石井信平の 『オラが春』

古都鎌倉でコトにつけて記す酒・女・ブンガクのあれこれ。
「28歳、年の差結婚」が生み出す悲喜劇を軽いノリで語る。

サイナラ、小田実さん

2007-07-30 23:13:48 | 人物
テレビが自民党の大敗北を伝え終わった、きょう午前2時、作家の小田実さんが胃癌のため亡くなった。75歳だった。

高校生の頃に読んだ彼の著書「何でも見てやろう」はオラ達にとって希望の書だった。堀江謙一さんのヨットによる太平洋横断と同じように、精神的「脱藩」の書であった。

 筑摩書房編集部で、「戦後日本思想体系」全15巻を担当したが、その中の「現代人間論」は小田さんが編者・解説者だった。一緒に、資料集めに神田の古書店街を歩いた。ウナリを上げるような、エネルギッシュな仕事ぶりに何度も振り回された。

 雑誌「展望」編集部では、何回か彼の巻頭論文を担当した。黒いサインペンで小ぶりの400字詰め原稿用紙。豪放磊落な笑い声、大柄な身体に似合わぬ、律儀な、小さい、丸っこい手書き原稿だった。

 「筑摩現代文学大系」では、自分を三人集に巻立てしたことで、小田さんは会社に厳重抗議をして来た。正月の広告出稿が止まり、社の幹部との折衝は毎日徹夜で行われた。抗議は火の玉のようだった。

 小田さんは、既に文学仲間だった高橋和己、開高健の死を見送っている。彼らより充分長く生きたが、やり残した仕事に比べて、人生は常に短かすぎる。

 「ほな、サイナラ」
 高橋の葬儀で、小田さんはそう言って自分の弔辞を締めくくった。


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