くまだから人外日記

くまだからくまなのだ。

それでいいのだ。

黍(きび)色ミラージュ騎士団(四聖獣〜戦巫女の間のストーリー) 13 第1章 枯れ野の薔薇12

2019-07-21 11:54:55 | 【偽書】シリーズ
「確かにギルバートの仕えしクイーンより騎士を拝命したとブラン公よりの親書には記されておるが、儂は女性が剣を振るうのはどうにも好かんのだ」
「教皇様っ!」
「どうした、ヴィエラ?」
「古(いにしえ)、太古より、星々の諍(いさか)いの度に、四聖の加護を得し四人の皇女や女騎士が現れ戦乱を収め、新たなる歴史を紡いだと聞いております」
「古き伝承の後に脚色された逸話であろう。神事を司る儂が言うのもおかしな話だが、その方が臣民に説くのに都合のよいものに変化しておるのではないのかな」
「誠に申し上げ難いのですが、それは否」
「何と?」
「かつて、幽閉されておられた教皇様の先祖を救出したと言う辺境の星の娘…騎士とは名ばかりの元服にも満たぬ娘が挙兵し、多難の末に古龍の血を受けた竜騎士を倒し、見事時の教皇様を救い出したなるは真実」
「逸話をまるで見てきた如くによくもまあ…」
「ならば…」
ヴィエラはドレスに纏われた左の腕を晒して見せます。
「それはもしや…」
「誹の紋章に御座います」
「うら若き娘がそのような刺青など…」
「刺青ではございません」
「たいがいにしておくが良いぞ。儂をたばかる気か」
「たばかってなどおりませぬ。失礼」
ヴィエラは一歩進み、教皇への距離を詰めました。
「とくとご覧下さい」
「真(まこと)と申すのか?馬鹿馬鹿しい」
「私にはこれ以外他に騎士を願い出る証を持ちません」
ヴィエラが左腕を目線にまで持ち上げ教皇への方へ更に一歩歩みを進めた時でした。


「失礼ながら、面白い趣味をお持ちの様子ですわね」
謁見の場となる小聖堂の正面より、使いの従者を二人引き連れた女性が、教皇の下使いに導かれて入堂して来たのです。
「そなたは先程謁見を終えた…帝国皇家筋ヴュルドのタキューレス嬢」
「無礼を承知で参ってしまいました。外で聞くとも無しに聞いていたら、この茶番。教皇様をたぶらかすにも程がありますわ」
「たぶらかすなど」
「ならば、騎士への決意の程をお見せになられればよろしいでしょう。この竹光の剣をお取りなさい」
「タキューレス嬢」
「教皇様。神聖なる聖堂での座興をお許し下さいませ。あくまで装飾もなしの練習剣。それで私の太刀を交わして反撃して見せなさい。騎士と言うからには、一国の星の姫の素人剣などに勝るのは容易い筈」
姫君はひゅんと慣れた太刀捌きを見せてヴィエラに対峙します。





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筆者敬白

【偽書】『エトランゼ・異邦人』 28

2019-07-18 10:36:10 | 【偽書】シリーズ
「そうですよ」
「勘弁してくれよ。単なる夜間救急のバイト医者なんだぜ。俺は」
琢磨医師はひねた様子で村野に食ってかかる。
「琢磨先生…」
村野は急に声のトーンを変えて、まるで琢磨が取調室に連れ込まれた容疑者の如くの物言いをする。





「お前らの計画など、これでお終いだ。残念だったな」
「くそう。こうなれば新たな傀儡を呼び出して」
「無駄だ。既にあの世界との媒介となる神殿もじき海底に沈む。もう二度と私達の様に一度死んだ人間を異世界から召喚する事は出来ない」
「あと少しだったのに…」
「諦めろ。命があるだけ幸せだろう。少なくとも私達の様に一度死んでまで兵略の為に召喚されるよりは、な…」
「命などこの世界を収めずして何の意味がある」
古びた法衣の老人は手にした爆薬を地面に叩きつけると、一瞬にして身体は砕ける様に大気に消えて行きました。
「最後まで…」
ひとり残されたアンティゴッドは、自身以外は赤く燃える太陽以外息をする者すら居ない大地に立ち尽くすだけでした。



