くまだから人外日記

くまだからくまなのだ。

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【偽譜】ジャンキー・サクソフォン 15

2014-02-22 05:38:18 | 【偽書】シリーズ
「電撃が走った」

陳腐を絵に書いた様なセリフだが、それが正直な感想である事は認めよう。

市井(しせい)の音楽評論家…ただのバラエティー番組のコメンテーターと言った方がピッタリな奴等が口を揃えて言う感想だ。

「彼女から…彼女の歌からは、もの凄いエネルギーをかんじるんですよ」

さらに陳腐な“ご供託”だな。

テレビの向こう側から発せられるミキ評は、おおむねこんな程度だ。

それは世間では“最大級”の讃辞ってヤツだ。

テレビに見入るオレの座るソファの横に白パンが陣取る。

「ムサシよぅ、こんなの見聞きしたってオレタチには一文の得にもならねえ。リモコンを貸しな」

白パンはオレの前に置かれていたリモコンをむしり取り、チャンネルを変えた。

そこには、今一番人気のある数十名の少女グループが写し出された。

「MSM48かよ」

「おっ、詳しいな。今巷で話題のグループだ」

「こんなダンス中心、歌適当な連中とミキを一緒にすんなよ」

「しちゃあ、いないさ。ただ…」

「ただ?参考にでもするのかよ?」

「参考?何をだ?俺はただセンターに立っている舞川篤実のファンなんだよ。サイン貰えねえかなぁ(笑)」

ケッ。オッさんって連中は図々しくていけねえや。
舞川篤実のファンにボコられるぞ。

「ムサシの分も貰ってやろうか?」

「バカじゃないのか?」

「いらないのか?」

「オレなら、城田マリモだな…」

いけねぇ、つられてつい口が滑った。

「何だよムサシは城田かよ。あいつは性格キツいぞ。やっぱ舞川篤実だぜ」

「会った事も無いのに、性格が分かんのかよ」

「舞川篤実は分からんが、城田は分かるぜ」

「何でだよ?」

オレは白目を向けて白パンを見つめた。

「かつて、俺が審査員をしていたこの事務所のシンガーのオーディションに来ていたんだよ。彼女は…」

「あの城田マリモがこのチンケな事務所にかい!」

「バカか、オメエは。今でこそ、グループの女親分だが、数年前は根性はありそうだが目立たない歌の下手くそなタダの小娘だったんだよ」

「それはアンタが見る目が無かったんだろ」

「少なくとも、今アイツがミキより歌が上手いと言えるのかよ?」

「そ、それは…」

「確かに磨けば光る玉だったぜ。だがな、歌はダメだ。こちらが求めているレベルじゃネェ。あいつは今の方が幸せなんだよ」