くまだから人外日記

くまだからくまなのだ。

それでいいのだ。

【偽書】『エトランゼ・異邦人』 26

2019-06-20 17:30:51 | 【偽書】シリーズ
「その間に別のルートを探る訳ね」
「この人物が監視役に適任だと思うよ」
日比谷はある人物の写真付きの身上書を的場浩華に渡す。
「警察はその筋で動いているのね」
「まあね。おっと会議の時間に遅刻してしまうな」
「もう夕方よ」
「プライベートな会議だよ」
「女性?」
「さあ?」
「まさか男性とか?」
「さあね。今度会えたらその後食事でもどうだい?」
「お返事は今度会えた時にするわ」
「オーケー」
「ちょっと日比谷君。私の質問の答えはどうしたのよ?」
日比谷は的場浩華の問いをはぐらかす様質問を重ねて笑いその場を去って行く。

「あの惨殺事件以来、女性を抱けない心体になっているのに私と食事?目的は何なのよ。日比谷君」
的場浩華は振り返らず消えて行く日比谷の姿を暫く見つめていた。


「申請書類は問題ありません」
「それにしてもこんなに早く」
「要は警察や検察、裁判所に児童相談所、諸々の官庁があのブロンズ色の髪の少女を持て余しているからでしょう。そして適切な監視役が欲しかったからでしょうね。上申を促す推挙の資料が警視庁や内閣府からも上がって来るくらいですからね」
「この件は最終的にどこが」
「外交問題も絡みますから、外務省を含めた超党派省庁を内閣府が取り仕切る形で」
「また政権が変わったら水の泡ですよ」
「幸い国民もあの未曽有の大災害以降は保守政権への恭順を示していますから、当分は安泰でしょう」
「それにしても、国内テロと人身兵器とは」
「正確には人型と呼べなくもない。太平洋戦争での人間魚雷や特攻に比べれば、クローン兵器など可愛いものでしょう」
「人権もクソもあったもんじゃないな」
「ならば、非常時の警察や自衛隊にはあるんですか?」
「違いない」
背広姿の男と制服姿の人物はどちらかともなく溜め息混じりに窓の外に目を移して言う。
「雨になったな」
「その様です。天気予報通りだ」
「傘を貸そうか?」
「借りは作りたくない主義でして。ではこれで」
制服姿の人物は、そう言い残してその部屋を出て行った。
残された背広姿の男は独り言を呟く。
「この国はどこへ向かうんだ…?」




「まだ館内の傷痕が生々しいね」
仮養生程度の補修すら終わらない破損箇所が無数に残る壁や天井や床を眺めながら、男はもう一人横に立つ別の制服姿の男に言う。
「いっそ全部解体して新しく建て直せばいいのに」
「政府はあくまで“軽傷”だった事にしたいんだろう」







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筆者敬白

【偽書】『エトランゼ・異邦人』 25

2019-06-13 09:22:14 | 【偽書】シリーズ
「何も無いとか?」
ため息の理由を先読みされた気分で的場浩華は答える。
「名前は少女Aだそうよ」
「調査書類の日本語も読めると」
「それも織り込み済みなのね」
「本来の君の調査対象はその少女Aをどこからか連れ出した男の方なんだろ」
「そっちの件も…か」
「こんな資料がある。渡す訳にはいかないが、偶然目にしたことにして今この場で読みたまえ」
「これは?」
「捜査はギブアンドテイクが基本。知りたい事を知る為にはまず相手に与えよ、だよ」
「調書の写しね」
「内閣府でいきなり入手するのは骨だろうからな」
「要は二人共謎のままね」
調書の写しをパラパラとめくると的場浩華は頁を閉じて日比谷に突き返す。
「私の指紋が着いちゃったわね」
「気にする事は無い。この写しはもう存在しない」
そう言うと、日比谷は写しをふたつに切り裂き、ジッポのライターで火を点ける。
オイルライター独特の油の匂いがして、紙は燃え尽きた。
「資料は日比谷君の頭の中に入ったから、紙に付いた私の指紋も存在しない…と」
「そう。ありもしない写しを知る人間は限られる。もしくは所轄まて出向いて報告書の原本を読むか」
「どこへ向かうのよ。この話は」
的場浩華は探偵気取りの監察官を睨む。
「君はマドンナプロジェクトや彩光計画の名前くらいは知っているかい」
「チラッとなら小耳に挟んだ事があるわ。要はどちらもテロ計画よね」
「どうやら少女Aはそのふたつ両方に絡んでいる可能性がある。あくまで可能性だが」
「そんな…」
「仮説の域だが、それなら説明が付くだろう」
「ふたつのテロ計画に…あの少女が…なの?」
「さて。どうする?」
「あんな小さな子が何をどれくらい知っていると言うのよ?」
「小さなひよこは食べる肉は殆ど無い。ならば丸々大きく育てて食べるのがいいんじゃないのかい?」
「何の寓話よ」
「一般論だよ」
「そうしているうちにテロが実行されたら?」
「彼女を取り調べてテロが防げるならそれでいいが、今の彼女にそれは叶うまい」
「正論ね」
「手を引けとは言わない。要は適切な監視役を付ければ良い」





