くまだから人外日記

くまだからくまなのだ。

それでいいのだ。

サウザント・クロノス・ナイツ 銀髪のノーラ『四つのクロノス その2』 56

2020-06-04 16:20:37 | 【偽書】シリーズ
婦人の差し出したのは小さな髪飾りでした。

「私が嫁ぐ時に母親から貰ったものです。何でも母親が若い時に、急な病に苦しむ旅の騎士様を家にお泊めして看病した時にお礼に頂いたとか。母や家族が誰かに助けられた時に使いなさいと」
「そんな大切な物を受け取れないよ。それにボクは見ての通りこんなに短い髪だし」
「いえ。大事な一人息子の命に比べたら。これはきっと騎士団長様のお邪魔にはならない筈」
「ノーラでいいってば」
「受け取っておけよ、ノーラ」
「騎士団長様、いえノーラ。ご武運を祈っております」
夫に合わせて婦人と息子も深く頭を下げて騎士団長ノーラに向けて無事を祈ります。
「ありがとう。必ず生きて教皇様を解放するから待っていてよ」
最後まで屈託の無い笑顔を崩す事無く、ノーラはその家族にそう語り掛けました。


「ねえ、何故旅の騎士が髪飾りなんか持っていたのだろうね?」
親子から二人の姿が見えなくなるくらい離れた時、ノーラは唐突にスペクターに尋ねたそうです。
「その騎士が女でなければ多分遺品だろうな」
スペクターは当たり前の顔をして、問にそう答えました。
「なる程。御守り代わりとか、その騎士に何かあった時に使え…とか?」
「そんな所だろう。かなり高価な品物の様だ。売ればかなりの額が付くだろう。だがあの母親の母親は売らずに持ち続けてやがて嫁ぐ娘に持たせた。その髪飾りは言わば救生の品なのだろうな。今回はお前にあの母親の息子を助けてもらった礼の品物になった訳だし」
「ボクも持っていればいつかボクや身内の窮地を救われた時に誰かにお礼に渡すのかな?」
「さあな。軍師としては出来ればノーラの窮地が来ない事を祈るがな」
「それはボクも同じだよ」
「それにしてもノーラ、お前さんはいつも妙な事を気にするな」
「そうかな?」
「まあいいさ。そこがお前さんらしい所なんだろうな。さぁて思わぬ人助けで時間を喰った。部隊に戻るぞ」
二人は部隊の待つ場所へ歩みを急ぎました。


「全軍上へ引き返せ。急げ。何も知らない副隊長の部隊が敵と当たる前に奴らに追いつき迎え打つのだ。油断している副隊長の部隊が打ち破られてしまえば最上階まで一気に上がられてしまう。それだけは阻止するのだ」
部隊は鎧装束の一人が通れば幅一杯の螺旋階段の回廊を駆け上がります。
裏を掻かれた悔しさと、この東の塔を初めて訪れた若い娘が率いる帝国の騎士団
の情報力に舌を巻ながら、分隊長マズカ・ガラン・ランマは珍しく声を荒げて上階を目指しました。





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筆者敬白

【偽書】『エトランゼ・異邦人』第二部 34

2020-06-01 10:25:28 | 【偽書】シリーズ
その言葉に少し冷静さを取り返したのか、脇田は声のトーンを落として双川にこう伝えた。
「ご両親に明日の放課後、進路指導室にご足労願う様に伝えてくれないか、双川君」
「承知致しました」
双川愛実は学校の電話から江藤夫妻に向けて電話をかける。
その様子を見ながら、脇田はあの苦い記憶を蘇らせていた。
江藤蘭がこの学園を受験するにあたり、学園長と各学年主任が応接室へあの男に呼び出された日の事を。
それは裏口入学の依頼ではなく、それ相応の学力を持って受験し当然合格するであろうひとりの中学生の少女に対する処遇と覚悟を問われた時の話である。
脇田や他の学年主任らは、ハナからその少女についてタカを括っていたし、実際その訪問者に対しそこまで神経質になる理由が分からないなどと喰ってかかっていた。
それを、その認識の甘さをその男が論破して来た時、教育者としての存在意義までも軽々否定され、許されるものなら学園の人事に至るまで口出しされない状況まで追いやられたあの日の屈辱を蘇らせていた。
江藤欄はそれなりの覚悟の無い教師には大変危険な存在だと説かれたあの場面を。
「15やそこらの中学生に何が出来るていうので?」
学年主任のひとりがちゃんちゃら可笑しいと言わんばかりの顔を隠しもせずに尋ねる。
「中学進学時もそう尋ねた教師がおりました。その教師は…可哀想に…」
お前もかと言わんばかりの言葉を返す男。
「可哀想に?」
「12、3歳の娘に完膚無きまでに叩きのめされました。腕力ではなく頭脳と行動によって。彼は年度途中で校長に辞表を提出し、校長の取り計らいで学区を離れ、他県の中学へ例外転属して行きましたよ。言わば打ち負かされた教師のギリギリの選択でしたでしょうね。その後彼女はこちらを受験する年齢となり志望届として受験希望を提出している状況です」
「仮にそんな才媛だったとして、何故貴方が越権的にこうした事を?彼女は警察預かりの身なのですか?」
「校長先生の疑問はごもっともです。本来ならば文科省の担当者がこちらにお邪魔するのが縦割り行政の慣わしでしょうが、これには深い理由がありまして。彼女は政府預かり相応の人物でして、当初から関わってしまった私がこうしてご説明に参上した訳でして」
校長や教師にこうして説明して歩くのも飽きたと言わんばかりの口調を隠しもしないで男は話を続けて行った。



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