「これが魔界ドールズですか…」
日比谷監察官が勝手に机に積んで読みふけっていた漫画の最終巻のラストをペラペラとめくりながら村野は気のない言葉を発した。
「村野君。君は推理小説は種明かしから読むタイプなんだね」
「たかだか漫画でしょう?別に謎も何も」
「ここに至るまでのストーリーすら飛ばして何が楽しいのやら」
「それはこちらの台詞ですよ、監察官。こんな趣味は無いとか仰っておりませんでしたか?」
「こんな趣味は無いが、あの医師の思考を知る最短の資料だ。昨日はDVDも全巻視聴したよ」
「それは仕事熱心な事で」
「単なる興味だよ。何故彼がこれに熱をあげるのか」
「分かりましたか」
「まあね」
日比谷監察官は眼鏡を外して目をしばかせると、再び眼鏡をかけてニヤリと笑った。
「美少女が出てくるからですか?」
「確かにそれもあるだろうが、基本的に彼は異環境に置かれた異邦人を好む体質なのだろうね。医学生になる前にはインド辺りを放浪したりしていたそうだし」
「らしいですね。あの病院の医局付の看護師もそう言っていましたから」
「この漫画の主人公は自ら望まないにしろ異環境を生き抜いて行く。そんな異邦人に共感しているのだろうね」
日比谷監察官は最終話直前の本を閉じると、村野が無造作に積んだ最終巻の上に丁寧に置いた。
村野の置いた最終巻だけが日比谷監察官の積んだ他の本とは向きがズレたまま置かれて位置し、更に違和感を醸し出す。
それはまるであの少女であり、琢磨の様でもあった。





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筆者敬白

黍(きび)色ミラージュ騎士団(四聖獣〜戦巫女の間のストーリー) 12 第1章枯れ野の薔薇 11

2019-07-15 03:16:17 | 【偽書】シリーズ
「ギルバート。何故(なにゆえ)にこの様な城の姫君の様なキラキラしたドレスを纏わねばならぬ。騎士を願い出る為に教皇殿の元を訪ねるのだろう?これでは逆効果なのではないか?」
「もし騎士としてお目通り叶わぬ時には、教皇殿の下女として仕えるのも悪くなかろう」
「勘弁してくれ。ギルバート。私は騎士になりたいのであり、教皇殿の世話などしたくは無いぞ」
「なあ。ヴィエラよ」
「どうした急に?険しい顔をして」
「お前が如何に騎士に成りたいのかを素直に語れば良いのだ。それまでは中途半端に男崩れの服装をするよりは、如何にも女である姿の方が好感を持たれる」
「そんなものか?」
「お前は間違い無く女なのだ。騎士に成れようが成れまいが」
「絶対騎士になる!」
「それでよい。その矜持を示せば良いのだ」
「矜持…」
「四聖の加護を受けし四皇女の逸話を地で行けばよい」
「そんな古(いにしえ)の御伽噺など何の役に立つ…」
「それはお前の本気の度合いで決まる」



「帝国皇家の流れを汲む亜星の名家“ヴュルド家”の姫君タキューレス嬢からの謁見要請が御座います」
「済まぬな、騎士よ」
「どうぞお気になさらず、そちらをお先に」
教皇への取次を仕切るタルキニス卿は小さく一礼すると二人の従者を引き連れて扉の外へと出て行った。

「とっとと謁見を終わらせて、この軽いだけで何の防御にもならい動きを妨げるサテンのドレスを早く脱ぎ捨てたい」
「今暫くの辛抱だ。ステラ」
ステラは踵も固定されていない絹の紐靴を交互にぶらぶらさせて、ステラは前後に歩いては戻り戻っては歩くのを繰り返したといいます。



「待たせたな。ギルバート。ブラン公からの念入りな親書には目を通させてもらった。そなたの後ろに控える者が…」
「この者、ヴ・ェント・マルウェア・ローサーで御座います」
「済まぬが、どこにでもいる若い町娘にしか見えぬ。騎士ではなく、身の回りを世話する下女なら不要だぞ。ギルバート 」
「骨の髄まで騎士で御座います。この者は」
「ヴ・ェント・マルウェア・ローサー、ヴィエラで御座います。以後お見知り置きを」
「ヴィエラよ。貴公は何故(なにゆえ)に騎士などを目指す。男に仕え、やがて身を固め婚礼し子孫を産もうとは思わぬのか」
「確かに私は女でございます」
「うむ」
「しかし、私は国を、この帝国を守護しとう御座います」
「無数におる男が守護するのではいかんのか?」
「私も教皇様よりその一員の任を受けとう御座います」