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筆者敬白

【偽書】『エトランゼ・異邦人』 24

2019-06-03 01:55:01 | 【偽書】シリーズ
「監察官。あの研修医あれで役にたつんですか。単なるオタク医者でしょ?」
「まずは人間関係を強固にして、細かな情報でも吸い上げる基盤の確保だよ」
「それにしても監察官にあんな趣味があるとは…」
「エッ…僕はそんな趣味は無いよ」
「あんなにお詳しかったじゃないですか」
「あれは事前リサーチの結果、彼より知識が深かければすぐ靡くと踏んだからさ。あのフィギュアの欠片は昨日部下に探させたもの。彼の性格や遡上を追ってのものだ。まあ、レアフィギュアを用意するのは少々骨が折れたがね」
「あれは全て演技?」
「あれくらいやらなければ関係者や容疑者を協力者へ引き込めないよ」
運転席で村野の驚く顔を当然の事の様にバックミラー越しに見つめる後部座席の日比谷監察官。


「まあ、あのくらいはやってやればいいだろう。体の良い協力者くらいに思ってやがるんだろうな。まあ、このフィギュアを用立ててまで関係を作りに来た監察官殿の顔をたてておくさ」
机のうえで組み上げられた青い髪の毛をした少女が琢磨の顔に笑顔を見せた。


「お名前を教えてくれないかな〜」
内閣府調査室外務担当課出向 政務官代理的場浩華は、日沼凛子の元に日参し拝み倒して少女Aとの面談にまでこぎつけた。
「…」
少女は無表情ながらどこか慣れた顔つきで、彼女が持参した調査書類に書かれた文字を指差した。
「これはお名前じゃなくて…」
…そうか、この少女は文字が読めている。
日本語に不慣れな顔をして、実はしっかりと。
『少女A』と記された名前欄を指差す少女は、約三十分の面談中、決して言葉を発しなかった。
いや、唇すら開かなかった。
片言の英語やフランス語、ドイツ語にロシア語、果ては中国語にいたるまでコミュニケーションを試み、的場浩華は挫折を味わう。
予見し分かっていたとはいえ。失望感は決して小さくは無かった。

児童相談所から最寄り駅までの道すがら、明らかに肩を落として歩く的場浩華の背中に声を掛ける男がいた。
「内閣府調査室外務担当課出向政務官代理的場浩華さん」
聞き覚えのある声と、名刺に書かれている肩書きまで唱話する人物に向けて顔を向ける的場浩華。
「やっぱり、アンタか。日比谷君。まだ法務省の次官付きなの?」
「現在は本庁に戻され監察官だ。もしかしてそこの児童相談所帰りかな?」
「分かってんでしょ」
「ああ」
「内閣府の私からあの子の情報を取ろうと待ち伏せしていた訳?」
「あの子が何度も調査を受けても何も得られないだろうし時間の無駄使い。そして男性には簡単には心を開かないだろうからね」
「それも調査済みか」
「何か得られたかな?」
「ふう…」




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