「オーディンの鴉」 福田和代

「オーディンの鴉」　　福田和代　　　　朝日新聞出版
　
国会議員・矢島誠一が、謎の自殺を遂げる。
検察庁が、贈収賄の容疑で家宅捜索を行なう当日の朝だった。
遺書として残されたメモには「私は恐ろしい。これ以上耐えられない」とあった。
東京地方検察庁特捜部特殊直告一班の湯浅と安見は、自殺の原因が家宅捜索なのかを調べようとする。
そして、ネット上に矢島の個人情報が晒されていることに気が付く。
矢島を誹謗する写真や動画、そして、決して他人が知り得るはずのない、彼の詳細な行動の記録だった。
しかし矢島の死後、今度はその情報が削除され始める。
矢島の妻から、自殺する前に、郵便物が届き、それから挙動がおかしかったことを知る。
そして、調べを進める２人にも、謎の郵便物が届く。






インターネット社会の危うさや怖さをテーマにした物語は多い。
管理する側からも、個人情報が晒される側からも。
個人情報を利用しようとする、大きな組織。
そして大きな組織がなくても、個人個人がひとつのパワーとなって、特定の個人を襲う怖さも。
インターネットの世界に流れる情報をどう判断するか。
それは個人の資質にかかっている。
何を信じるのか。
ネットの情報がすべて本当だと信じきれるのか。
自分のよく知る人物について、誹謗中傷が載ったら、ネットの情報を信じてしまうのだろうか。
そんな警告がある物語。
安見のように、一人一人がそれにきちんと気がつけると世の中だといい。

個人情報云々は、こんな情報管理時代になったら、ある程度は仕方なにのかとも思う。
そう言う世界になってしまった。
個人情報を色々なものに与えているのは、その人自身なのだから。
その管理を他人に任せて、安心しているのが不思議なのだと思う。
反対に嘘の情報を与えても、分からないということもある。
それを逆手に取っているひともいるだろう。
段々、誰もがどうしていいのか分からない世界に向かっているようだ。
自分がどんな社会に住んでいるのか、見極めていかなければならない。