■核燃料サイクル
原発ではウランを燃料として燃やして発電します。ここでいう「燃える」とは、ウランの原子核が分裂する際に熱を出すことを指します。ウランを燃料として使うには、濃縮などを行い、特別な形にする必要があります。そして、燃やしたあとの核燃料や放射性廃棄物の後始末をしなければなりません。この核燃料をつくるまでの流れと、使用済み核燃料などの後始末をするシステム全体を「核燃料サイクル」と言います。
■再処理
原発の燃料はたった数%燃やしただけで使い終わってしまいます。使用済み燃料の中には、ウランの燃え残りと、ウランの一部が変化して新しく生まれたプルトニウムが含まれており、これらを燃料に再加工するために取り出す工程を再処理といいます。燃えた分の「死の灰」は高レベルの放射性廃棄物としてすてられます。
燃え残りのウランとプルトニウムを使用するには、これらを分離し、あらためて燃料をつくり直す必要があります。その燃料も、数%燃やせば使い終わってしまい、また再処理を繰り返さなければいけません。しかも、つくり直しをすればするほどウランやプルトニウムの燃料の品質は悪くなります。
使用済み燃料は95%がリサイクルできると言われていますが、そのうちプルトニウムが約1%で、残りは燃え残りのウランです。このウランは、天然のウランより取り扱いが厄介で、濃縮をしてもほとんどが劣化ウランとなり、リサイクルできるのはせいぜい1~2%です。
また、プルトニウムの利用はもともと高速増殖炉の開発を中心に考えられていました。(高速増殖炉のしくみは「原子力発電のしくみ」参照)しかし、高速増殖炉の計画はつまずいており、いま大きな問題となっているのはプルトニウムを減らすことです。そこで、再処理で取り出したプルトニウムをふつうの原発で燃やすことになりました。このことを、「プルサーマル」といいます。
プルトニウムはウランと混合し、「MOX燃料」という燃料にします。しかし、MOX燃料では核反応がより不安定になったり、制御棒の効きが悪くなったりして、いざという時に原子炉がとめられない危険性が高くなります。また、燃料もこわれやすくなり、日常的に放出される放射能も多くなります。さらに、MOX燃料の場合、使用済み燃料は、ウラン燃料より寿命が長い放射能を多く含み、放射能の熱がなかなか下がらないため、さらに処理や処分が難しくなります。事故を起こした福島第一原発の3号機では、このMOX燃料が使われていました。
このような危険が大きい再処理は世界的には行われておらず、使用済み燃料をそのまま高レベル放射性廃棄物にする方が主流です。
■放射性廃棄物
日本において廃棄物について定めている廃棄物処理法では、放射性廃棄物は対象外となっています。放射能のごみは、本来すてられないごみなのです。
すてられないとはいえ、放射性廃棄物でいっぱいになってしまうと、原発などは動かすことができないので、寿命の短い放射能が減るまで一時貯蔵し、ある程度の放射能をフィルターで取り除いたうえで、大気中や海にすてています。
すてられない放射性廃棄物としては、高レベルの放射性廃棄物の他に、固体やドラム缶に詰めて固体化した放射性廃棄物があります。放射性廃棄物について定めた原子炉等規制法や放射線障害防止法では、これらをためておく(保管廃棄)ことにしていました。しかし、原発を使い続ければ放射性廃棄物の量はどんどん増えるため、いつまでもためておくことはできません。そこで、本来すてられない放射性廃棄物を地下に埋設してすてるために、原子炉等規制法が1986年5月に改正されました。埋設の事業者は日本原燃という会社で、もともと電力会社が負っていた放射性廃棄物の安全管理の責任、事故の際の損害賠償の責任が、埋設の事業者に移されることになりました。1992年の年末から埋める作業が始まり、いまも続いています。
埋めてすぐには「すてた」ことにはしません。放射能のレベルが徐々に下がるにつれて、段階的に管理をゆるめていき、最終的にはすてたことにします。きちんと管理をするのは最初だけで、最後には放射能漏れの監視すらやめてしまいます。
しかし、実際はすてられないくらい放射能が強く、だんだんと放射能が減っていって、最後の段階に達するまでには300~400年かかると言われています。その段階でも、ドラム缶1本あたり、一般の人が1年間にそれ以上体の中に入れてはいけないとされる量の10万倍もの放射能が残っています。
