くまだから人外日記

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【偽書】短期集中掲載『来夢の扉』…青葉起(た)つ 7

2014-02-13 10:52:25 | 【偽書】シリーズ
球場用務係が球団職員を呼びに行き、そこにこちらに向かって来たヤチと出くわす。
「あっ、ヤチさん。青葉さんがまだ」
「俺から声を掛けるよ。ロッカールームの掃除を始めなよ」
やはり青葉さんはあの老人の言葉を…。


通路脇のサブのドレスルームは電気が消えていた。しかし中からはバットの素振りの音がしていた。

…電気も付けずに。
球団職員の彼は非常灯の緑色の明かりだけの室内で、温厚なあの青葉とは別人、まるで鬼神の様にバットを振る大汗をかいた青葉が居た。

「失礼します。青葉さん。試合は終わりましたよ。チームも全員引き上げたんでロッカー室を閉めたいんですが」
声にハッとした様にバットを振る手を止めて振り返る青葉ははいつもの顔に戻っていた。
「そうか。試合はどうだったんだ?ヤチ」
「大地とミックさんが得た得点を中継ぎ継投陣が死守して勝ちましたよ。連敗脱出です」
「そうか。やはり俺がブレーキなんだな。こんな年寄り要らないよな」
「そう思っていないからこの時間までバットを振っていたんでしょ」
「ベンチでふてくされて座ってる方がいいか?」
「勘弁して下さいよ」

「冗談だよ。俺の要不要は監督が決める事。俺は出番があれば結果を出すだけだ」
「期待してますからね。一緒に優勝のビールかけが出来る事を」

「ところでさっきの夫婦に“アレ”は渡してくれたかい?」
「席に案内した後急いで事務所に戻って準備して再び席に行って手渡しましたよ 。最初は固辞されていましたし大変恐縮していましたけどちゃんと渡しましたから」
「ありがとう。それまでには目鼻をつけるよ。下に落とされない様に」
「さ、汗を拭いて着替えて下さい。球場の関係者も帰れませんから」
「試合にも出ていない奴のせいで職員さんが帰れないなんて噴飯ものだね、全く」
青葉はいつもの笑顔に戻っていた。



「勝ちましたね。監督」
「勝てちゃったね」
「長い連敗を何とか止めましたよ」
「必死だよ。明日の中継ぎまで投入したんだから。先発含めて八人、最後は延長に備えて良平にも肩作らせてたからね」
「こんな時二刀流選手がいて助かりますね」
「冗談じゃないよ。明日はスキッと勝ちたいよ」
「所で青葉選手がスタメンを外れてベンチにも居ませんでしたが」