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【書評】新崎盛輝『新崎盛輝が説く 構造的沖縄差別』(高文研、2012年)

2012年08月24日 | 書評
 現在、日米両政府は、「世界一危険な基地」と呼ばれる沖縄県普天間基地に、事故が多発しているMV22オスプレイを強行的に配備しようとしています。その姿勢に対して、しばしば<構造的沖縄差別>という言葉が使われています。

 今回紹介する『新崎盛輝が説く 構造的沖縄差別』の中において、<構造的沖縄差別>とは、「沖縄への基地押しつけを中心とする差別的仕組み」から生まれた「数十年にわたる思考停止状態の中での「沖縄の米軍基地に対する存在の当然視」」を指します。新聞などのメディアの中で、この<構造的沖縄差別>という言葉が頻繁に使われ出したのは、2009年、普天間基地の「国外、最低でも県外(移設)」を掲げて発足した民主党鳩山政権が、翌年5月に名護市辺野古移設の容認へと回帰して挫折したころのことです。この「辺野古への回帰」と、現在進められようとしているオスプレイの普天間基地への強行配備などの現状に対し、沖縄では、多くの人々が「(構造的)差別」という表現を使わざるを得なくなっていると筆者は指摘します。


 本書では、4部構成の中で、この<構造的沖縄差別>という言葉の歴史的性格や、その克服への途について、筆者の長年の研究の蓄積を基にした現状の分析と、筆者の考えを示しています。

 第1部では、戦後の日米関係の中で沖縄がどのような位置付けであったのかが書かれており、現在、国土に占める割合がわずか0.6%である沖縄に、日本の在日米軍の約74%が存在するようになった歴史的経緯を把握することができます。筆者によれば、米国の占領政策の中で、象徴天皇制、日本の非武装化、沖縄の(分離)軍事支配は三位一体のものとして位置づけられ、ここに「構造的沖縄差別の上に成り立つ対米従属的日米関係」が始まったとしています。また、こうした構造的沖縄差別の仕組みは、1950年代の本土の反基地運動の間では認識されず、むしろその重要性を認識した日本政府の側が、1960年の安保改定以降、その仕組みを積極的に利用していったと筆者は述べています。

 第2部においては、日米安保を成り立たせてきた<構造的沖縄差別>が、1995年に発生した米兵による少女暴行事件以降爆発した沖縄の民衆の怒りと、それに対する日本政府の対応によって浮き彫りにされることになったと書かれています。普天間基地の移設・撤去や米軍基地負担の軽減は、実質的には基地機能の集約・強化を図る米軍再編政策の枠内に留まっていた上、対米従属的な「目下の同盟者」としての域を超えないようにする政治家や官僚、言論人などの暗黙の了解=思考停止が生じているのです。一方、2009年の政権交代以降、沖縄の世論は普天間基地の県外移設を強く訴え、かつて条件付き辺野古移設容認の立場を取っていた仲井真知事の方向転換を後押しし、オール沖縄対日本政府という様相を呈するに至っています。

 第3部では、日本本土において沖縄に米軍基地を置くことを正当化する論調の中でしばしば語られる「中国脅威論」の具体的な事例として挙げられる尖閣問題について、筆者の見解が語られています。尖閣諸島の問題は、日中間の政治的対立だけではなく、日中間に紛争の種が存在することによって沖縄の米軍基地の存在を正当化したい米側の政治的意図も働いており、さらに、そうした対立を口実に、与那国島などの先島地域に自衛隊を配備しようとする動きも進められています。このように国家の権力利害が対立しやすい辺境は、一方では、歴史的に国境を越えた民衆の交流が行われていた地域であり、歴史的地理的独自性を生かした平和の発信を続けるという役割が沖縄に求められていると筆者は述べています。

 つづく第4部では、以上で述べられてきた<構造的沖縄差別>の克服について、世論を動かした沖縄の様々な闘いに、筆者はその可能性を見出しているといえます。中でも、辺野古や高江で行われている座り込みの抗議活動は、現地沖縄の人々だけではなく、日本本土(ヤマト)からも多くの支援者が現地の活動に加わり、運動をつくっています。どちらの運動も「統計的数字の上ではコンマ以下の目に見えない繋がりの大きな広がりによって支えられて」おり、こうした現地での闘いが、現実に沖縄の世論を動かし、日本本土の世論にも影響を与えていることの意味は大きいでしょう。また、軍事基地の存在維持のため、その前提となる軍事的な緊張を生み出し、巧みに利用しようとする日米政府の政治的思惑がある一方で、韓国や沖縄などの東アジア地域での民衆間の連帯活動や交流が生まれていることは、その前提を崩す役割も担っていると筆者は主張します。


 オスプレイの安全性を強調するために日本政府が画策する中、沖縄では9月9日にオスプレイ配備に反対する県民大会が開催されます。この県民大会は、2010年の前回大会を上回る規模が予想されており、<構造的沖縄差別>に対する沖縄からの声に、日本本土社会がどう応えるのかが問われることになります。いま沖縄で、日本で起きている日米安保と米軍基地問題の情勢をつかむ上で、ぜひ本書を参考してもらいたいと思います。

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