去年の6月に図書館で予約した「恋文の技術」の本がやっとまわってきました。森見登美彦さんのファンなので今回はどんな内容かとワクワクして読み始めました。主人公守田一郎さんは大学院生で京都の研究所から能登半島の実験所へ行くことになります。寂しさを紛らわすために文通武者修行と称していろんな方に手紙を出し、「恋文の技術」を習得し恋文代筆のベンチャー企業を起こそうとたくらみます。書簡小説で守田一郎さんが書く手紙だけで構成されています。最初はチョッとガッカリしました。手紙を出した相手からの返事が書かれていないからです。読んでいくうちに守田一郎さんの一方的な手紙で返事の内容も想像できてかえって面白いと思いました。本当に面白いこともたくさん書かれています。その笑いはゲラゲラでもなく、わはは!でもなくクスクスなのですが、ボクシングでジャブをいくつも受けると後になって大打撃となるように、最後には面白くて大声で笑いたくなりました。アホらしくてなんとも言えません。でも愛すべきアホらしさです。アホに憧れるぐらいです。守田一郎さんは作者の森見登美彦さんにも手紙を出していて、その文面から森見さんの人柄を垣間見たように思います。さすが愛すべきアホだけあります。京都の三嶋亭のすき焼きが出てきたり、大文字山が出てきたり、能登の実験所のまわりの景色など詳しく描写してありとても身近に感じます。恋文の技術は濃い文の技術に変わったり、へんてこな事がいろいろあります。それでもこのすがすがしい読後感は何なんでしょう!何かとても手紙を書きたくなります。恋文の技術を身につけようと必死になる守田一郎さんが最後に悟ります。手紙とは勢い込んで書くものではなく、何でもない普段のことを淡々と書くこと、まるでその人の前で何気ない日常を話しているように書くこと、それが一番相手に気持ちが通じるということ。アホな登場人物ですが優しさだけは一杯持っていました。人は自分に話しかけてくれる人を好ましく思うものだなと思いました。手紙だけではなく何気ない日常のことを楽しくお話することが大切だなと思いました。
お気に入り度:★★★★★ 図書館資料 請求番号:913/モリ