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【論説】オスプレイ配備は何をもたらすか(下)――オスプレイの低空飛行訓練は日本全国で

2012年06月23日 | 沖縄・高江

▼「環境レビュー」の問題点(3)――日本全土を訓練場にするオスプレイ

本土でも飛ぶオスプレイ

 環境レビューによれば、オスプレイの航続距離はオスプレイと交代するCH46中型ヘリの約4倍とされています。
 レビューは、CH46は「距離のために本土で運用を定期的に行えなかった」が、オスプレイは「飛行モードで飛べるのでCH46よりも時間をかけないで、長距離を飛行することが可能である」としています。
 これは、CH46にはできなかった本土への飛行とそこでの飛行訓練が可能になることを意味します。

 じっさい環境レビューは、普天間基地に配備されるオスプレイ部隊の計24機は、訓練のために、本土の米海兵隊岩国基地(山口県)と同キャンプ富士(静岡県)に2~6機からなる分遣隊を派遣するとしています。
 岩国基地とキャンプ富士への配備期間は月平均2,3日としていますが、場合によっては2週間にわたる長期派遣もありうるとしており、さらに米海軍厚木基地(神奈川県)など他の米軍基地へも派遣されるとしています。


(キャンプ富士)



低空飛行訓練は全土で

 本土に派遣されたオスプレイは、低空飛行訓練を各地で行うことが想定されています。

 米軍機による低空飛行訓練は80年代末から増加し、全国各地の「低空飛行ルート」(正式には「航法ルート」と呼ばれる)で行われて数多くの被害を生んできましたが、米軍はこれまでそのルートについての具体的情報を公表してきませんでした。

 市民団体の調査などにより、これまでに全国に少なくとも7本の低空飛行ルートが存在することが知られてきましたが、今回の環境レビューは初めて、オスプレイが使用するルートとして、東北の「グリーン」「ピンク」、北信越の「ブルー」、近畿・四国の「オレンジ」、九州の「イエロー」、沖縄から奄美にかけての「パープル」の計6本の低空飛行ルートを明らかにしました(中国地方にあるとされる「ブラウン」ルートは含まれていません)。




 これらのルートでは現在、岩国基地に所属するAV-8Bハリアー攻撃機やFA18ホーネット戦闘攻撃機などが低空飛行訓練を行っています。

 環境レビューは、オスプレイによる飛行の年間運用回数は各ルートで約55回、全経路合わせて計330回とし、これは全経路で平均21%運用が増加することになるとしています。
 さらに、「訓練及び即応基準を満たすため」にこれらの低空飛行ルートでの訓練の「28%を夕刻に、4%を夜間に実施する必要がある」としています。


米軍の低空飛行訓練に制約なし

 これらのルートがこれまで公表されてこなかったことからも分かるとおり、低空飛行ルートは米軍の日本での地位を定める「日米地位協定」に基づき日米合同委員会で合意されて提供された空域ではありません。

 ではなぜ、米軍機は全国にまたがる飛行ルートで低空飛行訓練を行うことができるのでしょうか。それは、日米地位協定の次の規定を根拠としています。

【日米地位協定 第5条2項】
 合衆国軍隊が使用している施設及び区域に出入し、これらのものの間を移動し、及びこれらのものと日本国の港又は飛行場との間を移動することができる。

 これは、いわゆる「施設間移動」を定めた規定です。米軍はこれを拡大解釈することであらゆる場所での低空飛行訓練を行っており、日本政府はこれを黙認しているのです。

 低空飛行訓練は、敵のレーダーをかいくぐって地上施設を破壊するなどの対地攻撃を行うための訓練で、米軍機は山間を低空で飛行したり、ダムや発電所、ときには人の集まる公共施設すら目標に設定して急接近したりするなど、危険極まりない訓練を行っています。

 このような危険な飛行は、日本の航空法に基づけば実行不可能です。航空法は、離着陸時を除いて150メートル以上、人口密集地では300メートル以上を「最低安全高度」としています。
 しかし、米軍機はこの規制には制約されません。「航空法米軍特例法」によって適用を免れているためです。

 なお、99年の日米合同委員会における合意では、

  1)住民に与える影響を最小限にする
  2)人口密集地域や学校、病院などに妥当な考慮を払う
  3)米軍は国際民間航空機関や日本の航空法により規定される最低高度基準を用いる

 などとされていますが、現実に行われている低空飛行訓練とその被害の事例からは、この合意が守られていないことが明らかとなっています。




「高度15メートル」でオスプレイが飛ぶ?!

