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アノニム/モダン/ツバキ文具店/星の子/アキラとあきら

2018年09月16日 | 

最近読んだ本の中から、感想を残しておきます。どれもここ数年に出版された本です。

原田マハ「アノニム」

これまで、ルソーやピカソ、モネなど、画家をモデルにしたアート小説を書かれてきた原田マハさん。今回はポロックか~と楽しみにしていましたが、目次を見ると舞台は香港??登場人物たちはアニメのキャラクターみたい??キツネにつままれたように読み始めると、本作はポロックではなく、ポロックの絵を盗むお話でした。

ポロックそっくりの贋作を用意して、香港のオークションですり替えるという、まさにオーシャンズ顔負けのエンターテイメント小説です。個人的には、アートフェアやオークション、今建設中のM+現代美術館など、今アジアで最もホットな現代美術の拠点となっている香港のアート事情に触れることができ、興味深かったです。

原田マハ「モダン」

MoMA(モマ)の愛称で知られる、ニューヨーク近代美術館を舞台にした短編集です。原田マハさんがかつて勤務していたMoMA。実在する人物も織り込んだこの作品集は、小粋でおしゃれな翻訳小説のようなテイストがあって、アーウィン・ショーの「夏服を着た女たち」を思い出しました。

私が特に気に入ったのは、アンドリュー・ワイエスの”クリスティーナの世界”をモチーフにした「中断された展覧会の記憶」そして、MoMAの工業デザインコレクションにスポットをあてた「私の好きなマシン」です。本を読みながら展示室の情景が浮かんできて、MoMA好き、モダンアート好きには楽しく読めました。

小川糸「ツバキ文具店」

小川糸さんは以前「食堂かたつむり」を読んだことがあり、これは2冊目。本作は鎌倉を舞台にした観光小説の要素もありますが、主人公の鳩子が小さな文具店を営むかたわら、実は手紙の代書屋さんが本業というのがおもしろい。さまざまな事情を抱えてやってきた人たちの気持ちに寄り添い、彼らに代わって手紙をしたためます。

依頼主のキャラクターや手紙の内容にあわせて、紙、ペン、インク、切手を厳選し、筆跡まで自由自在に操ってしまうプロの技に感嘆しました。実際に鳩子が書いた手紙が、筆跡とともに見ることができるのも楽しい。どこか現代とは別の世界、別の時間が流れているように感じるのは、鎌倉マジックかもしれません。

今村夏子「星の子」

2017年上期の芥川賞候補作品。病弱だった娘を救うために怪しい宗教にのめりこんでしまった両親を、中学3年生の娘ちひろの視点で描いた作品です。他人から見ればおかしな両親も、ちひろにとってはかけがえのない存在であり、両親がその宗教を信じることを尊重しているように思えます。

しかし実際にはちひろの家族は崩壊寸前で、姉は両親を見限り家を出てしまっているのです。ちひろを心配した叔父は、彼女を家に引き取ろうと両親を説得するために何度も足を運びます。洗脳されている両親はちひろを手放すことができるのか、そしてそれをちひろは受け止めることができるのか、結末は読者に委ねられています。

池井戸潤「アキラとあきら」

これまで読んだ池井戸潤さんの作品の中で、本作が一番好きかもしれません。元銀行員で、これまでいいところも悪いところも含めて銀行という組織を愛情深く書かれてきた池井戸さんですが、本作では池井戸さんが理想とする2人のバンカーが描かれていると感じました。

主人公は、零細工場の息子・山崎瑛と、大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬という2人のアキラ。それぞれ全く違う人生を歩いてきた2人は大学で出会い、卒業後同じ銀行に就職することとなります。お互いを最強のライバルと認め合う2人ですが、互いを尊敬する間柄でもあるのです。

2人の人生がていねいに描かれる序盤も引き込まれますが、2人が出会ってからはアクセル全開。銀行の仕事は本来困っている人を支え、企業を守り、経済を動かしていくことなんだよな...という当たり前のことを気づかされる作品でもありました。主人公の2人が魅力的ですし、経済エンタメ小説として大いに堪能できました。

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