森見登美彦作「新釈走れメロスー他四篇」を読みました。目次には「山月記」「藪の中」「走れメロス」「桜の森の満開の下」「百物語」となっています。どれも大作家が以前に書かれたものです。それを現代風にアレンジした短編作品集です。小説の前に原作の紹介をされているので下記に掲載します。
「山月記」―昭和17年「文学界」に発表された中島 敦(1909~42)の短編小説。唐代の伝奇「人虎伝」に材を探り、「詩」に心奪われた李徴の悲劇的な運命を描く。
「藪の中」―一つの事実を多視点で語ることで心理の絶対性への懐疑を突きつける、芥川龍之介(1892~1927)の中でも最も多様な<読み>が試みられている作品である。
「走れメロス」―教科書でもお馴染み、昭和15年に「新潮」に発表された、太宰治(1909~48)の中期を代表する短編。人間の信頼と友情の美しさ、大切さを力強く描いた「健康で明朗な」作品である。
「桜の森の満開の下」―戦後の混乱期に「堕落論」「白痴」を発表。無頼派と呼ばれ脚光を浴び、その後、一躍流行作家となった坂口安吾(1906~55)の代表的な短編作品。絢爛たる美の奥に潜む恐ろしさを幻想的に描く。昭和22年「肉体」第一巻第一号(暁社)に初出。
「百物語」―軍医としての肩書きを持ちながら旺盛な執筆活動を展開し、後世、夏目漱石と並び明治の文豪と称されることとなる森鷗外(1862~1922)円熟期の一篇。日本の伝統的な怪談会スタイルの一つである百物語の集いを描く。明治44年「中央公論」初出。
森見登美彦さんは原典を形づくる主な要素が明らかに分かるように書こうとされたそうです。『山月記』は、虎になった李徴の悲痛な独白の力強さ。『藪の中』は、木に縛りつけられて一部始終を見ているはかない夫の苦しさ。『走れメロス』は、作者自身が書いていて楽しくてしょうがないといった印象の、次へ次へと飛びついていくような文章。『桜の森の満開の下』は、斬り殺された妻たちの死体のかたわらに立っている女の姿。『百物語』は、賑やかな座敷に孤独に座り込んで目を血走らせている男の姿である。とあとがきに書かれています。森見登美彦さんの短編集は一つ一つは全然関係のない小説なのに同じ登場人物を使っていて懐かしい友達に出会ったような面白い気分になりました。この短編集を読んで原典を手に取る人が増えてほしいと祈っておられる作者の意図どおり、私は原典を読みたくなりました。そして私が今まで読んだことのない作家―中島敦さん、坂口安吾さん―の原典を読み終わりました。後の三冊も手元にあるので読もうと思っています。どの作品も面白かったですが、さくらの好きな私は「桜の森の満開の下」に出てくる京都「哲学の道」を満開のさくらの下、早朝に歩いてみたいと思いました。妖しい妖しいさくらを是非見たいと思います。
お気に入り度:★★★★★ 図書館資料 分類番号:913/モリ