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セイピースプロジェクトのブログ

【論説】福島原発事故と避難者のいま

2012年09月18日 | 原発・震災
 福島第一原発事故から一年を経て、「原発問題」は、新たな局面を迎えているように感じられます。大飯原発の再稼働や原子力規制委員会の人事に疑問を覚えた市民が首相官邸前に繰り出し、他方では、東電や国の責任者を刑事告訴する動きが見られるなど、事故の責任を追及しようとする取り組みも行われています。しかし、避難者の状況に目を転じると、大きな政治的、社会的局面の変化というものは見受けられません。ここでは、避難者の現状について考察します。

■避難者数

 東日本大震災による避難者の数は、全国で約34万人、うち福島県では約16万人と見積もられており、福島県からの県外避難者だけでも6万1548人(7月5日時点)に上っています。このうちの半数近くが、政府の定めた避難区域外から避難した、いわゆる「自主避難者」であると考えられています。

 しかしながら、避難者の増加ペースは、昨年11月ごろから頭打ちとなっており、今年4月時点の6万2736人という数字からの微減も確認されます。この要因として、民間借り上げ住宅の更新時期を迎えて、更新せずに福島に帰るケースなどが指摘されています(毎日新聞山形版、8月9日)。


■生活状況

 震災後1年を境にして、支援団体の活動休止と、それによる避難者の帰還が懸念されました。後者については、今のところ、顕著な傾向が見られているわけではありませんが、いずれにせよ、避難者の生活が容易ではないことは確かです。

 母子避難者に対するアンケート調査では、「いま困っていること」として、「二重生活の経済負担」が1位となっており、「改善が必要なこと」としても、経済的な支援が上位に挙げられています(朝日新聞、7月23日)。東京都が行った調査では、震災前には正規雇用だった避難者のうちの3分の1以上が職を失い、その多くが現在も失業状態にあることが明らかになっています。また、このうち6割弱の人々は現在、就職活動を行っていませんが、「現在の住居にいつまでいられるかわからない」など、先行きの不透明さが判断を難しくしているようです。住居の確保についても、避難者が行政に期待する支援策の1位に挙がっているように、依然として焦眉の課題となっています(『都内避難者アンケート調査結果』平成24年4月)。

 総じて、生活状況に関しては、避難生活を支えるための経済的な側面と、今後の展望が見えないという側面において、いまだ大きな困難が横たわっています。行政による包括的な生活保障策が求められます。


■損害賠償問題

 国際環境NGO FoE Japanと福島老朽原発を考える会(フクロウの会)が昨年10月に行ったアンケートによると、避難するためにかかった追加的費用の平均は、約72万円に上っています。さらに、昨年10月以降必要となった追加的費用や、職を失った、あるいは転じたことによる収入の減少も併せて考えなければなりません。また、損害賠償額には、避難によって被った苦痛や放射線被ばくに対する不安等、精神的損害も適切に算定されるべきです。しかしながら、福島県内からの自主避難者の賠償枠組みは、「一律8万円、子ども・妊婦は40万円」から、基本的には前進を見ていません(滞在者も同額)。

 賠償請求が東電と合意に至った割合は、件数ベースで8割前後(7月19日現在)だといわれていますが、東電が和解案に従わないなど、想定よりも紛争が長期化するケースが数多く報告され、被害者の負担となっています。
 さらに、これからの争点として、不動産の賠償支払いの開始や、避難区域再編に伴う新たな賠償枠組みの設定が挙げられます。

 これから請求が行われるものも含めると、10万件を超える紛争が予想されていますが、被害者が負担の大きい訴訟を避けるため、不満足でも和解を強いられてしまっている現状も指摘されています(朝日新聞、9月2日)。


 他方、福島では、その有効性に疑問の多い除染作業が進められ、「避難区域再編」による避難者への帰還圧力も高まっています。
 原発事故の被害者である避難者たちが避難生活を継続するためには、依然として、ハード、ソフトの両面における生活保障こそが必要とされているのです。

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