また、高レベルの放射性廃棄物は、溶かした特別のガラスと混ぜてステンレスの容器に固めこんだ「ガラス固化体」にして処理します。しかし、固化体の中の高レベル放射性廃棄物は放射線を出し、高い熱をもっていて、ガラスが変化したり、ひびが入ったりする可能性は十分あります。また、できたてのガラス固化体の放射線の強さは、その表面では人が浴びると20秒で確実に死亡するほどです。50年貯蔵すれば2分半かかるようになると言われていますが、大変な強さです。このガラス固化体を地下に埋めてすてることの安全性は全く確認されていません。
■スソ切り
放射性廃棄物のうち、ある放射能レベル以下のものは切り捨てられ、ただのごみになります。これをスソ切り(クリアランス)といいます。スソ切りが考えられたのは、原発を取り壊したときに出てくる放射性廃棄物が大量になるからです。寿命が尽きて廃止された原発は、施設全体を解体して撤去されますが、その結果、原子炉一基あたり50万トン前後の大量の廃棄物が発生します。本来は「放射性廃棄物」として管理されるべき廃棄物ですが、その大部分(98~99%)を放射性廃棄物の扱いをしなくてすむようにする原子炉等規制法の改正案が2005年5月に成立しました。
スソ切りが実施されると、放射性廃棄物が再利用されたり、産業廃棄物と同様に埋設されたりします。埋設する際に、気体の放射能が大気中に飛散し、埋め立て事業者や周辺住民が吸入することも考えられますし、埋設地が掘り返されて、農耕や牧畜に利用される可能性もあります。
大きな問題は、作業を行う労働者にも、再利用製品の消費者にも、埋設地の周辺住民にも、何の警告も標示もしないことです。また、何かの事故が起きた時、責任の所在がきわめて不透明です。
■最後に
すてることのできない廃棄物は、そもそも生みだすべきではありません。現にあるからといって、さらに増やしていいということにはなりません。どれほど困難でも、すでに生みだされてしまったものは、管理をしていくしかありません。しかも、後世の人々に管理を頼まなくてはならないのです。
今回の福島原発事故に限らず、原発が動き続ける限り、放射能は大気中や海にまき散らされ、すてられない放射能のごみがたまる一方です。このままの状況を続けてはならないと強く思います。
原発ではウランを燃料として燃やして発電します。ここでいう「燃える」とは、ウランの原子核が分裂する際に熱を出すことを指します。ウランを燃料として使うには、濃縮などを行い、特別な形にする必要があります。そして、燃やしたあとの核燃料や放射性廃棄物の後始末をしなければなりません。この核燃料をつくるまでの流れと、使用済み核燃料などの後始末をするシステム全体を「核燃料サイクル」と言います。
■再処理
原発の燃料はたった数%燃やしただけで使い終わってしまいます。使用済み燃料の中には、ウランの燃え残りと、ウランの一部が変化して新しく生まれたプルトニウムが含まれており、これらを燃料に再加工するために取り出す工程を再処理といいます。燃えた分の「死の灰」は高レベルの放射性廃棄物としてすてられます。
燃え残りのウランとプルトニウムを使用するには、これらを分離し、あらためて燃料をつくり直す必要があります。その燃料も、数%燃やせば使い終わってしまい、また再処理を繰り返さなければいけません。しかも、つくり直しをすればするほどウランやプルトニウムの燃料の品質は悪くなります。
使用済み燃料は95%がリサイクルできると言われていますが、そのうちプルトニウムが約1%で、残りは燃え残りのウランです。このウランは、天然のウランより取り扱いが厄介で、濃縮をしてもほとんどが劣化ウランとなり、リサイクルできるのはせいぜい1~2%です。
また、プルトニウムの利用はもともと高速増殖炉の開発を中心に考えられていました。(高速増殖炉のしくみは「原子力発電のしくみ」参照)しかし、高速増殖炉の計画はつまずいており、いま大きな問題となっているのはプルトニウムを減らすことです。そこで、再処理で取り出したプルトニウムをふつうの原発で燃やすことになりました。このことを、「プルサーマル」といいます。
プルトニウムはウランと混合し、「MOX燃料」という燃料にします。しかし、MOX燃料では核反応がより不安定になったり、制御棒の効きが悪くなったりして、いざという時に原子炉がとめられない危険性が高くなります。また、燃料もこわれやすくなり、日常的に放出される放射能も多くなります。さらに、MOX燃料の場合、使用済み燃料は、ウラン燃料より寿命が長い放射能を多く含み、放射能の熱がなかなか下がらないため、さらに処理や処分が難しくなります。事故を起こした福島第一原発の3号機では、このMOX燃料が使われていました。
