中原聖乃の研究ブログ

研究成果や日々の生活の中で考えたことを発信していきます。

米国在住マーシャル人の深刻なコロナ感染状況について

2020-09-13 17:22:39 | マーシャル諸島の紹介

マーシャル諸島共和国では、コロナが流行し始めた早い段階で(3月8日)、海外からの入国を完全に禁止した。幸いなことに人口約5万人のマーシャル諸島国内では、感染者ゼロが現在(2020年8月13日)まで続いている。しかし、米国に移住した約3万人のマーシャル人は、コロナの流行の影響を受けている。

(このことを知り合い数人にメールで送ってみたのだけれど、あまり反応がなかった。どうしようかと思っていたが、しばらく書いていなかったブログにアップしてみる。実はブログを休止していたのは、思いがけず手術したり、眼の調子が悪くなったりして、遅れ気味の仕事に追われていたため。。。)

 

  • マーシャル諸島在住佐藤美香さんの話

マーシャル保健省の職員の話として、アメリカ在住のマーシャル人は現在約3万人、そのうち3千人が感染して、70~100人ほどが亡くなっているそう。家族の誰かがコロナに感染しても、隔離することが心情的に難しいのだそうだ。病気の家族を看病しないで一人にしておくことはできないと。

 現在感染者数がゼロのマーシャル諸島は、海外からの流入を完全に禁止しているからこそ、ゼロになっている。3 月8日から国を閉ざしているが、その日までに帰国できなかった海外国在住マーシャル人が、帰国を待っている。その数はマーシャル諸島大統領府によれば、6月8日の時点で本人から届け出があったのは、456人である。ハワイには数百人が帰国を待っているという噂もある。。。マーシャル国内では、国を開けなければという意見と、国のロックダウンを継続するべきだとの意見のせめぎ合いの状態にあるそうだ。8月12日からマーシャル諸島国内で感染者が出た場合のシミュレーションが行われ、13日は予行演習らしい。国を閉ざして、4か月が過ぎたマーシャル諸島。何年も国を閉ざすわけにもいかない。だとすればどうするのか。国内感染者ゼロのマーシャル諸島政府は、議論と対応に必死な状態が続いている。

 

  • ラジオニュージーランド(7月9日付のインターネットニュース)

ワシントン州のとある市では、人口の1%を占めるマーシャル人が、市のコロナ感染者の30%を占めているという。(このとある市というのは、おそらくスポーケン市である。スポーケン市には多くのマーシャル人が移住している。ウィキによれば、スポーケン市の人口は197,400人(2000年国勢調査)。マーシャル人の人口は計算上19,740人。感染者数は(計算上)5,922人と言うことになる。)さらに、アーカンソー州の北西では、地域の死者の半数をマーシャル人が占めているという。(この地域はスプリングデールではないかと思う。スプリングデールには、多くのマーシャル人が住んでいる。)アーカンソーの保健当局(Arkansas health authorities)によれば、コロナ感染による最初の28人の死者のうち14人が2型糖尿病で、そのうち12人がマーシャル人だったという。

ハワイでは、ハワイ人口の4%に過ぎない太平洋島しょ国からの移民は、6月26日までの感染者の23%を占めている。ちなみに、7月1日時点でのオレゴン州における1万人当たりの感染者は158人である。米国では1万人あたりの感染者数は20人だが、太平洋島しょ国からの移住者は、その8倍である(つまり160人?)。アーカンソー州では、6月末の時点で、人口の0.3%に過ぎない太平洋島しょ国からの移住者の感染者は、8%を占める。

ラジオニュージーランドには、マーシャル在住アメリカ人のジャック・ニーデンタール氏のコメントが寄せられている。マーシャル人は、家族(拡大家族、親族)を大切にする。一歳の誕生日(ケーメン)、葬儀、結婚式、教会など、100人規模の多くの人が集まる。そして、病気になった人を隔離することなく、みんなが患者を取り囲み、手厚く看病する。こ

うした習慣を変えることができなくて、感染を拡大させているという。「お互いに愛すること、相手を信頼する文化、それをやめろとは言えない」のだそうだ。

 

  • KUAF(JUL 16, 2020付インターネットニュース)

その後、アーカンソー州全体では、マーシャル人住民12,000人のうち1,800が感染し、27人が死亡した。

 

  • Hawaii News Now (July 30, 2020付インターネットニュース)

ハワイ州でのコロナ感染者数の3分の1がマーシャル諸島を含むミクロネシアの人びとである。ハワイ州政府は、ハワイのエスニックグループごとの10万人あたりの感染率を算出した。その分析によれば、太平洋島しょ国の人びとは突出して高く、527.5人。フィリピン系99.4人。白人68.9人。中国系Chinese: 65.6人。ハワイアン58.6人。日系51.4人。黒人33.8人となっている。

