くまだから人外日記

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サウザント・クロノス・ナイツ 銀髪のノーラ『四つのクロノス その2』 51

2019-10-10 09:23:46 | 【偽書】シリーズ
「はっ」
伝令が塔の上を目指して駆け上がるのを見ながら、分隊長マズカ・ガラン・ランマは塔にしつらえられた小窓から見える西の塔を見つめながら呟きます。
「何故西の塔ではなく、迷いなくこちらの塔を迷い無く目指して来たのだ?内通者でもおるのか?やけくそでコインの裏表か?それともまさか天空から見ているとでも。まあ良い。俺達が敗れたら西の塔で控えるギボンが率いる兵士が騎士達の背後を塔の下から挟み撃ちにする手はずなのだ。どの道奴等は助からん。生きてこの塔は降りられぬ宿命なのだ。戦とは戦略が決まった段階で勝敗は決しているもの。仮に優れた騎士ばかりであっても誤った戦略に乗っては勝てぬ」
ノーラがどちらの塔を進軍するのかを決めた理由は分隊長マズカ・ガラン・ランマの考えた全ての理由だったのですが、それはこの際どうでも良い事でした。
マズカ・ガラン・ランマは用心深く鎧装束を着用して、最後に兜を左手に、鞘に納まる細い騎士剣を右手に持ち隙無く歩き出しました。
まるであの逸話の騎士バーイナと同じ轍は踏まぬとばかりに。

もしかしたら、マズカ・ガラン・ランマはそのバーイナの末裔にあたる者だったのかも知れません。
古い話であり、もはや調べようもない事ですから。

攻める者守る者の知略と血略を競う戦いの火蓋は切って落とされました。
互いに引き返す事の出来ない戦い。
陽のノーラと知のマズカ・ガラン・ランマ。
もし、別の時代、別の境遇であっても、やはり二人は争うしかない宿命だったのでしょうか。それとも。

「何だ。雲か?」
東の塔の入口に集結したノーラ達騎士団を覆う影に気づき空を見上げるスペクターは呆気に取られます。
「スペクター。あれはもしかして」
「龍だ。どうやら年老いた古龍の様だな」
「大きいね。あの身体で降りて来られたら僕等あっと言う間にぺちゃんこだよ」
呑気な事を言うノーラにスペクターは少しだけ呆れましたが、これこそがノーラだと思い直して語ります。
「まあ、理由も無く降りては来ないだろうが、その通りだな」
ノーラ達騎士団や塔の周りを数度旋回すると古龍はどこかへと飛んで行きました。
「行ったか」
「見た?あの古龍の瞳」
「瞳だと?」
「どこか悲しそうな瞳だったよ。まるで大切な何かを探しているみたいな」






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筆者敬白