このような危険が大きい再処理は世界的には行われておらず、使用済み燃料をそのまま高レベル放射性廃棄物にする方が主流です。
■放射性廃棄物
日本において廃棄物について定めている廃棄物処理法では、放射性廃棄物は対象外となっています。放射能のごみは、本来すてられないごみなのです。
すてられないとはいえ、放射性廃棄物でいっぱいになってしまうと、原発などは動かすことができないので、寿命の短い放射能が減るまで一時貯蔵し、ある程度の放射能をフィルターで取り除いたうえで、大気中や海にすてています。
すてられない放射性廃棄物としては、高レベルの放射性廃棄物の他に、固体やドラム缶に詰めて固体化した放射性廃棄物があります。放射性廃棄物について定めた原子炉等規制法や放射線障害防止法では、これらをためておく(保管廃棄)ことにしていました。しかし、原発を使い続ければ放射性廃棄物の量はどんどん増えるため、いつまでもためておくことはできません。そこで、本来すてられない放射性廃棄物を地下に埋設してすてるために、原子炉等規制法が1986年5月に改正されました。埋設の事業者は日本原燃という会社で、もともと電力会社が負っていた放射性廃棄物の安全管理の責任、事故の際の損害賠償の責任が、埋設の事業者に移されることになりました。1992年の年末から埋める作業が始まり、いまも続いています。
埋めてすぐには「すてた」ことにはしません。放射能のレベルが徐々に下がるにつれて、段階的に管理をゆるめていき、最終的にはすてたことにします。きちんと管理をするのは最初だけで、最後には放射能漏れの監視すらやめてしまいます。
しかし、実際はすてられないくらい放射能が強く、だんだんと放射能が減っていって、最後の段階に達するまでには300~400年かかると言われています。その段階でも、ドラム缶1本あたり、一般の人が1年間にそれ以上体の中に入れてはいけないとされる量の10万倍もの放射能が残っています。
また、高レベルの放射性廃棄物は、溶かした特別のガラスと混ぜてステンレスの容器に固めこんだ「ガラス固化体」にして処理します。しかし、固化体の中の高レベル放射性廃棄物は放射線を出し、高い熱をもっていて、ガラスが変化したり、ひびが入ったりする可能性は十分あります。また、できたてのガラス固化体の放射線の強さは、その表面では人が浴びると20秒で確実に死亡するほどです。50年貯蔵すれば2分半かかるようになると言われていますが、大変な強さです。このガラス固化体を地下に埋めてすてることの安全性は全く確認されていません。
■スソ切り
放射性廃棄物のうち、ある放射能レベル以下のものは切り捨てられ、ただのごみになります。これをスソ切り(クリアランス)といいます。スソ切りが考えられたのは、原発を取り壊したときに出てくる放射性廃棄物が大量になるからです。寿命が尽きて廃止された原発は、施設全体を解体して撤去されますが、その結果、原子炉一基あたり50万トン前後の大量の廃棄物が発生します。本来は「放射性廃棄物」として管理されるべき廃棄物ですが、その大部分(98~99%)を放射性廃棄物の扱いをしなくてすむようにする原子炉等規制法の改正案が2005年5月に成立しました。
スソ切りが実施されると、放射性廃棄物が再利用されたり、産業廃棄物と同様に埋設されたりします。埋設する際に、気体の放射能が大気中に飛散し、埋め立て事業者や周辺住民が吸入することも考えられますし、埋設地が掘り返されて、農耕や牧畜に利用される可能性もあります。
大きな問題は、作業を行う労働者にも、再利用製品の消費者にも、埋設地の周辺住民にも、何の警告も標示もしないことです。また、何かの事故が起きた時、責任の所在がきわめて不透明です。
■最後に
すてることのできない廃棄物は、そもそも生みだすべきではありません。現にあるからといって、さらに増やしていいということにはなりません。どれほど困難でも、すでに生みだされてしまったものは、管理をしていくしかありません。しかも、後世の人々に管理を頼まなくてはならないのです。
今回の福島原発事故に限らず、原発が動き続ける限り、放射能は大気中や海にまき散らされ、すてられない放射能のごみがたまる一方です。このままの状況を続けてはならないと強く思います。