中原聖乃の研究ブログ

研究成果や日々の生活の中で考えたことを発信していきます。

女性のみだしなみ

2015-05-23 09:22:40 | マーシャル諸島の紹介

 

 女性の身だしなみはなによりも大切だということを実感した出来事を思い出しました。

 1999年、博士論文の調査で初めて1年8ヶ月という超長期でマーシャル諸島に滞在した時のことです。首都マジュロでの調査をしていたある日の昼下がり、インタビューに行った先で、話を聞きながら頭がボーッとしてきたので、帰宅することにしました。翌朝、目が覚めても体が動きません。ようやくの思いではい出し、助けを求めました。

 私のマーシャルのお母さんは、「大変だ!サトが病気だ~~!」とここまではよかったのですが、「ハティ!車洗うよ!」と、妹と一緒に自家用車を洗い始めました。私はその間、リビングでぐったりしています。洗車が終わると今度はシャワーです。私はぐったり動けません。シャワーが終わると、髪のセットアップを始め、洋服を選び、香水で最期の仕上げです。「さあ、病院に行くわよ」と言ってくれたときはもうお昼に近い時間でした。

 案の定、水分、塩分、新鮮な野菜不足という診断が下されました。今で言う熱中症です。死ぬ寸前だったのではないでしょうか?病院からの帰り、普段使わないカートを使って、ジュース、果物、野菜を、大量に買い込みました。ありがとうお母さん!でも私は、あと3時間早く病院に行きたかったわ。

 マーシャルのフォークロアに「レリクロイオン」というお話があります。二羽の海鳥が踊るように羽ばたいているのをレリクロイオンと言います。レリクロイオンは、お互いにお互いの身なりを確認しているように見えるのですが、それはお洒落なロンゲラップの女性を表しているのです。レリクロイオンを直訳すると北の女の子たちという意味で、マーシャル諸島の北部に位置するロンゲラップの女性を指しています。お洒落なロンゲラップの女性像は、古くからの言い伝えからもわかります。

(上の写真はロンゲラップの女性ではなく、首都マジュロの人々です)


女性の方は、男性にトイレの場所を聞いてはいけません!優雅に振る舞ってください。

2015-05-23 08:01:03 | マーシャル諸島の紹介

 

 マーシャル諸島では、女性には一定の優雅さが求められます。私はマーシャルの家庭に滞在し始めたころ、これを知らずに失敗した経験があります。

 滞在先の家庭の奥さんと旦那さんに連れられて、車に乗って親戚の子供の誕生日パーティーに行った時のことです。会場のお宅に着いても、車から降りようとせず乗ったままなので、「行かないの?」と聞きましたが、「ちょっと待って。様子見てるから」という返事。家から20メートルくらいのところに車を止めて、始まりそうな雰囲気になるのを待っているのです。一時間後、やっと家に入っても、パーティーは始まりません。始まって、数人のスピーチが終わるころには、わたしはお手洗いに行きたくなりました。私はたまたま隣にいた旦那さんに「トイレどこかなあ」と聞きました。すると、近くにいた奥さんが、慌てて近づいてきて「サト~~~~!言っちゃダメ~~~」と言うのです。離れた場所に連れて行かれ、「トイレ」という言葉を男性の前で言ってはいけないと教えられました。

 ではCould you tell me where the restroom is? など、丁寧な表現だったらよかったのか?これも「だめ」です。あとで、女性は男性の前で、特に男兄弟と同席しているときには絶対にトイレに行かずに我慢するものなのだと聞きました。どうしても我慢できなくなったら、隣の家に駆け込むとのことでした。これは男性に、特に男兄弟に性的なものを連想させないためなのだそうです。ですので、女性の下着なども干すのには工夫が必要になります。最初に洗濯物を干したとき、サンサンと降り注ぐ日差しに気持ちよくバーッと広げて干したら、それを見た奥さんが、慌てて干し直しました。

 マーシャルでは女性は優雅に振る舞わなくては行けません。車道を横断するとき、車が近づいてきたとします。日本だったら、パタパタと早歩きしますね。マーシャルでは走りません。まっすぐ前を向いて、落ち着いて渡りきります。病院、スーパーマーケット、公共機関、電話局などの公共施設に、大声でバタバタと駆け込むのもだめです。

 日本では、あんな絶世の美人はオナラなんてしないんだろう、などと思うことがありますが(?)、マーシャルでは、よもやお手洗いにいくなどという汚れた行いをするはずがないと思わせるほどの上品さを醸し出さなさなくてはいけないのです。マーシャルの女性が日本の大学のキャンパスに来ると、お尻の見えそうなショートパンツをはいている女子大生を見て、卒倒してしまうでしょうね。

 マーシャル諸島では品よく、たおやかに。特に女性は、過度な肌の露出を避け、上品な振る舞いを心がけましょう。


マーシャルのパンケーキを思い出し

2015-05-10 08:12:07 | 日記

   

 ブログを始めてマーシャル諸島のことを書いていたら、マーシャルの朝食のパンケーキを思い出し、今朝は休日で時間もあるのでパンケーキを作りました。蜂蜜は、静岡で養蜂をしていらっしゃる佐々木さんからいただいたもの。花の香りが口の中いっぱいに広がってきます。  マーシャルの朝ご飯は、パンケーキかドーナツを食べることが多いのですが、昼と夜はご飯です。日本統治時代にお米が入ってきて、ドイツ統治時代に入ってきたパンを食べる機会が減ったそうです。  

