目が見えない分、気配や耳などが優れているのか、青葉の変化を見ている様に言い当てられる。


「主人は目が悪い分、耳が良くて少しの動きでも理解出来るんです」
婦人がすまなそうに青葉に詫びる。

「ハハハ。そうですか。何だか耳が痛い話かなと、つい身構えてしましました」
青葉は正直に膝を崩して前のめりになる。
ここは隠し立てなく拝聴しよう。
青葉は腹を括る。

「是非お聞き頂きたい」





「粟山さん!」

監督室に向かう北海道ブルースカイカントリーズの監督粟山を呼び止めたのは、元チームエース投手で現在野球解説者でもある兼村だった。
「兼村君か」
「色々大変ですね」
「試合前の取材かい?」
「今は単に元OBとしてチームを心配して、ですよ」
「面目ない」
「端から見ていても、あと一息なんですけどね」
「勝ちきるにはピースが一枚足りないんだよ」
「それは、青葉さんの事ですね」
「若手があっさり彼を超える活躍をしてくれたなら答えは簡単さ。そう上手く行かないところだからね。この世界は。不調でも経験を取るのか、実力は足りなくても将来的を取るのか」
「究極の命題ですね。チームプレーの。現在は前者重視ですか」
「だから乗り越えられる若手が居ればね。兼村君から見て誰か二軍に居るかい?左の勝負強い打者は」
「いい左は大体一軍に上がっちゃいましたかはらね。いっそ右でも上げてみては?」
「で、代わりに誰を下にやるんだい」
「あ…」

兼村は言葉を止める。
ーそうか、まさか不調でも今は青葉さんは下にやれない。かといって今は左はみんな悪くない。右を上げて右を下げでも大した意味はない。
悩ましい所だな。

「そこはやはり断腸の思いで青葉さん…でしょうか」
「マスコミ諸氏や解説者、果てはファンからもそう言われているんだろうね」
「でしょうね」
兼村は偽らざる気持ちを同意で伝える。

「ふぅ。長いシーズンを戦うにはベテランは不可欠だが、うちはベテランは青葉とミックしか居ない。攻守の要がひとりづつしか居ないんだよ。そこが悩みさ」