 オスプレイによる低空飛行訓練で最も注目すべきなのは、その飛行高度です。

 環境レビューの本文では、「地上500フィート以上の高度」で飛ぶとされています。1フィートは約0.3メートルなので、地上150メートルの低空をオスプレイが飛ぶことになります。
 これは一見すると、日本の航空法の最低安全高度に配慮しているように見えます。

 しかし、環境レビューをよく読むと、さらに恐ろしい事態が想定されていることがわかります。
 環境レビューは、オスプレイが要求される訓練活動の内容を示しています。その「訓練活動の概要」に示された実施項目の中には、次のような記述があります。

「地形飛行――低空での飛行及び操縦。典型的な活動として、低空飛行及び等高線飛行がある。地上高50~200フィートといった様々な高度を航空機が飛行するものである」
「低空戦術――低空飛行及び地上50~500フィートにおける戦術用訓練」

 ここには、「地上50フィート」、すなわち、「地上15メートル」の超低空飛行を行うと書かれているのです。「地上15メートル」と言えば、5階建てのビルくらいの高さです。そのような超低空を危険機オスプレイが飛行したとき、いったい何が起こるのかは想像するだけで恐ろしいものです。


米軍機の低空飛行訓練で相次ぐ被害

 米軍機の低空飛行訓練は、すでに数多くの被害をもたらしています。

 やや古いデータになりますが、旧防衛施設庁がまとめた「米軍機の飛行による被害状況」によれば、95~99年の5年間だけでじつに合計68件の被害が記録されているといいます(前田哲男『在日米軍基地の収支決算』ちくま新書、2000年、87-88頁)。被害の内容も、「窓ガラスの破損」や家畜の被害、「落馬による負傷」など多岐にわたっています。

 近年でも被害は続いています。

 例えば、昨年(11年)3月2日、岡山県津山市で岩国基地所属の戦闘機2機による低空飛行で、民家の土蔵が倒壊するという事件が発生しています。

 また昨年9月29日には、島根県浜田市の佐野小学校の真上を岩国基地所属の戦闘機が「操縦士の顔が見えるくらいの高さで」低空飛行を行いました。
 同校の恩田校長は、「一瞬、「落ちる」と思いました。2階の教室では、恐ろしさのあまり床に伏してしまう女の子もいました。ほかの子どもたちも、ショックでしばらく言葉が出てこない状態でした」と証言しています(日本平和委員会『平和新聞』1987号、12年5月25日)。

 オスプレイが沖縄に配備されれば、日本全国で低空飛行訓練が展開されることは間違いありません。高度15メートルという超低空でオスプレイが飛び回る事態も起こりうるのです。

 以前の論説でも見たようなオスプレイの危険性に加えて、現状でも米軍機の低空飛行によって多くの被害が出続けていることを考えれば、オスプレイの配備と訓練の実施によって、これまで以上に深刻な被害が生まれることは避けられないと見るべきです。

 この点から見ても、オスプレイの配備問題は沖縄だけの問題ではないのです。環境レビューが示したオスプレイの運用の想定は、この危険な機体によって生存と人権が脅かされる事態が本土においても差し迫っていることを意味しています。



*   *   *



 三回にわたって、「環境レビュー」が示すオスプレイ配備の危険性や問題点について見てきました。

 そこから見えてきたのは、オスプレイ配備があまりに多くの問題を抱えているということです。それは、沖縄における生存と生活の破壊、本土でも墜落の危険が差し迫る低空飛行の問題から、このような問題だらけの軍用機を「島ぐるみ」で反対する沖縄に押し付けることの政治的な問題性に至るまで、じつに幅広く、かつ、深刻なものです。

 このようなオスプレイの配備を許すのか否か――それは、この社会における生存と人権、民主主義のあり方そのものを根幹から問うものです。(了)


   文責:吉田遼(NPO法人セイピースプロジェクト、NPO法人ピースデポ奨励研究員)





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