 

  • マーシャル人の感染者が多い理由

核実験の補償金により、急速に貨幣経済に組み込まれ、ラーメン、冷凍の肉、スナック、コーラをはじめと留守清涼飲料水、、、糖尿病患者率は世界でもトップクラス。マーシャル諸島には糖尿病センターがある。アメリカではさらに肉が安いために、肉に偏った食生活。

肥満、心血管の病気、がんなど、健康に問題を抱える人が多い。

1986年の米国とマーシャル諸島の間の二国間協定「自由連合盟約」により、マーシャル人が米国での滞在にビザが不要となった。

マーシャル諸島国内の医療サービスの脆弱性→アメリカへ、仕事があれば、職場の医療保険適用となる。

多くが、食肉加工工場で、肉の解体などの仕事についており、テレワークができない。

3LDK程度の部屋に10~20人が住む。家の中が過密状態。祖父母、親、子共、孫、いとこ、おばなど、、、親族を頼って、マーシャル諸島から仕事と教育の機会を得るために移住する。

感染した人を、マーシャル人は隔離しない。世帯内だけではなく、遠くの親戚も手伝いなどで訪れる。看病する。家庭内感染が広がる。

健康保険の適用を受けられない人もいるらしい。

 

マーシャルコロナ寄付はこちら👇

https://www.mei.ngo/covid-19

(英訳したほうがいいですよね。しばし、お待ちを・・・)

【引用・情報源】

マーシャル諸島在住 佐藤美香氏談

 

Radio New Zealand (9 July 2020)

https://www.rnz.co.nz/international/pacific-news/420744/coronavirus-perfect-storm-engulfs-marshall-islanders-in-us

 

KUAF | Public Radio serving parts of Arkansas, Oklahoma and (JUL 16, 2020)

https://www.kuaf.com/post/marshallese-leaders-respond-cdc-assessment-pandemic-impact-arkansas?fbclid=IwAR3s11igArrbMA3f18RSDpjhZGUgfJClkK7H-pMpeH-MNJrJGHUZlXw1Pc0#stream/0

 

Hawaii News Now (July 30, 2020)

https://www.hawaiinewsnow.com/2020/07/30/infections-soar-covid-is-hitting-one-ethnic-group-hawaii-particularly-hard/?fbclid=IwAR1S8I1zioEVvCgar1V-ZXzfhZY_bY2qg5zyYPh3I5uBuBUXNWwenUQ_XwM

 

Los Angeles Times (7月16日インターネット配信)

https://www.latimes.com/world-nation/story/2020-07-16/as-covid-19-cases-climb-in-the-u-s-there-are-still-none-in-the-marshall-islands

 


アメリカに移住したマーシャル人

2017-05-25 12:07:21 | マーシャル諸島の紹介

 

マーシャルでの学生時代の調査中、とてもお世話になった家族が今住んでいる町、ユタ州ハイラム市を2017年3月に訪問しました。ここにはマーシャル人移住者のなかでも、ロンゲラップ環礁のマーシャル人しかいません。ちょうど、子供の一歳の誕生日パーティーがありました。なんとここはマーシャルか?と思うほど、マーシャルの首都マジュロと同じ形式でパーティーが行われていました。100キロ南のソルトレークシティもまたマーシャル人移住者が多い町ですが、ロンゲラップ環礁出身者が多く、ロンゲラップタウンと呼ばれているとかいないとか。

 ハイラム市の人口はわからないのですが、ハイラム市のあるキャッシュ郡の人口は91,391人。産業は酪農です。見渡す限り牧草地が広がっており、牛のとさつ工場では、一日2000頭の牛を捌くのだそうです(マーシャル人談)。酪農も行われており、バター工場もあります。アイスクリームやバターを販売しているお店もあります。食べてみたかったのですが、私が行ったのが土日で、残念ながら閉店でした。

ほとんどがモルモン教徒です。なので、マーシャル諸島に住んでいたころは、プロテスタントだったけど、移住後も教会にはいきたいのでモルモン教に改宗したという人がいます。数年後にはマーシャル諸島に戻りたいと言っていて、その時にはまたプロテスタントに戻るのだそうです。

 


イバイの食堂事情

2016-03-29 07:38:50 | マーシャル諸島の紹介

首都マジュロには数え切れないほどの食堂がありますが、イバイには3軒しか食堂がありません

 一番のオススメはフィリピン料理La Boujieです。

チャーハンとバナナルンピアと牛肉ルンピアが美味しく、インタビュー先に手土産に持って行っても喜ばれました。ルンピアとは春巻きのことのようで、なかなか覚えられずルンバイとかルンピニーとか言って注文したりしていたのですが、何度も行くので店員さんも「はいはい。ルンピアね」とわかってくれるようになりました。

