くまだから人外日記

くまだからくまなのだ。

それでいいのだ。

【偽書】チェリーブロッサム 〔咲くるは早咲きの魂。散るるは諸見の雛神輿〕12

2014-02-11 11:17:55 | 【偽書】シリーズ
その人物は、私達が良く知る人物だった。
私達はつい十日程前にも顔を合わせている。
私達の学園で、入学して直ぐに例の曰く付きのアレを着る事になった異能の同級生。
性格や態度はクールにしてウォーム、決してモデルさんみたいな超美人て訳じゃないけれど、そんじょそこらのギャルよりは可愛い横顔をした同級生。
同性からも惚れられる溢れる正義感と行動力、ピンチでも動じない精神力。
だけど人一倍狭義心に溢れた人物を、私やサカエが見間違う訳が無い。
なんでこんな所で嬉しそうに大根を満載した配送トラックの助手席に収まっているのよ?
ミソカ…我がクラスメート、師走未宗加が…。


「ねえ、ミソカって、実家鹿児島だっけ?」
「分かんないよ。ユウカが島根って事くらいしか」
「ユウカは出雲の巫女だからともかく、ミソカと鹿児島って何だかイマイチつながらないわ~」
「ブンちゃんに聞けば分かるかも」
クラス、いえ、学園一のパソコン少女、文月樹蕾ならもしかしたら。
私はブンちゃんに電話をかけてみるが、残念ながら応答は無い。仕方なくメールで、“あけおめ~急で悪いんだけど、ミソカって鹿児島出身だっけ?”と送信しておく。
「ブンは電話にもメールも反応無し?トイレかな?」
「まさか~サカエじゃあるまいし」
「何でだよ~ならみんなはトイレでも電話に出たりメール返信すんの?」
「冗談よ、冗談」
「あっ?まさかチェリーはトイレでも電話に出るんだな?きっとそうだ」
「やめてよ!な訳無いじゃないの」
「いや、きっとそうだ。チェリーの携帯エンガチョ!」
いつの時代のどこの言葉よ、それ。


“はいはいあけおめ~!返信遅れてゴメンよ~。ちょっと講習会に出てるんで直ぐにパソコン触れなくて。ところでミソカの件だけど生まれも実家も鹿児島じゃないよ。もしかしてチェリー鹿児島に居るの?多分サカエも一緒かな?メイの居る宮崎に向かってるのね。メイに宜しくね~。因みに前歯の可愛い例の野球選手の出身県だからもしかしてユキちゃんはそばに居ない~?”
by樹蕾

「…だって」
ブンちゃんは相変わらず早耳ね。
「実家じゃないなら、今の隣の人はもしかしてミソカの想い人?」
せめて恋人とか言いなさいよ。
「でも、かなり年上みたいだったような」
「同年代の男じゃ物足りないんだろ~ミソカクラスになると、ガキ過ぎて」

【偽書】短期集中掲載『来夢の扉』…青葉起(た)つ 5

2014-02-11 00:20:21 | 【偽書】シリーズ
兼村は内野の要ミックが手術後で長期離脱してチームの守備連携が崩壊した昨年を思い出す。

「しかし、このまま青葉さんを使い続けていきなり良くなるって事は…」
「そこが悩みの種さ。どちらにしても、他の野手は悪くない。まあ、探り探り行くよ。ゴールデンウイークまでに目鼻が付かなければ大鉈を振るわなくてはならない。最初の話に戻るけど、出でよ若手、だ。出来れば左の、ね」
粟山は溜め息混じりに兼村に言う。
「で、今夜の試合は?」
「そこは企業秘密だよ(笑)」
「粟山さん。目は笑ってませんし」
「笑えるかい」
兼村は粟山の代わりに苦笑いしながら粟山に背中を叩かれる。
力ない一撃に、これは今夜もダメかも知れないなあ…と感じていた。



青葉はマネージャーが座席へ向かう老夫婦を連れ立つ三人を見送り、ロッカールームへ再度戻る。

そこには数人の若手に混じりアンダーウェアを履いている盟友天野美琴通称ミックが振り向いて青葉の姿を確認すると眉間に縦皺を作りながら言う。
「勝利さん。外れだよ」
外れ…それは指名打者DHを含む先発メンバー10人から外れた事を意味していた。
「そうか…」
青葉のあまりにも淡白な返事に、居合わせた若手達は一瞬息を呑む。

ー(青葉さん、下に降りる腹を固めた?)
ー(監督室に行きかねないね)
ー(文句を言いに?それとも自ら下へと申し出るの?)
ー(ヤバいね。今夜負けたら一気に荒れそう)

若手達が器用に目で会話する中、ミックは若手達に激を飛ばす。
「さあて、粟さんが一つ席を開けてくれたぞ。勝利さんが改めて居座る前に、その座席に座るのは誰だ!」
弾き出される様に若手達は慌てて着替えるとバットを手にして素振りをしに向かう。

二人きりになったロッカールームでミックは青葉に尋ねる。
「何だよ勝利さんらしくねぇな。おめおめ下に行く気じゃねえだろうな。今年は二人で若手に一泡吹かそうってキャンプ前に話したばかりなのに」
「その気は無いよ。ちょっとだけ時間が欲しかったんだ。今日は裏で試したい事があるんだ。ベンチと試合は任せたよ」
青葉の返事に少し表情を緩めたミックは
グラブと帽子を手にロッカールームを出る。
そして扉を閉める間際、振り向くと思い出た様に言った。

「ベンチを寂しがり屋な俺様ひとりにした貸しはデカいぜ。勝ったら今日の呑み屋の払いは青葉さん持ち、な」