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【映像評】『ネットワークでつくる放射能汚染地図6 川で何がおきているのか』(NHK、2012年6月10日放送)

2012年06月20日 | 原発・震災
(阿賀野川)


 昨年5月に放送され、話題を呼んだNHK ETV特集のシリーズ『ネットワークでつくる放射能汚染地図』。今回紹介する映像は、その第6弾です。

 この映像は、2011年12月、福島県内でも比較的放射能汚染の度合いが低いとされる会津地方の川辺で高い空間線量と土壌汚染が確認されたことを契機に、福島県を水源とする阿武隈川と阿賀野川の上・下流域、合わせて400カ所以上の地点の調査を行い、水による放射性物質の移動とそのメカニズムを追ったものです。

 調査対象となった阿武隈川・阿賀野川は福島県を水源とする一級河川で、阿武隈川は宮城県を通って太平洋へ、阿賀野川は新潟県を通り日本海に注ぎます。調査では、どちらの川の水も放射性物質は検出限界値(1.0~1.7ベクレル)以下でした。
 ところが、川底や川べりの土からは高濃度の放射性物質が検出され、さらに阿賀野川では、福島県内に位置する上流域だけでなく、日本海に面する下流域からも放射能汚染が発見されました。映像の中で調査・分析をした専門家らは、その原因として、セシウムが砂よりも泥に結合しやすく、川の流れに乗ってセシウムを含んだ泥が遠くまで運ばれ、下流の川底に堆積するためではないかと指摘しています。

 また、福島県中通り地域を通る阿武隈川は、都市部の放射性物質が雨などにより水路を伝って川に流れ込むため、川の合流地点に向けて川底・川べりの放射性物質が濃縮され、数万ベクレルもの高い値の放射能汚染が確認されています。そして、福島第一原発から約66キロ離れた下流域では、1日当たり1700億ベクレルもの大量の放射性物質が海に向かって流れ込んでいるといいます。

 福島県の中心都市である郡山市や福島市では、現在、陸地の除染が進行していますが―ただし、除染がなされても、年間被ばく線量限度を超える値にしかなっていません―、河川については具体的な対策は検討されていません。
 大量の放射性物質が海に注ぎ、河川周辺地域の空間線量の高い状態が、原発事故後から現在に至るまで続いているのです。

 この映像では、原発事故によってもたらされた環境汚染の深刻さが改めて浮き彫りにされています。特に、放射能汚染のレベルが比較的低い新潟県でも、阿賀野川下流域において、比較的低い値とはいえ汚染が発見されたことは注目に値するでしょう。原発事故による放射能汚染は、福島県だけの問題では決してないことを改めて捉え直す必要があります。

 さらに深刻なのは、水による放射性物質の移動を止める手立てが、現在ないということです。すなわち、川の水が海に流れ込むことにより、放射能汚染は今後も拡大し、食物連鎖を経て、巡り巡って私たちに放射線被ばくをもたらす危険性は今後も続いていくことを意味します。そのような現実と向き合い、きちんとした対策を講じるためにも、まず環境汚染の実態を把握することが必要です。その実態を把握するためには、映像の中でも出てきたように、地学や栽培学など、あらゆる分野の専門家が携わり、日本の地理的特徴や土壌の特性などを総合して分析を進めることが重要ではないでしょうか。


 忘れてはならないのは、環境が汚染された時、一番に被害を受けるのは周辺地域に住む住民、その中でも社会的弱者に被害が集中するということです。
 新潟県阿賀野川流域は、かつて有機水銀によって汚染され、「第二の水俣病」がもたらされた地域です。現在、国や東電のとっている対応は、水俣病が発生した際の国やチッソの対応と重なる点が多く、水俣病の教訓が生かされているとは決して言えません。

 放射線被ばくによる健康被害を少しでも防ぐためには、環境汚染の実態を調査し、専門家と住民とが協力しながら対策を講じていくことはもちろん、その環境汚染をもたらした責任を、住民の生活実態に即した形で国や東電に取らせていく必要があるのではないでしょうか。


(阿武隈川の源流)

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