 今日はこれから友人と美術館に行きますが、帰ったら、20日締め切りの原稿にとりかからなくては。論文にはとてもならず、研究ノートに格下げしてもらいました。2013年の夏期調査で得られた、メジャト島避難島の移住の動向をまとめることにします。


共著出版のお知らせ

2015-05-06 19:45:08 | 研究報告

かなり遅い報告ですが、3月末に共著が出版されました。

足羽與志子・中野聡・吉田裕編『平和と和解―思想・経験・方法 一橋大学大学院社会学研究科先端課題研究叢書6』旬報社、2015年3月。

わたしは「科学がうち消す被ばく者の「声」-マーシャル諸島核実験損害賠償問題をめぐって」を書きました。

以下出版社HPです。

http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/986

 

HPより抜粋

「平和と和解」がなぜかくも困難なのか—。冷戦終焉後の国際社会で国際公共政策上の重要課題として位置づけられてきた平和構築や「移行期の正義」論などとの対話と協働を意識しつつ、「平和と和解」が政策課題となったとたんに抜け落ちてしまうような思想・経験・方法といった領域の諸問題について検討する。

解説 中野 聡 

 第 I 部 思 想
第1章 マハートマー・ガーンディー晩年における「世俗主義」について 間永次郎
第2章 W・ジェイムズの反帝国主義—プラグマティズムと平和主義についての一考察 清水由希江 
第3章 自然の「美しさ」をめぐる争いと制度—アメリカ国立公園局によるミッション66計画を事例に 寺崎陽子
第4章 育てる身体と感覚—『養蚕秘録』に見る人間と蚕の関係 沢辺満智子
   
 第 II 部 経 験
第5章 非政治的な価値をめぐる政治性—広島と人道主義 根本雅也
第6章 十五年戦争と元・兵士の心的外傷—神奈川県の精神医療施設に入院した患者の戦後史 中村江里
第7章 黒人運動の「外交」—全米黒人向上協会(NAACP)、国際連合と冷戦 小阪裕城 
第8章 アメリカ合衆国における中東平和アクティビズムの形成一九六七年以降のアメリカ・フレンド奉仕会のアラブ・イスラエル紛争への取り組みから 佐藤雅哉
第9章 科学がうち消す被ばく者の「声」—マーシャル諸島核実験損害賠償問題をめぐって 中原聖乃 
第10章 記憶をうしなった「たったひとりの生きのこり」 六歳スペイン少女のその後—マニラ戦スペイン総領事館襲撃事件(一九四五年) 荒沢千賀子
 
 第 III 部 方 法
第11章 フランス・ドイツの歴史研究における「極東」への関心 シャンタル・メジェ 
第12章 行動の神経生物学と攻撃に関する個体群生物進化のいくつかのデータとそれがもつ意味について クロード・ドゥブリュ 
第13章 トラウマを耕す:ドゥブリュ教授の報告への応答 宮地尚子/菊池美名子 
第14章 暴力の表象と文学ジャンルの倫理—ジョナサン・リテル『慈しみの女神たち』からカタルシスのリベルタン批評へ ジャン・シャルル・ダルモン
第15章 翻訳者の使命、あるいは虚構に倫理を見出すことの困難さについて—ダルモン教授の報告への応答 有田英也
第16章 討論から クロード・ドゥブリュ+宮地尚子+有田英也+ジャン・シャルル・ダルモン+シャンタル・メジェ


マーシャル諸島の言語はたった一つ

2015-05-06 18:49:38 | マーシャル諸島の紹介

 

 ヴァヌアツ共和国という国が赤道より南の太平洋上にあります。ブータン王国とならんで「幸せだなあ」と考える国民の割合が世界一高い国とも言われていますが、海域面積(排他的経済水域)68km²、国土面積12200km²、人口20万人の国に、100を超える言語が話されています。方言ではなく本当に通じないため、植民地時代に生み出されたピジン語が共通語として用いられています。なんとニューギニア島(西半分がインドネシア、東半分がパプアニューギニア)には言語が850もあると言われています。

 それではマーシャル諸島はどうでしょうか。海域面積は213万平方キロメートル、国土面積は181km²、人口は約5万人です。ここにどのくらいの言語集団がいるのでしょうか。

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 答えは一つです。こんなに広い海域にたった一つの言語しか存在しないのです。なぜヴァヌアツは一つの言語につき2000人程度の話者しかおらず、マーシャル諸島では5万人もの人が一つの言語を話しているのでしょうか。

 それは災害時の対処の仕方の違いにありそうです。干ばつや台風といった災害はヴァヌアツでもマーシャルでもやってきます。20153月ヴァヌアツを大きな台風が襲ったことは記憶に新しいことと思います。

 災害時の対処として、ヴァヌアツなどの火山島では土壌も豊かで豊富な食料の収穫が見込めることと、一人当たりの土地が広いことで、余剰の土地を利用できる可能性はないでしょうか。他方、海抜2メートルしかないマーシャル諸島の環礁では、災害に襲われるとひとたまりもなく、一つの環礁の資源だけでは長期にわたる生存は難しかったはずです。だから危機的な災害時には助けてもらう、あるいは思い切って移住をする必要があったのでしょう。もちろん見ず知らずの人に助けてもらうのは、さすがに気が引けますから、普段から広い海域に散在する島々の間で知り合いを作ろうとしたのではないでしょうか。この交流が言語を一つにまとめていったのだと私は考えます。

 マーシャルでは「はじめに言葉ありき」というよりも、「はじめに行いありき」そして、いつのまにか「言葉ひとつになりぬ」なのです。