 他にTriple J というお店もあります。ここは10年ちょっと前は海の見える二階にレストランがあったのですが、一回の奥まったところにレストランの場所が移動しあまり面白くありません。提供される食事もファストフードが中心で、ハンバーガー・ラーメン・チャーハンが中心です。甘いものを食べたくてケーキを注文したのですが、あまりの甘さにトッピングのオレオは残してしまいました。。。

 もう一軒はEnno という台湾料理のお店です。ここは夕方からやっているので、今回は時間が取れなかったので行けませんでした。ただ、美味しい(Enno)というお店の名前の割にはマーシャル人の評判はよくないようです。

首都マジュロにはたくさんの中華料理店があるのですが、イバイでは初めての中華料理なので仕方がないのかもしれません。 ごくまれに料理好きのマーシャル人がいて、キムチ、巻き寿司、豚の内臓を血で煮込んだもの、アドボなどの外国料理を作ります。フィリピン人の友達から教えてもらったんだ、という話はよく聞くのですが、なぜか中国人、台湾人、韓国人から料理を習ったという話は聞きません。中国料理は世界で一番美味しいはずなのに、なぜマーシャルではそれほど流行らずに、フィリピン料理のほうが受け入れられているのか?その理由はもちろん、中華料理よりもフィリピン料理の方が気候的にマーシャルに近く、食材の共通性があるという点もあるでしょうが、マーシャル人との関係性も影響しているように思います。 中国人はマーシャル人との付き合い方が間接的、もっというと上下関係を思いっきり持ち込みます。マーシャル人は、計画性をもって完璧に仕事をする、、、ということはあまりなくゆっくりとマイペースに仕事を進めるのですが、そういうマーシャル人を中国人経営者は管理しようとしているのがあからさまです。例えば、中国人商店の中には数台の監視カメラをつけているお店もあります。風呂屋の番台のようになっているところもあります。レジ打ちをするマーシャル人をはじめ店内を常に監視しています。そして中国人経営者は座ったまま、あるいは立ったまま、無表情で掃除や陳列の指示を出したりしています。

 フィリピン人経営者はちょっと違います。マーシャル人と一緒になって働くし、掃除もするし、レジ打ちもするし、一緒に冗談を言い合って笑っています。先日食堂で面白い光景を目にしました。裕福そうなマーシャル人のおばあさんとお孫さんが入ってきて、手の除菌剤のポンプを何度も押していました。マーシャル人の店員はその音は聞こえていたでしょうが、背を向けてアイスボックスの中の氷を黙々と割っています。そこを通りかかったフィリピン人経営者が、「あれなくなってるんじゃないのか?」と聞きました。するとマーシャル人店員が後ろを見もせずに「ええ」。適当な対応をして経営者にプチ反発してるんですね、きっと(笑)。ところがそのプチ反発に対してフィリピン人経営者は真っ向方から対抗してくるんです。両手でマーシャル人女性店員のほおを掴みキスでもするのかと思ったら、顔を除菌剤のある方にぐっと向けて、「あれだよ~。見えるかな~。わかったかな~。取っ替えてね~。」お店にいた数人のお客さんとスタッフ、苦笑! マーシャル人女性定員の面目丸潰れというところですが、生活と仕事を共にしながら、明るく精力的に働くフィリピン人はちょっとだけ受け入れられているんでしょう。 そういえば、マーシャル人と話していて「フィリピン人の友達が」というフレーズはよく聞くのですが、「中国人の友達が」というフレーズは聞いたことがないんですよね。


空のうんこ kibween al

2015-12-16 18:03:00 | マーシャル諸島の紹介

すみません。いきなり「うんこ」だなんて。 

マーシャルに住み始めてしばらくたった時、雨上がりの地面に生えた苔を指して、「サト、これはね。マーシャル語では「空のうんこ」というんだよ」と教えてくれました。マーシャル語では、kibween alです。kibweenがうんこで、al が空。マーシャルの人は、「雨の後だけあるよ。だからこれは空から来るんでしょ」私は、「違うよ。これは、もともと地面にある苔だよ」と言ったのですが、結局私も苔の元がどこから来るのかよく知らないので、うまく説明できませんでした。

