中原聖乃の研究ブログ

研究成果や日々の生活の中で考えたことを発信していきます。

水草たい肥にかかわる人と企業の訪問

2019-06-24 19:22:38 | 研究報告

 

先週末、滋賀県近江八幡市牧町の魚のゆりかご水田を行っている米農家の見学に行った。いまは田んぼや水路の整備が進んで、田んぼには生き物の姿が見られなくなっている。ただ、整備される以前は、琵琶湖を生息地としているニゴロブナが、春になると川をさかのぼって田んぼで産卵をしていた。いまは田んぼに通じる水路を深くしたので、魚が帰って来れなくなっている。そこで、魚がさかのぼれるような魚道を作って、生き物がいたかつての田んぼを取り戻そうというのが、滋賀県による、「魚のゆりかご水田プロジェクト」だ。ちなみに、琵琶湖の特産品ふなずしはニゴロブナから作られている。日本酒にとてもよく合う。

そしてこの農地の特徴は、琵琶湖の水草たい肥を使っていることだ。びわ湖の水草たい肥も県の事業として行っている。やっかいものの水草をたい肥に変えて、畑の肥料にしようという事業である。この田んぼでは化学肥料は入れない。収穫後出る稲わら、籾、ぬか、すべて田んぼに戻すそうだ。

この農家のキーワードはずばり「循環」である。「自然から必要なものだけをいただいて、あとは自然にお返しする」という言葉が印象的だった。この方、もともとは農家ではなく、サラリーマンだったそうだ。3年前に田んぼを整備することから初めて、今年は2年目の栽培となるそうだ。

それではこの水草たい肥は、どうやって作っているのだろう。今回は、同じく近江八幡市の津田にある、水草の堆肥化の敷地を訪問した。

琵琶湖から刈り取られた水草は、すべてここに運ばれる。1メートル50センチの高さに積み台形に整える。そして適宜切り返し(水草を切ったり混ぜたりする)を行う。こうしてふた夏かけて、たい肥になる。今年はたい肥にできる種類の水草が少なくなったそうだ。水草をたい肥にする研究が成功し、水草たい肥が人気が出てきたのに。やっかいものだから少なくなったほうがいいのだけど、事業化が成功に向かいつつあることを考えると、今後水草を栽培しなくてはいけないんじゃないか???

この水草たい肥、面白いところで使われている。それが同じ近江八幡にある、最近人気のラコリーナという・・・商業施設でもないし、遊園地地でもテーマパークでもないし、リゾート施設でもないし・・・和菓子メーカのHPには、「自然を愛し、自然に学び、人々が集う繋がりの場」と書いてある。ラコリーナは、山野草を作り、コメを作り、和菓子を販売し、カフェやレストランでおなかを満たし、施設をとりまく自然を愛でる場だと思う。

野菜や山野草を栽培する場所への道はまだ一般には開放されていないけれど、これがとても素敵だ。なんと竹を細かくしたものが敷き詰められているので、歩くとカラカランとここちよい音がする。この竹、野菜作りのマルチ代わりにも使われている。この竹は、この施設の裏山の八幡山の放置された竹林を整備させてもらい、不要な竹をもらったものだ。山野草の寄せ植えは、施設内のレストランなどで使っている。

田んぼの農作業は社員の手作業で行われる。化学肥料や農薬は使わない。ドジョウや蛍がいるそうだ!田んぼの周りの遊歩道には、草が植えられているが園芸種はなく、すべて普通の草。

もともとは自社製品のヨモギの仕入れ先に見学に行ったとき、ヨモギを洗うと農薬で真っ白くなってしまったのを見て、自分たちで作ろうと決心したという。そもそもこの施設は社員に商品の原料を作ることを体験してもらうのを目的としていたそうだ。たねやのところてんは買ったことがあるが、まさかこのような企業だったとは!

以前、やはり滋賀県の企業で、水草たい肥作りにバーク材(木の皮)を提供している会社を訪問したことがある。この会社はもともと木材の会社だったが、パレットづくり、廃材を使った発電、水力発電、木材を使ったビニールハウス、そこで作ったフルーツを使ったケーキ屋、なんとブラジル人学校まで経営する、かなり面白い企業だった。(写真は木材チップ)

でもこの少し風変わりな二つの企業には独特の世界観があるように思える。社員の方からお話を聞いても、マニュアル通り説明するのではなく、この仕事をやりたくてやっているし、仕事を愛しているのが素直に伝わってくるのだ。こういう仕事に巡り合った人は幸せだろうな、と思う。


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