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【論説】オスプレイ配備は何をもたらすか(中)――沖縄全域を飛び回るオスプレイ

2012年06月21日 | 沖縄・高江

▼「環境レビュー」から見る問題点(2)――沖縄を我が物顔で飛ぶオスプレイ

 環境レビューは、このような危険なオスプレイが沖縄県全域で飛ぶことになるという想定を示しています。

 人口密集地である本島中南部(普天間飛行場や嘉手納基地などを含む)から北部(伊江島補助飛行場、キャンプ・ハンセン、シュワブなどの中部訓練場、北部訓練場など)まで、沖縄本島を中心として広い範囲でオスプレイを運用するとされています。
 オスプレイの使用が想定されている沖縄県内のヘリ着陸帯(ヘリパッド)は69ヶ所に及び、このうち「戦術着陸帯」に指定された伊江島補助飛行場、北部訓練場などの50ヶ所は日常的に訓練で使用するとしています。また、嘉手納基地には弾薬補給のため年1200回程度飛来するとされます。


(地図―オスプレイの運用が想定されるヘリパッド)


1)普天間――深夜訓練が増加

 オスプレイ部隊が配備される普天間飛行場では、深夜訓練が増加するとされています。
 環境レビューは、夜22時~午前7時の夜間訓練が現在配備されているCH46の76回に比べ、約3.7倍の280回に上ると想定しています。

 これに関しては、15日の衆院予算委員会で防衛省の山内正和地方協力局長が、「日米では夜間の騒音防止協定が合意されている。最小限になるよう配慮が必要で、できるだけ夜間飛行しないよう米側に強く申し入れる」と述べ、また、増加の理由を米側に確認していることも明らかにしています(沖縄タイムス、6月16日)。


2)高江――オスプレイ訓練、初めて言及

 この環境レビューで初めて、東村高江(北部訓練場)で新たに建設が進められようとしている6ヶ所のヘリパッドでもオスプレイが運用されることが明記されました。

 高江でのオスプレイ運用は早くから指摘されていたにもかかわらず、日本政府は明言を避けてきたものです。6ヶ所のヘリパッドは高江の集落を取り囲む形で配置される計画であり、住民の方を中心とした座り込みによる建設反対運動が続いています。



 環境レビューによれば、新たに建設されるヘリパッド1ヶ所あたり年420回の運用を行うとされ、6ヶ所合計では2520回に上ります。これは、現在のCH46中型ヘリの運用回数1288回を大幅に上回りことになります。また、北部訓練場でCH46が行っている低空飛行訓練もオスプレイに引き継がれることになります(低空飛行訓練については後述)。

 環境への影響もさらに深刻になるでしょう。北部訓練場には天然記念物であるヤンバルクイナやノグチゲラなどの希少生物が生息していますが、環境レビューは、ヤンバルクイナがヘリパッドの近くで巣作りやとまり木をすれば「重大な害が与えられる」としています。




3)伊江島――夜間訓練や危険なタッチアンドゴー訓練が増加

 環境レビューは、北部訓練場と中部訓練場で訓練が減り、県内全体の既存のヘリパッドでの訓練は現状より12%減少するとしていますが、これは前述の高江での新規ヘリパッドでの訓練に加え、伊江島や金武町などでの訓練増加を含むものです。

 伊江島補助飛行場では、年間訓練回数が現行のCH46の2880回(10年)から2~3倍の6760回に増加し、伊江島を使用する米軍機全体の年間運用回数は現状の6204回から10,084回へと増加することが、環境レビューに添付された付属文書のデータによって示されています。
 オスプレイ配備後には、伊江島での運用回数全体のうちにオスプレイが占める割合は、じつに67%に上ることになります。このデータによれば、オスプレイ以外の機種による運用回数は変化しないとされていることから、オスプレイの配備が伊江島での運用回数を直接に増加させることになります。

 オスプレイ配備後の運用の時間帯をみると、全回数10,084回のうち、晩(evening:19~22時)と夜(night:22~翌7時)を合わせた夜間の運用が5124回を占めており、日中よりも夜間の運用の方が多くなることが分かります。