ただ、この写真は日本で最近撮ったものです。

ウィキによると、これは日本語では「イシクラゲ」というバクテリアの一種なのだそうです。雨が降ると増殖し、晴れると干からびるという簡単な原理で生き延びています。もっと驚くのは、日本では酢の物などとして古くから食されていたそうです。なんと中国でも食材として珍重されてきたそうなのですが、近年では乱獲を防ぐため、採取や輸出が禁止されたそうです。この驚くべき事実をマーシャルの母に伝えると、「マーシャルでも薬として食べるよ。幼児に与えるのよ。」食べてるの見たことないけど。。。

日本語のイシクラゲは、クラゲに似ているという外見的特徴から名付けられているんですね。視覚的なネーミングで単純です。関西人が「まんまやんけっ!」と言って嘆きそうなネーミングです。マーシャルではどうかというと、空がしたうんこが地上に落ちてくるということで、とても物語的です。さすがにマーシャルの人も、空がうんこしているとは思っていないですが、空から来ているとは思っている人はいるようです。そういえば、マーシャルの人たちは雨が降ると外を歩きません。雨が降ると離島では学校も事実上のお休みになることがあります。傘をさして歩くという習慣がないからだと思っていたのですが、違うかもしれません。もしかすると雨に当って体が冷えるのはよくないので、雨降りの外出を控えさせるために空から汚いうんこが降ってくるという「空のうんこ物語」が創られたのではないかと私は想像しています。

いまのマーシャル諸島では傘もカッパもあるし、なにしろ空がうんこしているとは本当は思っていないのだから、外出したらいいのにとは思いますが、日本人だって神社の鳥居や狛犬におしっこをかける人はいませんし、不法投棄が頻繁に行われるところに祠を建てると激減するそうです。マーシャルの人が雨降りの日に外出しないのは、祟られるとは誰も思ってないのに祠におしっこをかけない日本人と同じ気持ちの動きなのかもしれません。

雨にあたって体が冷えると大変。風邪をひいて仕事の効率が下がるかもしれません。そんなときこう思うのも悪くありません。「空からうんこが降ってるな~。出かけるのや~めたっ」

 


マーシャル諸島という名前

2015-09-02 14:17:47 | マーシャル諸島の紹介

マーシャル諸島という名前はおかしいと思いませんか?どう考えても、現地語じゃない。そう、これは、「マーシャル」というイギリス人の名前です。1778年、マーシャルを船長とするイギリスの囚人護送船がオーストラリアに囚人を降ろしたあと、東インド会社にチャーターされて広東に向う途中で、マーシャル諸島を二度目に「発見」したのでした。一度目の発見は、1526年、スペイン人探検家によるものでしたが、それから1778年の二度目の発見まで、実に250年間というもの、西洋社会から忘れ去られた存在だったのです。

ちなみに、1778年と言えば、アメリカが独立宣言した2年後で、英国人探検家ジェームス・クックがハワイを「発見」した年です。このころの日本は、天明の大飢饉に至った火山の爆発と冷害などの異常気象に苦しんでいた頃だそうです。

さて、もともとは、マーシャル諸島の海域の西半分を「ラリック」、東半分を「ラタック」、北部を海の端という意味の「カピンメト」と呼んでいました。ラリックは現在では、「ラリック列島」などと勝手に「列島」をつけて書かれていますが(私も書いてきました)、ラリックは海も陸も含む広い地域名のように使われてきたのではないかと私は思います。このような現地名は地図上には示されず、「マーシャル諸島」とされたわけです。

そのほか太平洋上には、たくさんの現地語ではない地名があります。ニューギニア島、ブーゲンビル島、イースター島、クリスマス島、ソロモン諸島、ニュージーランド、オーストラリア・・・きりがありません。

例えば、核実験が行われたキリバス共和国のクリスマス島は、ジェームス・クックがクリスマスの日(12月25日)に上陸したためにこう名づけられましたし、森村桂の『天国にいちばん近い島』で有名になったニューカレドニアは、ラテン語で「新スコットランド」という意味です。ほかには・・・ググることでだれでも簡単に調べることができます。

そもそもオセアニアという区分名。これもギリシア語から来ていますが、訳のわからない生き物が住む場所という意味なのだそうです。とっても失礼です!

ハワイはサンドイッチ諸島と命名されましたが、現在どうしてハワイと呼ばれているのでしょうか。現地語を使い続けるのと西洋の地名に変更されるのとの違いは、発見後早い段階で西洋名もつけられないうちから支配されるか、地理上の発見後地図上に記されてしばらくたってから、つまり西洋の名前が西洋社会で知られるようになってから支配されるかの違いのような気もします。

先日、アラスカのマッキンレー山が、先住民族の呼び名「デナリ」に改名されました。マーシャル諸島もいつか改名するでしょうか。「ラリック・タラック・カピンメト共和国」。このほうがKAWAIIくって、いいと思います。ただしマーシャル諸島で改名の動きは全くありません。