「前日勝ち星を挙げながら昨日は大敗でしたが」
「ヘッドの呼依には悪いことをしました。全て自分の自己管理の至らなさが招いた敗戦ですし、コーチや選手はよくやってくれています。やはり野球は楽に勝たしてはくれませんねハハハ…」
もはや取材陣からは笑顔は漏れなかった。
監督の粟山の顔色は、蒼白だったからだ。
ーこの人は具合が悪いにも関わらず、昨夜のあのチーム状況を見て無理して出てきている。
取材陣の誰もがそう思って疑わない。
「で、俺の話はいいから今日の試合について質問してよ」
粟山は取材陣の空気を察知して逆に口を開いた。
「で、では、本日の先発ですが、右の…」
慌てて取材陣は話題を変えるべく先発投手についての質問を始める。
ー「9番セカンド、仲縞拓哉…背番号9」
後攻のブルースカイカントリーズの選手オーダーが場内に流れ終わると、ファンからため息が漏れる。
DHを含めた野手9人は決して成績が悪いどころか、今チーム内で好調のメンバーを当ててあった。
しかしホームの観客達は待っていたのだ。
たとえ不振でも、その一振りでムードを変えてくれるであろう男の名がコールされる事を。
その期待の男は相変わらず黙々とバットを振っていた。
鏡の向こうに映る男に、真剣勝負を挑むサムライの様な眼光で。
アンパイアのゲームの開始を告げるコールさえ聞こえない場所では男の吐く息とバットが空気を擦る音が交互にハーモニーを奏でていた。
あの日あの老人が語った言葉に出てきた『音』を求めて、サムライは求道者として、鏡の中でこちらを睨む男を越えて行こうともがいていた。
「青葉を呼べ」
ベンチで小差ながら終盤ビハインドの戦況を眺めていた指揮官は三試合振りに男の名を呼ぶ。
観客達が待ち望んでいた男、今は決してデータでは成績が振るっているとは呼べない男を。
「ヤチ。あのご夫婦へ招待券は送ってくれた?」
「はい、今日と明日の試合のチケットで。左打席の音を聞きやすい様に一塁側、打席最短距離の席を二枚づつ」
試合前、マネージャーの返事に頷くと、青葉は「サンキュー」とだけ礼を言ってドレスルームに向かう。
今日チャンスが与えられるかは分からない。しかし大型連休前ホームでの試合は残り少ない。今日出番が無ければ次は苦手チームの左投手だから尚更チャンスは減るだろう。
「ヘッドの呼依には悪いことをしました。全て自分の自己管理の至らなさが招いた敗戦ですし、コーチや選手はよくやってくれています。やはり野球は楽に勝たしてはくれませんねハハハ…」
もはや取材陣からは笑顔は漏れなかった。
監督の粟山の顔色は、蒼白だったからだ。
ーこの人は具合が悪いにも関わらず、昨夜のあのチーム状況を見て無理して出てきている。
取材陣の誰もがそう思って疑わない。
「で、俺の話はいいから今日の試合について質問してよ」
粟山は取材陣の空気を察知して逆に口を開いた。
「で、では、本日の先発ですが、右の…」
慌てて取材陣は話題を変えるべく先発投手についての質問を始める。
ー「9番セカンド、仲縞拓哉…背番号9」
後攻のブルースカイカントリーズの選手オーダーが場内に流れ終わると、ファンからため息が漏れる。
DHを含めた野手9人は決して成績が悪いどころか、今チーム内で好調のメンバーを当ててあった。
しかしホームの観客達は待っていたのだ。
たとえ不振でも、その一振りでムードを変えてくれるであろう男の名がコールされる事を。
その期待の男は相変わらず黙々とバットを振っていた。
鏡の向こうに映る男に、真剣勝負を挑むサムライの様な眼光で。
アンパイアのゲームの開始を告げるコールさえ聞こえない場所では男の吐く息とバットが空気を擦る音が交互にハーモニーを奏でていた。
あの日あの老人が語った言葉に出てきた『音』を求めて、サムライは求道者として、鏡の中でこちらを睨む男を越えて行こうともがいていた。
「青葉を呼べ」
ベンチで小差ながら終盤ビハインドの戦況を眺めていた指揮官は三試合振りに男の名を呼ぶ。
観客達が待ち望んでいた男、今は決してデータでは成績が振るっているとは呼べない男を。
「ヤチ。あのご夫婦へ招待券は送ってくれた?」
「はい、今日と明日の試合のチケットで。左打席の音を聞きやすい様に一塁側、打席最短距離の席を二枚づつ」
試合前、マネージャーの返事に頷くと、青葉は「サンキュー」とだけ礼を言ってドレスルームに向かう。
今日チャンスが与えられるかは分からない。しかし大型連休前ホームでの試合は残り少ない。今日出番が無ければ次は苦手チームの左投手だから尚更チャンスは減るだろう。