 さらに重大なのは、オスプレイが伊江島で行う訓練は「タッチアンドゴー訓練」だということです。
 詳細データによれば、オスプレイの運用回数6760回のうち、5916回は「タッチアンドゴー」とされています。じつに約87%を占めます(残りは、到着(Arrivals)と出発(Departures)がそれぞれ422回)。環境レビューの要約では、約2500回は陸上空母離着陸訓練(FCLP:飛行場を空母などに見立てて離着陸する「タッチアンドゴー」の一つ)となるとされています(約37%)。

 「タッチアンドゴー」は、航空機の基礎飛行訓練科目のひとつで、航空機は滑走路に着陸し減速した後、停止せずに再び加速して離陸します。艦載機が空母などの移動する短い甲板に着艦する際に必要となる技術を訓練するもので、高い技術が要求されます。つまり、それだけにより大きな危険を伴うものだと言えます。
 通常の訓練や飛行時にすら墜落事故が続発しているオスプレイが「タッチアンドゴー」を繰り返すことになれば、墜落の危険性はさらに高まることは避けられないでしょう。




4)金武町――訓練の激増と約束違反のヘリパッド使用

 金武町の米軍ブルービーチ訓練場ではオスプレイの年間運用回数が、現在のCH46の28回よりもなんと最大60倍も多い1680回と想定されています(環境レビューの詳細データによる)。2か所のヘリパッド「スワン」と「キンブルー」を使用するとされています。

 「スワン」では、現在CH46が年間14回しか運用されていませんが、オスプレイ配備後は最大1260回運用される「頻繁」な戦術着陸帯とされます。
 さらに、「キンブルー」では、現状を14回とした上で、年間最大420回の運用が想定されています。

 この「キンブルー」は、日米政府によって使用しないことが確認されていたヘリパッドです。ギンバル訓練場(金武町)を返還する際に、ブルービーチ訓練場でヘリパッドを受け入れる条件として「スワン」一ヶ所のみの運用とされたはずでした。防衛省は、「米軍と確認してきたことと違う。既存のヘリパッド(スワン)だけを使うよう今後申し入れたい」としていますが、オスプレイが配備されれば使用は強行されることになるでしょう。


▼オスプレイ配備は誰を利するのか?――背景にある米軍産複合体の利益

 全県的な反対を掲げる沖縄に対して、なぜ日米政府はそれでもオスプレイ配備を強行しようとするのか――琉球新報が報じた6月13日の記事は、この点に関して非常に興味深い背景を指摘しています。

 これによると、5月17日に米下院でマイク・クィグリー議員(民主党、イリノイ州選出)が、13会計年度の国防権限法案からオスプレイ調達費を削除した修正案を提出しました。
 クィグリー議員は、オスプレイの製造に「全米40州の2千社が関わっている」とし、「国防総省が雇用創出を図っているようだ。翼のついた危険な利益供与だ」と指摘したといいます。オスプレイは、1機の生産に100万ドル(約80億円)以上という巨額の費用がかかるとされ、財政難を背景とした国防費削減が迫られる米国内でも、生産や配備への反対論が出されていることを伝えています。

 しかし、クィグリー議員が「不況から抜け出すためにするべきことは限られている。予算超過で危険かつ不必要な航空機に財政支出することは、教育や社会基盤整備、医療など極めて重要な分野で予算が削られることを意味する」と述べて同意を求めたのに対して、選挙区にオスプレイ関連企業を持つ議員らが反対し、法案は否決されたといいます。

 他の軍備や軍事技術と同様に、オスプレイの開発と配備にも軍産複合体の利益が深くかかわっています。沖縄の反対にもかかわらず、日米政府がオスプレイ配備に固執する背景に、こうした「軍事」と「経済」の密接な関わりがあることを見ておく必要があるでしょう。



*   *   *


 最終回の(下)では、オスプレイ配備が沖縄のみならず本土にも大きな影響をもたらすことを見ていきます。最大の焦点は、オスプレイによる低空飛行訓練の危険性です。


    文責:吉田遼(NPO法人セイピースプロジェクト、NPO法人ピースデポ奨励研究員)


 ((下)につづく)

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