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筆者敬白

黍(きび)色ミラージュ騎士団(四聖獣〜戦巫女の間のストーリー) 11 第1章 枯れ野の薔薇 10

2019-07-08 04:07:25 | 【偽書】シリーズ
「剣はともかく、ブラン公からの親書だけでは話が遠かろう」
「歴代教皇の中でも保守的で懐疑的な御人と名高い現教皇ですので」
「何か良い土産でも無いものか」
「いっそ本人をお連れになっては?」
「おいおい。スダーフネス…、いや、それも有りかも知れぬ」
「本気に取られては困りますぞ」
「保守的だからこそのショック療法はどうだ」
「何の取り柄も無い者を謁見させて何をさせるおつもりか?まさか教皇と酒の飲み比べをさせてガイロックスの様にねじ伏せさせるおつもりか」
「まさか。そんな事をさせれば、衛兵につまみだされる。あるのだよ。あの者にしか出来ない事が」
「騎士の家系でもない者に何を求めるおつもりか?女である事を生かした色仕掛けなら無謀な事ですぞ」
「分かっておる。そんな浅はかな事をさせる考えは無い。近年減ってはいるが、古(いにしえ)の習いを示せばよい。時代が変わり騎士も様々な者がいる。まあ、荒くれ騎士は古代からおるであろうが」
「もしや古き伝説の四騎士たる皇女達の話を?団長、あれは根拠の無い逸話でありましょう」
「女ばかりの騎士が狂える古龍を従えた国同士の戦争を収めた逸話。しかし、単なる逸話と片付けられない事象も多々あるであろう。例えばこれだ」
ギルバートは小さな鉱石を手にしました。
半透明の光を放つその小さな鉱石は、四方によっつの光を放ちます。
「それは、もしや、女騎士たる四皇女達が所持していたと噂されるカラムラント鉱石?」
「不思議であろう。何故自ら光を放つのか。しかも四面別々の色で」
「伝説は聞いてはいましたが実物は初めて見ました。そのようなものをどこから?」
「私の祖父が所持していた」
「先々代様は何を?」
「騎士では無いが、古き従者の家系だったと聞く。騎士は祖母側の家系だった」
「もしや騎士と従者の…」
「勿論祖母自身は騎士などではない。だが祖父は祖母と何らかの縁で結ばれた様だ」
「時代を考えれば多難な婚儀でありましたでしょうな」
「今でもそうだ。大して変わらぬ。人間とはかくも家柄、氏と育ちを重んじる生き物なのだ。そんな祖父がこれを託してくれた。騎士とて王家の従者。ならばそれを貫く事が我が星の生まれを賜った者が宿命なのだ」



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サウザント・クロノス・ナイツ 銀髪のノーラ 『四つのクロノス その2』 50

2019-07-07 07:31:21 | 【偽書】シリーズ
「そうだよね」
「阿修羅と恐れられた女部隊長の相手だ。それでも教皇を拉致した敵であるなら倒さねばなるまい」
「うん」
「それにしてもノーラがそんな事に興味を持つとはな」
「そんな事?」
「あの女の相手が誰だとか、腹の中の子の父親がどうとか」
「それくらいの知識はボクにもあるよ」
「待て、ノーラ。ここでは他の騎士の手前もある。その何だ、儂の耳元でそっと話せ」
「へんなの。スペクターらしくないや」
ノーラはスペクターの耳元でこそこそと考えを話しました。
「お前、その年でそんな事まで知っているのか?」
「小さな声で話せと言っておいて声がデカいよスペクター。こんな事、ボクの星では小さな子供でも知っているよ」
「そうなのか?」
「スペクターの故郷ではみんなは知らないの?元服過ぎないと、とか?」
「よく平然と話せるな、お前は」
「単なる知識でしょ?剣の鋳造と変わらないよ」
「ノーラの知識は子供を産むのと剣の鋳造は同列なのか?」
「うん」
「そうか。まあ、いい。間違った知識でなくて安心したぞ」
「変なの」
驚くスペクターを見つめてノーラは呆れた様に呟きました。

「さて、では東の塔の入り口へと向かうとするか」
スペクターはその言葉に続けて小さく呟きます。
「儂がノーラくらいの年の時は、そんな知識すらあやふやだったぞ。妙に知識の進んだ星だな。ノーラの故郷は…」
スペクターはやれやれと言った顔でス・サルバの切った髪を脂紙にくるみながら東の塔の頂上を見つめます。
「真にあの塔の頂におられるのか?教皇様は?」
ノーラの持つコインで決めた進軍を今ひとつ信じ切れないスペクターどありました。


「ス・サルバも破るとは。案外あの小娘と参謀は侮れないと言う事か。副隊長への伝令を済ませたなら即部隊を増やさなくてはなるまい。まあ良い。この尖塔は守るに易く攻めるに辛い構造。しかも奥の手もある。あの守備隊長の様に隙さえ見せねば、勝利は必須。後は時間を焦らねば難もない」

優れた武功を評価され部隊分隊長として東の塔入り口分隊の指揮を執る若き兵士は緑色の瞳を曇らせながら、伝令部下のス・サルバの戦いの顛末の報告を聞き入ったといいます。

「マズカ様…」
「副隊長には包み隠さず報告せよ。ス・サルバが敗れた内容も」
「かしこまりました」
「塔の最下層への増軍、それと例の薬の使用の許可を受けよ」





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